26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:29:09.94 ID:ZC1hkslO0
連結部 歩き続けた男と、これからも歩く女の話
― 1 ―
以上が、晩年のブーンからあたしが伝え聞いた、あたしと歩き始める前の彼の旅のすべてです。
これまでに体験したことのないほどに早く訪れた、体感したことのないほどに凍てついた冬。
ロッキー山脈という場所の北端で倒れたブーンは、寒さをしのぐ穴倉の中、亡くなる直前までその話をしてくれました。
それまで、旅の一場面を断片的には話してくれたことはあったブーン。
けれども、このように体系づけて彼が話をしてくれたことは一度たりともありませんでした。
そんなブーンが、まるで遺言のように自らの旅を順を追って語り始めた時、
たき火の赤い光だけが照らす穴倉の中、立ち上がることさえ出来なくなっていた彼を見て、
ああ、ブーンはもう長くないんだなぁと、あたしは泣きながらそう思いました。
そんなあたしに、ブーンは力ない笑みでこう言いました。
「僕が死んだら、僕の体を食べるんだお。お前一人で」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:29:34.10 ID:A97D3/eR0
もうこうなったらドンと来いよwwwwwwww
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:29:53.99 ID:OIiSU5p90
支援
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:30:56.92 ID:ZC1hkslO0
ブーンが語らなかった、あれからの話をしましょう。
アシールを越え、ヒジャースを越え、砂漠を抜け、適当な町でラクダを売ってお金を作り、
防寒具や食料を買い込み、身支度を整えてカフカス山脈を登り切り、
未開の地とされていた北の大地へと足を踏みいれたあたしとブーン。
その道のりは、あたしにとってはもちろん初めてのもの。
しかしブーンにとっては、これまでの旅路を逆行するだけのものでした。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、他の道を通ってもいいんじゃないの?」
赤土が目立ち始めた大地の上で、あたしはそう尋ねました。
かつて辿った同じ道を進むことは、彼にとってつまらないものではないかと思ったからです。
でも、ブーンは言いました。
( ^ω^)「僕たちには目的地があるお。それなら、確実にそこへ辿りつけるよう、
見知った道を歩く方がいいお。それに……」
それからブーンは目を細め、あたりの風景を愛おしそうに眺めて、言いました。
( ^ω^)「僕はこんな道を歩いてきたんだなって、そう振り返るのもいいもんだお」
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:32:18.68 ID:ZC1hkslO0
赤土の大地は、本当に何もない世界でした。春と夏でさえ、食糧は満足に手に入らない。
前もって大量の保存食を仕込んでいなければ、とっくの昔にあたしたちは飢え死にしていたことでしょう。
「確実にそこへたどり着けるよう、見知った道を歩く方がいい」
ブーンの言葉は実に的を射ていました。彼がこの大地の特徴を知らなければ、
旅の素人であるあたしを引き連れたこの二人旅は、きっと早々に頓挫していたはずです。
ξ゚⊿゚)ξ「それで、今はどこへ向かっているの?」
( ^ω^)「旧友の墓に向かってるんだお」
赤土の上、そりをゴロゴロ引きずり歩き、顔色を変えずブーンは答えます。
彼の回答に、初めて出会った時見せてもらったあの絵を思い出し、あたしは続けます。
ξ゚⊿゚)ξ「それって、あの絵を描いた人の? お墓参り?」
( ^ω^)「それもあるけど、一番の目的は仲間の確保だお。
これから進む道は、彼らがいないとどうしようもないんだお」
旅の仲間。こんな植物さえろくに育たない世界の上で、いったい誰があたしたちを待っているんだろう。
ちょっぴり不安になったけれど、それ以上にわくわくしてしまったのは、当時のあたしがまだ若かったからでしょう。
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:33:47.63 ID:ZC1hkslO0
さて、少しだけ話は脇道に逸れます。
初めの目的地である絵描きさんの墓にたどり着くまでの間に、あたしはブーンからあることを学ばされました。
それは、言葉です。
ξ;゚⊿゚)ξ「え? 違う言葉なんてあるの?
嘘でしょ? 親指立てて『嘘です!』って言ってよ?」
( ^ω^)「嘘です! なーんて言うわけないだろうがお。
世界は広いんだお。その広さの分だけ、違う言語が存在するんだお。
というわけで、お前にはこれから、二つの言語を覚えてもらうお」
ξ゚⊿゚)ξ<どひー
そんなわけで、旅の初期、北の大地に初めての村を見つけるその時まで、
あたしとブーンの会話は、ロシア語と英語、そんな名前の言葉を覚えるためのやりとりに終始しました。
ああ、こんなことを学ばなければならないだなんて、歩くって辛いことだなぁと、改めてあたしは思いました。
言葉を覚えることなんて、辛いことでもなんでもなかったと、あとから嫌でも思い知らされるのに。
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:35:23.26 ID:ZC1hkslO0
そんなこんなで歩きはじめて二年間。
その年の秋の終わり、赤い地平線の向こう側に、あたしとブーンは目的地を見つけ出します。
( ^ω^)「あれが旧友の……ショボンさんのお墓だお」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
山の遠景とは明らかに異なる、たくさんの高い四角い影の連なり。
それは、アシールを越えたどり着いたメッカ遺跡のように物寂しく、
だけど遺跡とは絶対的に異なる、体の奥底から寒気を感じさせてしまう何かもった、そんな場所でした。
正直言って、足を踏み入れたくはなかったです。だけど、ブーンは進み、あたしもその後を追いました。
そして、高くて四角い連なりが、石のような素材の住居のようなものだとわかるほどに近づいたその時、
ブーンは突然足を止め、こんなことを呟きました。
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:36:43.46 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「……おかしいお」
ξ;゚⊿゚)ξ「え? どうしたの? 気分でも悪いの?」
( ^ω^)「いや、逆だお。気分が悪くならないんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「……はぁ?」
もしかして、ブーンもあたしと同じように軽い吐き気でも感じているのかと思っていたら、
彼の口から飛び出したのは、まったくわけのわからない言葉。
