雄のナンヨウエンマコオロギ(Teleogryllus oceanicus)は鳴き声でよく知られていて、その音は翅(はね)を互い違いに擦り合わせて作られる。翅の脈は特別な構造を形成していて、我々がコオロギの鳴き声として聞く振動を作ることができる。「機構は櫛目のやすりで爪を擦るようなものだ」と研究のリーダーでセント・アンドルーズ大学(英国)の進化生物学者の、ネイサン・ベイリー(Nathan Bailey)は話した。
夜ごとのセレナーデは雌を誘い出し、繁殖をうながす。しかし不幸なことにハワイの雄にとって、鳴き声は致死的な寄生バエであるオルミア・オクラケア(Ormia ochracea)もおびき寄せてしまう。このハエの幼虫はコオロギに穿孔して中で成長し、1週間前後して羽化するときに宿主を殺してしまう。
両種ともハワイにやって来たのは前世紀末だと考えられている(コオロギはオセアニアから、ハエは北アメリカから)。
新しい敵から自分の身を守るために、ハワイのカウアイ島に棲息する多数の雄コオロギがすぐに鳴くのを止めた。
◆闘いの歌
この変化は翅の形を変えて鳴き声を作れなくする変異によって起きたと考えられている。
この芸当は
20世代以内という、進化学的にはまばたきに等しい期間のうちに達成された。
コオロギの一生が数週間であることを考えれば、非常に急速なプロセスだ。
2003年までに、カリフォルニア大学リバーサイド校のマーリーン・ズック(Marlene Zuk)は最大で95%のカウアイ島にいる雄コオロギがもはや鳴かないことを発見した。この変異は音を作るのに役立つほぼ全ての翅の構造を消去し、フラットだが飛行には耐える翅が残されていた。
それから2年後の2005年、カウアイ島から101キロメートル離れたオアフ島の雄コオロギも沈黙し始めた。現在、オアフ島の約半分の雄が鳴かないことをベイリーは発見した。
彼のチームは2つ以上の個体群に沈黙変異が存在することに興味を持った。研究者たちは単純にフラット翅がカウアイ島からオアフ島に、たぶんボートや飛行機に乗って移住したのだと推測した。
>>2以降につづく
ソース:Nature News(29 May 2014)
Evolution sparks silence of the crickets
http://www.nature.com/news/evolution-sparks-silence-of-the-crickets-1.15323
原論文:Current Biology
Sonia Pascoal, et al. 2014. Rapid Convergent Evolution in Wild Crickets
http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960982214005247
プレスリリース:Cell Press/EurekAlert!(29-May-2014)
There's more than one way to silence a cricket
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-05/cp-tmt052214.php
>>1からのつづき
だが、オアフ島のコオロギの翅もフラットであったが、カウアイ島の個体群の翅とは著しく異なることが判明した。違いは裸眼でも分かるもので、オアフ島のコオロギはカウアイ島のコオロギより鳴くための構造が失われる割合が少なかった。
ベイリーらのチームは今日「Current Biology」誌に発表した研究の中で、両島のコオロギのゲノムを、DNAを小さな断片に分けて何十万個もの遺伝マーカー(ゲノムの中の小さな特徴のはっきりした領域)を検出する技術を使って分析した。フラット翅に関連する遺伝マーカーはカウアイ島とオアフ島の個体群でまったく異なっていた。「それはゲノムの中の異なった変異部分が各個体群の雄をフラット翅にさせてることを意味する」とベイリーは話した。
◆進化の最中
この証拠は変異が両島で独立に起こったこと示し、ハワイの沈黙コオロギを「収斂進化の素晴らしい例」にしている、とコーネル大学(ニューヨーク州イサカ)の進化生物学者、リチャード・ハリソン(Richard Harrison)は話した。
収斂進化の証拠は自然界のあちこちで見られるが、それが起こっているのを捕らえるのは難しい。この研究は音に誘引される寄生バエからの攻撃に対する表面的に似た収斂的解決が「根本的に違う方法で進化させられる」ことを示す、とエクセター大学の進化生態学者、トム・トレゲンザ(Tom Tregenza)は話した。「ゲノムは似た結果をまったく違う遺伝子のセットを使って作れる」
ベイリーのチームは現在、関係する遺伝子を特定してそれらがコオロギゲノムの残りの部分とどのように相互作用するのかを理解するための研究をしている。
トレゲンザによると、遺伝子の特定のほかに、別の「未来の研究のための面白い方法」として、鳴き声の喪失が雌がつがい相手を選ぶ能力にどう影響するか、そしてこれが持つ個体群の進化への影響を調査することが挙げられるという。
