言葉の意味がよくわからなかったので、紫ってどういうこと?と尋ねると、「クーピーで塗ったみたいな紫の顔になる」と言います。
どうやら話を聞く限り、弟と母が2人きりの時だけ母の顔は紫色に染まるのだそうです。
とてもそんなことは信じられないので、弟がどうしてそんな気持ちの悪い事を考えるようになったのか悩みました。
「そんなわけないやろ。ママそれ聞いたら悲しむよ」と弟に言うと、弟は「ほんとやもん!」と言い、
「紫の顔のときはママずっと怒ってる。ずっと僕んことを追いかけてる」と言いました。
私はそれを聞いて少し怖くなりました。もしかして母ではなく、オバケがいるのでは?とも思いました。でも弟はまだ幼いですし、何かを勘違いしているのだろうと考えることにしました。
「ママ怒ってるんじゃなくて、あんたと遊びたいんじゃない?」と私が言うと、
「うん、紫の顔でママの顔が分からんから、怒ってるかわからん。でも、なんにも喋ってくれんねん」
と弟は言いました。
弟の言ってることは要領を得ませんが、やっぱり母は弟を楽しませるためにお面でも被っているのだろう。私はそう思って、弟を強引に家の中に戻して遊びに行きました。
その後やっぱり弟のことが気になった私は、遊びを早めに切り上げて門限より早く家に着きました。
窓からこっそり様子を覗いてやろうと思ったのです。
そこにはお面を被った母と、怯える弟の姿がありました。
母は白いフリスビーのような丸いお面に紫の油性マーカーを塗りたくったような手製のものを顔につけており、無言で弟を追い回していました。
弟は小さな声でぐずりながら母から逃げていました。
異様な光景に私はその場で固まってしまい、門限の時間になっても家に入る勇気が出ませんでした。「なぜ?」「なんのために?」と何度も考えましたが、その答えは見つからず、玄関の前でずっと立ち尽くすばかりでした。
やがて玄関のドアが開きました。そこには普通の母が立っており、ほっとしたような表情で「おかえり」と私に言いました。
「帰ってるならおうち入って来ればよかったのに。ママ心配するやん」
何事もなかったかのように話す母を直視できず、私はその後ろにいる弟の顔を見ました。
弟は怯えたような疲れたような様子で、私を恨みがましそうに見つめました。
その日以来私は常に弟と一緒にいるようにしました。弟のためというよりも、母をあの不気味な状態に一度たりともさせたくなかったのです。
今になって考えると、母は弟を虐待してストレスの吐口にしていたのだと思います。
大袈裟ですが、もしあのまま私が気づかずに弟と別行動を取り続けていたら、虐待がどこまでエスカレートしていたかわかりません。
私の勝手な勘違いや妄想である可能性も否めませんが、あの不気味な母の行動は今もたまにフラッシュバックするほどに恐ろしかったです。