( ^ω^)「やっぱり君は……今も氷の中にいるんだおね」
呆けるあたしをよそに、目の前にそびえる四角い連なりを見上げ、寂しげにそう呟いたブーン。
その言葉の意味など、当時のあたしには知る由もありませんでした。
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:38:15.41 ID:ZC1hkslO0
それから間もなく、ブーン曰く「旧友のお墓」内へと進んだあたしたち。
そんなあたしたちへ向け、数匹の犬たちが襲いかかってきました。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ! こんなところになんで!」
( ^ω^)「ツンデレ、待つお。ジャンビーヤは仕舞うお」
ξ;゚⊿゚)ξ「だ、だって!」
( ^ω^)「いいから。ここは僕に任せるお」
そう言って、ジャンビーヤを引き抜いたあたしを制し、
腰のナイフを抜くことなく、迫りくる犬たちの前に立ったブーン。
耳をピンと立てながら飛びかかってきた一匹の牙が、ブーンの右腕を服の上から襲います。
しかし、突然、噛みついた一匹の耳がしゅんとしおれました。
それからなんと、一匹は嬉しそうに尻尾を振り、ブーンの足元にすり寄ったのです。
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:39:34.15 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「おっおっお。やっぱりこの服には、お前のじーちゃんの匂いが染みついているのかお?」
それからブーンは腰を屈めると、初めの犬と同じように尻尾を振って近寄ってきた残りの犬たちの頭を撫でます。
わけのわからないあたしは、とりあえず、噛まれたブーンの右腕について尋ねました。
ξ;゚⊿゚)ξ「だ、大丈夫なの、それ?」
( ^ω^)「ああ、なんのことはないお。犬の牙程度じゃ貫けもしない、そんな素材で出来てるんだお」
それが、超繊維という素材のマント。千年前の英知の結晶。
このお墓を旅立つ際、そのマントをあたしが着ることになるなんて、この時のあたしには思いもよりませんでした。
75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:41:04.59 ID:ZC1hkslO0
そんなひと悶着の後、数匹の犬を引き連れ、お墓の奥の奥へと進みました。
ぽっかりと開けた広場にたどり着いたあたしたちは、
他の犬たちとは明らかに異なる、風格のある四匹の犬を前にします。
そのうちの三匹が、ブーンの姿を確認するや否や、
本当に嬉しそうなそぶりを見せ、彼にじゃれつきました。
( ^ω^)「おっおっお。じゃじゃ丸、ぴっころ、ぽろり、久しいお。
すっかり立派になったじゃないかお。ここにいる犬たちはお前たちの子どもかお?」
三匹「にこにこぷん!」
三匹の頭をひとしきり撫でたのち、広場の真ん中でじっと座り続ける一匹の老犬に、ブーンは視線を送りました。
それから彼は老犬へと歩み寄り、その傍らに立ち、老犬と同じ一点を見つめながら言いました。
( ^ω^)「ショボンさん、お久しぶりですお。
そして、ちんぽっぽ、久しいお。お前も歳をとったおねぇ」
77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:41:57.01 ID:fap56Jzi0
wwwwww
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:42:07.94 ID:TyCdEIZmO
支援
79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:42:10.60 ID:A97D3/eR0
相変わらず戯けた鳴き声だwwwww
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:42:44.63 ID:ZC1hkslO0
(*'ω' *)「ちんぽっぽ!」
老犬の特徴的な鳴き声ののち、しばらく黙りこくった一人と一匹。
そしてブーンはその場に屈みこむと、足もとから何かを拾い上げました。
その様子を三匹の犬とともに後方で眺めているだけのあたしには、それが白い棒のようなものだとしか分かりませんでした。
けれども、ブーンにはそれが何なのかも、誰のものなのかも、はっきりとわかっていたようでした。
( ^ω^)「……ビロードは一足先に逝ったのかお。
あいつは……孫の顔を見れたのかお?」
(*'ω' *)「ちんぽっぽ! ちんぽっぽ!」
( ^ω^)「……おっおっお。
君が僕の代わりにあいつを看取ってくれたのかお?
本当に……ありがとうだお……」
(*'ω' *)「ぼいん! ぼいん!」
それから二度、大きく中空へとび跳ねた老犬。
以後しばらく、ブーンと老犬はじっと一点を見つめたまま、彼らの間にやりとりは一度もありませんでした。
けれど、その沈黙は不思議と自然なものでした。むしろそうすることの方が、彼らにとっては当たり前なのだと思えるほどに。
きっと彼らの間には、あたしにはうかがい知ることの出来ない強い絆があったのでしょう。
だからあたしは、後方で彼らを見つめたまま、四匹の犬の名前についてのつっこみの言葉を、黙って飲み込みました。
88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:45:21.70 ID:ZC1hkslO0
その後、雪が降り始めたこともあって、ブーンとあたしは季節が移ろうのをそこで待つことにしました。
ブーン曰く「これまでで一番暖かい冬」とのことでしたが、
去年のこの時期はまだカフカス山脈を越えていないこともあり、
あたしにとっては初めて体験する本格的な冬、その寒さは想像を絶するものでした。
しかし、ブーンのおかげで防寒対策は十分だったし、
食料は犬たちがどこからから狩ってくる小動物の肉があったし、
冬も本番となりそれらの量が少なくなっても、残っていた保存食と少ないながら食べられる野草が近辺にあったので、
ブーン曰く「雪解けが早かった」こともあり、あたしたちはなんとか冬を越えることができました。
けれど、その間、一つだけ悲しい出来事がありました。
ちんぽっぽちゃんがこの世を去ったのです。
本当にあと少しで冬が終わる、そんな最後の冷え込みの中で、
ちんぽっぽちゃんの体はあの広場に横たわったまま、二度と動くことはありませんでした。
その夜のことを、あたしは一生、忘れることは出来ないでしょう。
96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:47:42.63 ID:ZC1hkslO0
ちんぽっぽちゃんが亡くなり、翌日彼女を広場に埋葬しようとなったその夜、
降りやんだ雪の大地の上、ブーンはずっと広場の真ん中に座り込んでいました。
冬の間、ちんぽっぽちゃんやビロード君、
そしてショボンさんとの旅の話をいくつか断片的に聞かされていたあたしは、
ブーンの落ち込みようも無理のないことだと、そっとしておこうと、