おわり
元々そういう遺伝子も用意されてたんじゃね
そんで状況によって最適な形質が出てきたとか
本来は欠陥コウロギだったやつが生き残ったわけか
しかし、本当の進化というのは、鳴く固体の中から生き残った奴らのことを言うのではないでしょうか
自然淘汰の例として面白いね。こういうのって意外と当たり前に起きてるのかもね
この記事で大切なことは
・コオロギが翅の形態を変化させることで、致死的な寄生バエの攻撃を回避した
・別のコオロギも同じように翅の形態を変化させて、攻撃を回避した
・ふたつのコオロギで発現した遺伝子は別のもので、「違う遺伝子の変化だが、同じ形態に進化した」ことが注目に値する
・それがわずか20世代でなされたことも注目に値する
ということで。べつに「ふつうに選択圧がかかっただけじゃん」「そういう遺伝子がもともと用意されていただけじゃん」に対してなにも反論するものでもない
ポイントは「違う遺伝子が、同じような形態へと進化させた。それもあっという間に」というところなわけで
……ちょっとだけ「生物というのは、実は種全体、世代を通していつもあたりの様子を伺っていて、個体というのはただの幻惑なのかもしれない」と、
DNA乗り物説からSFちっくな妄想をしてしまった。こういうの楽しい
>>24
音波や音量が変わっただけかも知れん
可聴音部分が消える方向への変化だと人手では追跡しにくくなる
比較的狭い範囲で♀に聞こえればOKとか
羽がないなどの理由で鳴かない個体が敵から生き延びて、似たような個体同士が
交尾してウイングレスなコオロギが増えるという感じなのかな。
通常の進化と比べて生存率を上げるための進化は飛躍的なため、進化の過程の個体
を見付けづらいというレスを見たけど、20世代で行き着いた今回のケースを見ると
納得がいくなあ・・・
ふむふむ
>両種ともハワイにやって来たのは前世紀末
>20世代未満
>2003年までに沈黙
>>25
中間形質は化石にも残らないね
進化って言うなら、何かこれまでできなかったことができるようになったとか、
それで元の群とは交配不能だとかいう話を期待しちゃうがなー
常に一定割合で鳴けないオスはいる
ただ、通常はそのオスが子孫を残せるチャンスは少ない(0ではない)
てことでは
人間社会で言う「声が大きいほうが多数派とはかぎらない」
ツーのもあるのでは
人間も、足の小指や爪が小さくなる
途中って聞いたけど、淘汰と違う
気がするけど、何なのだろう。
20世代で劇的なら人間に同様のことが起こったとしても1000年ぐらいは必要ってことか?
こりゃ首を長くせないかん
>>33
ちなみに日本で系図と年代が公開されている一族といえば当然に皇室だが
1000年前の一条天皇から今上陛下までで36世代だな
哺乳類のイルカと魚類の魚の形態が似ているのも収斂進化の好例。
遺伝的つながりがなくとも、選択圧(速く泳ぐとか)が同じだから似た形に進化する。
キリンとブラキオサウルスとかも収斂進化。
お前らとオオナマケモノも収斂進化と言える。
この手の進化論の話でいつも思うが、
もちろん神は信じないが、
第三者の客観的な判断によるものとしか思えないレベルの特殊構造の獲得、
といわゆる自然淘汰、
の間にはあまりにも隔たりが大きい様な気がしてなぁ
あと少なくとも人間以外の生物が、
自分自身をどうこうしようという意志を全く持たない事も含めて
長い生物歴史の中で寧ろ鳴くほうが一時的な流行だったと考えてみると
辛うじて生き延びてた鳴かない種が主流に返り咲いたと見るべきではないかな
生物の進化って面白そうですね
ところでこの寄生バエは昔からいたものなのかなあ?
ハワイはクサヒバリの仲間でも鳴かないのがいたような
あとは北西端のニイハウ島に、バンザ・ニホアというクビキリギス類似種がいたな
これはよく鳴く
遺伝子異常で鳴声が出ない個体が生まれ
鳴声を発する個体を横目に黙々と繁殖していった
と考えると、寧ろ寄生ハエの異常繁殖という線も・・
コオロギの鳴き音を楽しむヒトが減った
故にコオロギは鳴くのを辞めた
鳴かないでも繁殖できるなら、今まで何でずっと鳴いてたんだよ
そういうムダなことをする個体は、進化の過程でとっくに淘汰されてたはずじゃないのかよ
>>64
違う
今までは鳴いたほうが繁殖に有利だった
寄生ハエに出会ってしまい
鳴くことでの繁殖有利度<鳴かないことでの生存有利度
になったので鳴かない個体が増えた。
>>64
無駄なことが好きなメスがいるんだよ。人間と同じで。
>>78
そのメスの嗜好も、オスと同時に変わってるはずだよな
面白いなぁ
wktkだ
鳴かないのがどうやってメスにプロポーズするのか興味津々
ひょっとして元々はカブトムシも鳴いていた?
いやまさかな
俺達は彼女を作るためにもっと泣叫ぶ必要があるようだ。
泣かないオスが好きなメスも同時に淘汰された
このテーマでもう論文1本かけるだろ
鳴かないコオロギなら俺の部屋でもたまに見掛けるぜ。