初めの方は力ない背中を離れたところから眺めていました。
けれど、満月が天頂に達したあたりで、
ずっと座りこんでいたブーンが立ち上がり、腰のナイフを引き抜いたのです。
雪により反射した銀色の月光が上下から世界を照らす中、
それから彼が何をするのか、それがあまりに心配でならず、あたしはいつの間にか、彼の背中に声をかけていました。
ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿な真似するんじゃないわよ。あんたらしくもない」
( ^ω^)「……いたのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。ずっとね」
振り返ることなく呟いたブーンは、スッと、ナイフを腰の鞘へと戻しました。
それからまた屈みこみ、黙りこむだけ。
音のない晩冬の夜、あたしは銀色の雪の上を彼に向かって歩きました。
そしてあたしが彼の側に立ったその時、ぽつりと、ブーンのものとは思えない弱弱しい声が聞こえました。
99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:48:51.83 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「みんな……僕より先に逝ってしまうお」
声には力はなかったけれど、そう呟くブーンの顔は、いつものにやけ顔でした。
そうであるのが悔しいと言わんばかりに、ブーンは強く、拳を雪の上へと打ち付けました。
( ^ω^)「僕と関わった人は皆、僕と別れるか、僕より先に逝ってしまうんだお。
それなのに、僕は一度しか泣けやしなかったんだお。今も泣けやしないんだお。
僕はきっと悲しいのに、それなのに目からは涙がこぼれないんだお。
ちんぽっぽが死んだっていうのに、どうしても僕は泣けないんだお。彼女に申し訳ないんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「そうやって、泣けないまま誰かを看取って、それを繰り返して、
いつか誰もいなくなって孤独に死ぬのかと考えると……ちょっと寂しいんだお」
104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:50:28.23 ID:ZC1hkslO0
その言葉に、先ほどナイフを取り出したブーンの背中を思い出しました。
彼はきっと、ナイフで自分の体に傷をつけ、その痛みで涙を流せないかを試そうとしていたのでしょう。
彼が泣けないというのは、それほどまでに悲しみが度を越してしまったのではなく、
言葉どおり、本当に彼は泣くことが出来ないのだと後に知らされることになるのですが、
その時のあたしには、そうやって苦しんでいるブーンそのものが彼の涙なのだと、そう思えてなりませんでした。
だから、屈みこんで小さくなってしまった彼の背中に、あたしは思わず、こう声をかけていました。
ξ゚ー゚)ξ「大丈夫。あんたのその姿だけで、ちんぽっぽちゃんには十分伝わっているよ。
だってあんたたちは、ずっとずっと、一緒に旅してきたんでしょ?」
( ^ω^)「……」
ξ゚ー゚)ξ「それに、さ。あたしはあんたから離れない。あんたより先になんか死なないよ。
あんたが死ぬ時はあたしが看取って上げる。だからさ、顔を上げなよ。あんたらしくもない」
108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:52:04.85 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「……お」
屈みこんだまま、短い声を出してあたしを見上げたブーン。満月に照らされた彼の顔が妙に若々しく見えたことと、
あたしはなんて恥ずかしいことを言ってしまったんだという自己嫌悪から、慌ててあたしは弁解しました。
ξ;゚⊿゚)ξ「か、勘違いするんじゃないわよ! あんたには借りがあるから、それを返すってだけだからね!
それに、あんたから離れないってのは、えっと、あんたから旅の方法を盗むためってだけなんだから!」
もっとも、あの時はあたしも若かったから素直になれなかっただけで、初めにかけた言葉はあたしの本心でした。
そういうところがあたしの悪いところで、けれどそれは若さを失った今となってもほとんど改善されていません。
だけど、ブーンはそのことを察してくれていたのか、
立ち上がり、真正面からあたしの顔を捉えると、ほほ笑みながらこう言ってくれました。
109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:52:07.59 ID:TyCdEIZmO
支援
110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:52:32.74 ID:A97D3/eR0
なんというテンプレートなツンデレwww
112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:53:14.35 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「……ツンデレ」
ξ;゚⊿゚)ξ「な、なによ!?」
( ^ω^)「……ありがとうだお」
その時の、寂しさと嬉しさが交り合ったような何ともいえないブーンの笑顔を、
あたしは絶対に忘れることができません。
ξ*゚⊿゚)ξ「……」
そのあと、あたしに背を向け、頭上で輝く満月を見上げたブーン。
そんな彼の大きな背中を、ちょっぴり「いいなぁ」と感じてしまったことは、
結局、彼には伝えることが出来ませんでした。
114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:54:30.22 ID:ZC1hkslO0
早い春が訪れました。
あたしたちはこれから、東に向かって旅を続けます。新たな旅の仲間を連れて。
( 'ω' )「まんこっこ!」
( *><*)「わっかないです!」
まんこっこ君とわっかないですちゃん。冬の間、ブーンにとてもよく懐いていたこの二匹の子犬。
もうすかうというへんてこりんな名前の一人と二匹のお墓を旅立つ際、
旅のパートナーとしてブーンはこの二匹を選びました。
まんこっこ君は、ちんぽっぽちゃんにとてもよく似た雄犬でした。
そしてわっかないですちゃんという雌犬は、ブーン曰く、ビロード君にとてもよく似ているそうです。
ちなみにこの二匹の命名はブーンであって、決してあたしではありませんので、どうかあしからず。
124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:56:35.33 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「それじゃあ、僕たちは行くお。お前たち、本当に世話になったお。
これからも長生きして、絶対に僕より先に死ぬなお。わかったかお?」
三匹「ドレミファドーナッツ!」
別れ際、じゃじゃ丸、ぴっころ、ぽろりの三匹は、彼らの子どもである他の犬たちを引き連れ、
大きくしっぽを振って、あたしとブーンを、
そして息子と娘であるわっかないですちゃんとまんこっこ君を、見送ってくれました。
あたしたちは歩きます。
うららかな春の日差しの下、わずかに舞い散るなごり雪とともに、
ショボンさんが、ビロード君が、ちんぽっぽちゃんが、三匹の子犬が、
そしてブーンが、かつて辿った遥かなる道の上を。
ブーンがちんぽっぽちゃんの毛皮を、あたしがブーンの超繊維のマントを羽織って。
129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:58:33.12 ID:ZC1hkslO0
それから二か月は、何もない赤い大地を歩き続けました。
変わらない風景。変わらない色。
いい加減それに飽き始めていた頃、あたしは地平線の彼方まで続く一本の道を見つけます。
( ^ω^)「これがシンワの道……シベリア鉄道だお」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
あたしは、唖然としました。
二本の錆びた鉄の棒が同じ間隔を保ったまま、どこまでも伸び続けているのです。
その上に、ブーンはそりを載せました。
そりについていた車輪は、二本の棒にカッチリ合わさっていました。
そのとき、ブーンがこの果てしない道の上を歩き抜いてきたのだという事実がハッキリとした現実味を帯びてきて、
あたしは恥ずかしささえも忘れ、ぼーっと、地平線の向こうまで続く道の先を見据える彼の横顔に見惚れてしまいました。
( ^ω^)「ん? 僕の顔になんか付いてるのかお?」
ξ;゚⊿゚)ξ「い、いや、なんでもないわよ! この馬鹿タレ!」
不思議そうな顔であたしに話しかけてきたブーンから慌てて眼をそらし、二本の棒へと視線を移しました。
視線の先では、まんこっこ君とわっかないです君が道の匂いを嗅いでおり、
それから二匹の子犬は、嬉しそうに尻尾を振りながらその先を見据え、一つ、大きな遠吠えを響かせました。
130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 20:59:19.14 ID:OlA8BVfx0
支援
131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:00:36.18 ID:Pb1oVXt50
支援
132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:00:37.17 ID:ZC1hkslO0
こうして、シンワの道、シベリア鉄道というものを辿る長い旅が始まりました。
二本の棒、これを線路というそうですが、
その上をそりは滑らかに転がってくれ、進む足取りは快調、
赤土地帯を間もなく抜け、いくつもの河が流れる湿地を通り越し、
夏、あたしたちは巨大な山脈の前へたどり着きます。
( ^ω^)「やれやれ、ウラルまで来るのに結構かかったお。
ま、あの時は相当急いでいたから、比べてもしょうがないことかお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの? その話はまだ聞いてないよ? 聞かせてよ」
( ^ω^)「かまわんお。ただし、英語かロシア語かでだお」
ξ゚⊿゚)ξ<どひー
もちろん、もすかうでも、それ以後でも、ブーンからの言葉の教育は続いていました。
もっとも、あたしは彼とは比べようもなく頭が悪いから、ウラルという名の山脈を越え、初めての村に入り、
彼らと会話が出来ないことを悔しく思うその時まで、学んだ言葉なんてほとんど頭に入っていなかったけれど。
134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:02:14.32 ID:dpButA3gO
これはもう映画化できるだろ
支援
135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:02:36.62 ID:ZC1hkslO0
ウラル山脈。たどり着いたその山は、ブーン曰く、
土地だけじゃなく文化をも分け隔てる、カフカス山脈と似た意味を持つ山々なのだそうです。
急こう配な斜面が続き、そりを引きずり歩くことはなかなか確かに困難だったけれど、
ヒジャーズのそれと比べれば大したことはありませんでした。
あたしもなかなか様になってきたなと、その時は喜んだものです。
やがてウラルの頂まで辿りついたあたしたちには、登りとは一転、
そりに乗っかり斜面を滑り下りる、そんな早くて楽しい下りの旅が待っていました。
ξ゚ー゚)ξ「いやっほーい!」
晩夏の空、ピークを過ぎた山々の緑たちの濃い緑の中。体感したことのないスピードで走るそりの上。
過ぎ去る空気が運んでくれる匂いや、流れていく景色が見せてくれる初めての線にも似た色どりの景色、
それらに胸震わせたあたしの嬌声は、山彦となって世界に響きました。
( ^ω^)「おっおっお。はしゃぐ姿はジョルジュとそっくりだお」
風を切って進むそりの上、そんなあたしを、二匹の子犬を抱きかかえながら横目で眺め、ブーンはにこやかに呟きました。
141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:04:06.74 ID:ZC1hkslO0
間もなくウラルを下り終えたあたしたち。
そこに、あたしにとっては初めての、ブーンにとっては懐かしの村を見つけ出します。
ズラトウスト。その村の名前は、確かそんな感じでした。
村に足を踏み入れたあたしたち。
村人はブーンの姿を見るや否や、慌てて村長を呼び、ブーンに向かってこう尋ねました。
「カミノクニ……もうすかうはあったのですか?」
( ^ω^)「はい。ありましたお」
即答したブーン。のちに開かれた宴で、ブーンは村人たちへ「カミノクニ」の詳細を語りました。
それは恐らくもすかうのことだと、さすがのあたしでも気づいていて、
そしてブーンは、あたしたちが滞在したもすかうとは似ても似つかない、そんな「カミノクニ」を彼らに語っていました。
あたしは、ブーンの言うとおりあたしとは違う言葉を話す村人たち、その姿よりも、
真顔で平然と嘘をつく、そんなブーンの姿に驚いていました。
だからその夜、与えられた部屋の上で、久方ぶりの寝どこのぬくもりを享受しながら、あたしはブーンにこう尋ねました。
143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:04:43.55 ID:OLJ6GPRLO
支援
ドラマになってほしいもんだ・・
145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:05:47.19 ID:ZC1hkslO0
ξ゚-゚)ξ「あれで、本当に良かったの?」
( ^ω^)「……良かったんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「嘘だよ! だって、カミノクニっていうのは、もすかう……ショボンさんたちのお墓のことでしょ?
それなのにブーンは、お墓とは全然違うことを村のみんなに話していたじゃない!」
暗い部屋の中、知らず大きくなってしまっていたあたしの声が響きます。
だけどブーンは、いつも通りの声で、こう言いました。
( ^ω^)「僕が村の人たちに話したのは、ショボンさんが見たもすかうの姿だお。
僕やお前にとってはお墓のように感じられたそれも、ショボンさんには楽園のように感じられたんだお。
つまり、ものの価値や認識っていうのは、個々人にとって大きく異なるんだお。
だから、僕やお前の感じたもすかうも正しいし、僕が語って聞かせたショボンさんのもすかうも正しいんだお。
僕が彼らに語ったカミノクニは、ある一つの見方からすれば、やっぱり正しいものなんだお」
それからブーンはむくりと上半身だけを起こすと、暗闇の中であたしを見据え、言いました。
( ^ω^)「その究極、価値や認識を一つの定義としてまとめることが絶対的に不可能な、
そんな曖昧な蜃気楼のような存在を、人は『カミノクニ』って呼ぶんじゃないかって、そう思うんだお」
150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:07:27.47 ID:ZC1hkslO0
その後、春が訪れるまでズラトウストに滞在を許されたあたしたち。
ここであたしは必死にロシア語を勉強しなおし、村を発つ頃には日常会話ならなんとかこなせるようになっていました。
その間、ブーンは村の人々にいろいろなことを教えていて、彼らから大いに喜ばれていました。
彼らと手を取り笑い合うブーンを見て、旅の素晴らしさを、歩くということの素晴らしさを、あたしはひしひしと感じました。
そして、春。村人たちから頂いたたくさんの救援物資をそりに乗せ、
このひと冬で別犬のように大きくなった二匹の子犬とともに、あたしとブーンはさらなる東へと進み始めました。
その旅路は、まんこっこ君とわっかないですちゃん、ブーンとあたし、それぞれがペアとなり交替でそりを引くというもの。
休憩も満足にとれ、食糧も比較的豊富だったこの大地の旅は、とても快適なものでした。
二匹の子犬が引くそりの上、寝転がりながら風を受け、緩やかに流れていく風景を眺めながら、あたしは思います。
「ジョルジュに、パパやママに、サナアのみんなに、あたしの見ているこの風景を届けてあげたい」
そのことをブーンに伝えようとしたとき、彼は子犬たちに声をかけてそりを止め、どこかへ走りだしていきました。
ξ;゚⊿゚)ξ「ど、どこへ行くの?」
( ^ω^)「うんこだお」
死ねばいいのにと思いました。
152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:08:59.18 ID:cdTcdMmnO
しどいw
154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:09:11.74 ID:A97D3/eR0
支援w
155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:09:20.17 ID:23BOro4k0
ブーンwwwwwww
157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:09:49.09 ID:ZC1hkslO0
やがて季節は移ろい、あたしにとっては四度目の冬。
あたしは、一つの旅の終着点へとたどり着きます。
イルクーツク。かつてショボンという絵描きが胸震わせ、いくつもの絵を残した場所。
ズラトウストと同じようなやり取りを経て滞在を許されたあたしたち。
その冬の終わり、あたしはブーンに、とある場所へと連れて行かれます。
( ^ω^)「ここが、バイカル湖だお」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
息を呑む。声も出ない。
眼下に広がる三日月とあたり一面の白は、そう形容するにふさわしいものでした。
けれども、旅のはじめに見た銀色のサナア、それには及ばない光景だったのもまた事実。
あの時以上の感動にあたしは出会うことが出来るのかと疑った、その日の夜。
持参したテントの中で眠りこけていたあたしの旅は、
深夜、ブーンに起こされたのち目にした光景によって、とりあえずの終わりを告げました。
162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:11:50.29 ID:ZC1hkslO0
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
澄み切った夜空。瞬く無数の星の真ん中に浮かぶ三日月。
その光が雪の白を、眼下に広がる同じ形をしたバイカル湖を、銀色に染め上げていました。
そして、音のない世界に緩やかな風が吹き、積もった雪の表面を舞い上げます。
それらが三日月の光を帯び、キラキラと、まるで地上の星のようにあたしの周囲で光り輝くのです。
( ^ω^)「どうだお? これが僕の思う、世界で二番目に綺麗な光景だお」
雪崩が起きないよう注意を払った、ブーンの小さな声があたしに届きます。
あたしはそれを受けて、溢れる涙を止めることができませんでした。
「これが、あたしが見た中で、あたしの世界で一番綺麗な景色だ」と、
「きっとこれからもそうだ」と胸を張って言えるのに、涙がとめどなく頬を伝うのです。
ξ;⊿;)ξ「あれ……なんでだろう……変だな……嬉しいのに……
あたしは世界で一番……綺麗な景色を見つけたのに……なん……で……」
その時、あたしは気付きます。ああ、あたしの旅はこれで終わってしまったんだ、と。
170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:13:50.08 ID:ZC1hkslO0
それは、当然の涙でした。何もかもを捨てて歩き出したあたし。
それなのに、見つけ出したかった光景は四年足らずで見つかってしまったのです。
たかがこの四年間のために、あたしは何もかもを捨てたのでした。
こんなあたしを愛してくれたジョルジュを捨て、ここまで育ててくれた両親を捨て、
生まれ故郷のサナアを自ら手放し、そうやって歩いてきた目的が、わずか四年で達成されてしまったのです。
ではこれから、あたしはどこへ向かえばいいのだろう? 何を目的に歩けばいいのだろう?
一応、ブーンが生まれた場所という目的地はある。だけど、旅の一番の目的を達した今、
襲いかかってくるこの虚無感に勝る価値など、ブーンには申し訳ないけれど、そこには感じられませんでした。
サナアには当然戻れません。
戻れたとして、今更ジョルジュに、両親に、町のみんなに、どんな顔をして会えばいい?
そんな顔などあるはずがありません。
ならばあたしは、これからどこへ向かえばいい?
何を求めて、この広い世界の上を歩けばいい?
176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:15:17.53 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「それを知りたければ、歩き続けるしかないんだお」
不意に、ブーンが声を発しました。まるであたしの心中を見透かしたかのようなその言葉。
留まることを知らない涙があたしの頬を濡らす中、
バイカル湖を見つめたままのブーンは、心なしか懐かしげな笑みを浮かべ、こう続けます。
( ^ω^)「お前がその意味を知りたければ、歩き続けるしか道はないお。
歩いて歩いて歩き続けて、立ち止まって振り返った時、それまでのすべてがカッチリ噛み合う、
そう説明づけられるだけの意味が、いつか必ず見つかるはずだお。この僕のように、だお。
だからお前は、これからも歩き続けるんだお」
ξ;⊿;)ξ「……」
そしてブーンはあたしの方へと歩み寄ると、あたしの肩に両手を乗せ、こう言ってくれました。
( ^ω^)「おめでとうだお。これからお前の、本当の旅が始まるんだお。
その先にお前が何を見つけるか、これからお前がどこまで歩くのか、出来る限り僕は見届けるお」
180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:16:54.07 ID:ZC1hkslO0
照りつける三日月。それを反射する銀色の雪。
さらさらと舞う風に吹かれた地表の雪たちが、あたしとブーンを包みました。
そして、ブーンはあたしの肩から手を放すと、懐から数十枚の紙を取り出しました。
ξ;⊿;)ξ「……何、これ?」
( ^ω^)「地図だお。この冬の間に書いておいたんだお」
それは地形やその名称だけではなく、さまざまな注意点、
たとえば何が食料としてあるのか、どう道を辿ればいいかなど、
そういう類のことまでびっしりと、ロシア語と英語、そしてサナアの文字の三つで書かれていました。
それからブーンは、紙の束をめくり、一番下にあった一枚を広げると、ある二点を指差し、こう言いました。
( ^ω^)「ここが、僕の旧友たちがいる村。そしてここが、僕が生まれた場所。
もし僕が道半ばで倒れたら、この地図を頼りに歩いてくれお」
187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:18:49.27 ID:ZC1hkslO0
ξ;⊿;)ξ「……ばかぁ……うぇ……
そんなざみじいごと……ひっく……言わないでよぉ……」
けれど、鼻水と涙でぐしゃぐしゃのあたしの声は届かなかったのか、
ブーンは身を翻し、どこかへ向かって歩き出します。
遠くなっていく彼の背中が、その時のあたしには手の届かないどこかへ行ってしまうような気がして、
雪崩が起きるから絶対に出すなと忠告されていたにもかかわらず、あたしは大声を銀色の山々に響かせます。
ξ;⊿;)ξ「ブーン! どこに行くのよ!? あたしを置いてかないでよ!」
その時、強い風が吹きました。それにより舞い上がった無数の雪たちが、中空を銀色に染め上げます。
キラキラと光を反射する彼らを間に置き、あたしへと振り返ったブーンは、変わらないにやけ顔で、こう言いました。
( ^ω^)「うんこだお」
本当に死ねばいいのにと思いました。
194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:20:38.16 ID:A97D3/eR0
ショボと同じこというなよ……
195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:20:54.03 ID:wiYTi/FNO
てめえwwwwww
196: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:21:02.61 ID:X8TxPhY8O
こんなかっこよくうんこに行きたい支援
197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:21:04.24 ID:ZC1hkslO0
春、イルクーツクを立ち、再び東へと向かい始めたあたしたち。
新たに「歩く意味を探す」という目的が加わり、この旅立ちがあたしの第二の出発となりました。
これ以後の道程に、しばらくはこれといった出来事は起こりませんでした。
引くそりの重みを体に感じ、疲れた体をそりの上で休め、
景色を眺め、時には故郷の人々に思いを寄せたり、あたしの歩く意味について考えたり。
また、ロシア語はそれなりに話せるようになったので、本格的に英語という言葉の勉強も始めたり。
特筆すべきことといえばこれくらいでした。
そうやって道を進み、冬にツインダという村にたどり着き、他の村と同じようなやりとりをそこで交わし、
さらにその翌春、あたしたちはついに、シンワの道、シベリア鉄道の北端へと到達します。
( ^ω^)「懐かしいお。この先で僕は、お前たちのばーちゃんと、その主人に命を拾われたんだお」
( 'ω' )「まんこっこまんこっこ!」
( *><*)「わっかないです!」
ベルカキト。そこから先には線路などなく、
あたしたちは数年ぶりにむき出しの地面でそりを引きずり、北へと歩みを始めました。
そして、歩き始めて数日。
とある平原を前にしたブーンは、唐突にその上に寝転び、こんなことを口にしました。
201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:21:55.58 ID:GB2lMaOh0
ふぅ…
202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:21:57.41 ID:OIiSU5p90
支援
205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:22:52.71 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「考えてみれば、僕はここで死んでいたはずなんだお」
晴れ渡った青空を見上げ、大の字に寝転んだブーンは、
腰にいつも携えているあのナイフを抜き、切っ先を天に掲げます。
( ^ω^)「だけど、あの時ショボンさんとちんぽっぽに助けてもらったから、僕はここにいるんだお。
それだけじゃないお。ツンデレも、わっかないですもまんこっこも、だからここにいるんだお」
ξ゚ー゚)ξ「ふふ。あんた最近、昔以上に説教臭くなってきたわね」
そんなブーンの隣に、あたしも寝転びました。
それからジャンビーヤを取り出し、ブーンと同じように三日月形のその切っ先を青空へと掲げました。
そして、ブーンは呟きます。
( ^ω^)「僕たちの旅に栄光あらんことを」
続けて響いた二匹の遠吠えの中、「それ、何か意味があるの?」と笑って尋ねれば、
「ま、おまじないみたいなもんだお」と、ブーンも笑いました。
208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:24:32.80 ID:ZC1hkslO0
それからのおよそ二年間にも、特筆すべきことは何もありませんでした。
というより、あまりに厳しい道のりで、正確なところを覚えていない、思い出したくはないというのが正直なところです。
あり得ないくらいに長く寒い冬。
ツインダで入手していた大量の保存食はみるみる内に目減りしていき、あたりに存在する食料はごくわずか。
どうしてそこを越えられたのか、今でも不思議なくらいです。
冬の大半は深い穴倉で火を囲み、二人と二匹で身を寄せ合ってじっとしているだけ。
たまの晴れ間は必死に食料を探す。訪れた短い春と夏は、冬に備えた大量の保存食作りに時間をとられ、
これまでとは比べ物にならないほど、進むことの出来た距離は短いものとなってしまいました。
そんな、「歩くとは辛いことばかりだ」というブーンの言葉が身に染みて理解できた二年間。
その二度目の冬の終わり、ついにあたしは、
ブーンをして「世界で一番綺麗な場所」と言わしめる、一面氷に覆われた青色の世界、
ベーリング海峡へと到着します。
213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:26:21.69 ID:ZC1hkslO0
ξ;゚⊿゚)ξ「すごいね、ここ。本当に空を歩いてるみたい……」
青空が見えたその時、氷面は空の色を映し出し、
空と氷の境目がわからないほどの青をあたしに見せてくれるのです。
ゴロゴロと、雪山を越え二年ぶりに取り付けたそりの車輪の音がしなければ、
あたしは空を歩いているという錯覚にとらわれたまま、一生そこから抜け出せなかったかも知れません。
それと、ベーリング海峡は、本当は海なのだそうです。
あたしには到底信じられませんでしたが、指にとってぺろりと舐めてみた小さな氷の欠片は、ほのかに塩の味がしました。
ああ、本当にここは海が凍っているんだなと、
それを成し遂げてしまう自然の力の雄大さに、あたしは舌を巻いてしまいました。
218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:27:58.36 ID:ZC1hkslO0
( ^ω^)「……そうだおね」
そして、当のブーンはというと、
心ここにあらずといった表情で、あたしや二匹の後方をぼんやり歩くだけでした。
どうしたのだろうと心配で、引きずるそりを止めて、あたしはブーンへと歩み寄ります。
その時でした。正面に立ったあたしの体を、ブーンが唐突に引き寄せました。
それから、突然のことに思考が停止してしまったあたしの唇に、柔らかくて冷たい何かが触れました。
ほんの一瞬のことでした。
だけど、あたしを抱き締めたブーンの体の大きさを、
唇に触れた何かの感触を、あたしは一生忘れることは出来ないでしょう。
222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:29:28.05 ID:ZC1hkslO0
ξ;゚⊿゚)ξ「いいいいいいい、いきなりなにすんのよぉ!」
停止していた思考が戻るや否や、あたしは全力でブーンを突き飛ばし、
けれどその反動であたしの方が突き飛ばされる形になって、結局あたしがゴロリと氷上に転がってしまいました。
あたしの突き飛ばしなど屁でもない様子のブーンは、依然、氷の上にぽつりと立ったまま、
ボリボリと申し訳なさそうに頭をかきむしり、ほんの少し頬を赤らめ、言います。
(; ^ω^)「す、すまんかったお。こうすれば彼が戻ってくるんじゃないかと思ったんだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「な、なによその理由は! お、乙女の初めての唇奪っておいて、あんたそりゃないわよ!」
(; ^ω^)「は、初めてだったのかお? そりゃあすまんかったお!」
223: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:30:48.39 ID:x46N9XSc0
ジョルジュ切れるぞwww
224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:30:55.17 ID:OIiSU5p90
支援
225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:31:16.09 ID:ZC1hkslO0
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
ξ;⊿;)ξ「いやあああああああああああああああああ! 今のは無効よおおおおおおおおおおおおお!」
正直、こんな初めても悪くはないかなと思っていたけれど、やっぱりそれではジョルジュに申し訳が立たなくて、
さらにはブーンの申し訳なさげな視線が物凄く痛くて、あたしは氷の表面に唇をつけ、消毒することにしました。
( ^ω^)「やっぱりどうやっても、君が戻ってくることはないのかお?
君はどうやったら……この世界を認めてくれるのかお?」
その時、ブーンの寂しげなつぶやきが聞こえて、唇を奪われたとはいえ、
さすがにあたしも何か声をかけないといけないかなと思いました。でも、それは出来ませんでした。
だって……だって……
229: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:32:27.81 ID:ZC1hkslO0
ξ;゚3゚)ξ「ふ、ふーん!」
(; ^ω^)「お。なんだお、へんてこりんな声出して……って、お前まさか!?」
ξ;T3T)ξ「ほふなほ! くひひふはふっつひはっは!」
(; ^ω^)「ちょwwwwwwwww馬鹿かお前はwwwwwwwwwwww」
……唇が、氷の表面にくっついて離れなくなったのですから。
ブーンが迅速に火を起こしてお湯を作り適切な応急処置をしてくれなければ、
あたしの旅はそこで終わっていたか、もしくは、唇を永遠に隠したまま旅を続ける羽目になっていたでしょう。
だから、その後数週間、唇が通常の三倍に腫れあがったけれど、あたしは何の文句も言いませんでした。
238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:33:44.84 ID:Pb1oVXt50
支援
239: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:33:53.14 ID:ZC1hkslO0
そうやってベーリング海峡を渡り終え、それからの一年半を、南を目指して歩きました。
初めの一年はどの季節も比較的暖かく、飢えはしたけれども、死ぬまでには至りませんでした。
しかし、海峡を渡って二度目の冬の入り、ロッキー山脈という場所の北端で、
これまでに類を見ない早さと寒さで襲いかかってきた吹雪のため、
保存食は早々に底をつき、食糧もほとんど調達できなくなりました。
初めて直面する、本格的な飢餓でした。
そして、わずかに巡ってきた晴れの日。
ある可能性の薄い食糧を探しに行こうと、餓えた体を引きずってこもっていた穴倉を出た直後、
深く降り積もった雪の上へ、どさりと、ブーンがうつぶせに倒れこみました。
それから二度と、彼が立ち上がることはありませんでした。
244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:35:31.70 ID:ltRvC5jJO
いよいよか・・・・・
245: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:35:38.58 ID:X8TxPhY8O
支援
246: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:35:44.15 ID:ZC1hkslO0
― 2 ―
(ヽ^ω^)「僕が死んだら……僕の体を食べるんだお……お前……一人で……」
旅の全てを話し終えたのち、体を横たえる穴倉の中で、ブーンがあたしに言いました。
当然あたしは、何度も首を横にふります。嫌だ嫌だと、駄々っ子のように否定の言葉を繰り返しました。
僕を食べろ。その意味は簡単でした。あたしたちには食料がなかった。
それからくる飢えに真っ先に倒れたのが、年老い、体に蓄えのなかったブーンだった、というわけです。
だから、生き伸びるために僕を食べろと、彼はあたしにそう言ったのでした。
けれども、だからと言って「はい、食べます」と、いったい誰が言えるでしょうか?
これまで八年半、ともに旅したかけがえのない仲間を、あたしに足をくれた恩人を、どうして食べることが出来ましょうか?
だからあたしは拒み続けます。ブーンを食べるくらいだったら死んだ方がマシだ、と。
だけど、ブーンは許してくれません。痩せ衰えたその体で、二度と歩けはしないその体で、
かすれた途切れ途切れの弱弱しい声で、けれど断固として引かず、彼はあたしにこう言い放ちます。
254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:37:41.61 ID:ZC1hkslO0
それが、サナアを出て、ジョルジュや両親を捨てて、
そうまでして歩きだしたあたしの、たった一つの自由に対する責任なのだ、と。
この穴倉で身を震わせたまま、歩く意味を見つけられずに果ててしまったら、そのあとには何が残るんだ、と。
残るのはサナアの伝統をかき乱したこと、ジョルジュからジャンビーヤを奪ったという事実、
娘が伝統にそむいたことで虐げられているかもしれないあたしの両親や親類縁者、たったそれだけじゃないか、と。
そこまでの犠牲を払って歩き出した以上、あたしは可能性のある限り、生きて歩き続けなければならないのだ、と。
その先に歩く意味を見出し、世界に何かを残せるよう、出来る得る限りの最善のことをしなければならないのだ、と
それが、歩くという道を選び取ったあたし、その自由に課せられた、たった一つの義務なのだ、と。
だから、あたしは生きなければならない。たとえそれが、ブーンを食べるという方法であったとしてもだ、と。
二匹には食べさせてはならない。一度人の肉の味を覚えれば、今度はあたしが食べられるかもしれないからだ、と。
そうやって薄情なまでに生き延びて、あたしだけの歩く意味を、この世界の中に見出して見せるんだ、と。
258: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:38:53.77 ID:OIiSU5p90
支援
260: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:39:10.59 ID:PsfdQ99U0
支援
261: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:39:34.39 ID:ZC1hkslO0
たどたどしく、けれど最後まで言い切った後、ブーンは眠るようにまぶたを閉じ、こう呟きました。
――申し訳ない、内藤ホライゾン。僕は君をこの世界に引き戻せないまま、不覚、道半ばで果てる。
――この身を今より千年後、君がツンから未来を託された世界に贈ることは、ついに叶わなかった。
あたしは泣きじゃくりながら彼の冷たい手を握り、「死なないで」と、それだけを叫びます。
けれどブーンにはもう、あたしの声は聞こえていなかったのでしょう。独り言のように彼は続けます。
――生まれ落ちて、歩き始めて二十年あまり。様々な人々と出会い、様々な風景を見て、僕はここまで歩き続けた。
――その中に意味を見出した。それを最後まで果たすことは出来なかったが、こんな僕には、上出来な人生だった。
そして、ゆっくりとまぶたを開いたブーン。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃであったろうあたしの顔を見て、彼は諭すように微笑みました。
それからギュッと強く、彼の手を握りしめたあたしの手を握り返し、最期にこう、尋ねました。
(ヽ^ω^)「……ツンデレ……今夜は……満月かお……?」
265: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:41:27.27 ID:ztGD7ob80
支援
266: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:41:28.64 ID:UiBw23dyO
ブーン……
267: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:41:33.84 ID:ZC1hkslO0
問いかけだけを遺し、力の無くなった彼の手。
開いた彼のまぶたの奥には、もう色も光も映し出すことのないの瞳。
彼のまぶたを閉じ、彼の両手を胸の上に合わせたあたしは、
冷たい彼の体へと崩れ落ち、大声をあげて泣き続けました。
泣いて泣いて泣き疲れて、いつの間にか、あたしは亡骸の胸の上で眠っていました。
それからゆらりと立ち上がり、地面の感触さえわからぬまま外へと歩き出し、空を見上げます。
ξ ゚-゚)ξ「ブーン……月は出ていないよ……」
夜空には、月は出ていませんでした。それは、満月とは対極にある新月。
ブーンの旅の話を聞いていたあたしには、
なぜブーンが最後にそう尋ねたのか、手に取るようにわかっていました。
だからあたしは、もういるはずのない彼に向かって、ぽつりとこう呟きます。
ξ ;-;)ξ「だから……月は……あなたを殺さなかったんだよ……
月が誰かを殺すなんて……そんなの……なかったんだよ……」
276: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:43:47.29 ID:ZC1hkslO0
ブーンの死後、すぐに吹雪が吹き荒れました。
それはずっとずっと終わりの見えないほどに続く、激しいものでした。
当の昔に無くなっていた保存食。
だから残されたあたしたちは、水分は確保できても、食糧を確保することは出来ませんでした。
そして飢えに飢えた次の晴れの日。
あたしは朦朧とする意識の中でブーンの死体を引きずり、
穴倉に二匹を遺し一人外に出て、雪の中に死体を横たえ、ジャンビーヤを引き抜き、
青空の下、死体に残っていた肉片や皮膚を切り取り、火を起こして、それを口にしました。
ξ;゚⊿゚)ξ「……おえ! うええええええええええええええ!」
初めは、仕事を忘れた胃が受け付けず、すぐに吐き出してしまいましたが、
徐々に、だけど確実に、あたしの飢えは消えていきました。
そうやって、あたし一人が、生きる力を取り戻しました。
279: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:45:43.60 ID:ZC1hkslO0
冬はまだまだ続きます。
穴倉の中には、痩せこけた二匹の犬と、ほとんど健康体のあたし。
立ちあがるのがやっとなほどに衰弱していた二匹を横目に、たまの晴れ間は外に出て、
雪の中で保存していたブーンの死体を泣きながら食べるということを、あたしは繰り返していました。
ξ;⊿;)ξ「ごめんなざい……ほんどうにごめんなざい……」
それは、ブーンに対する、ジャンビーヤをこんなことに使ってしまったジョルジュに対する、
そしてなにより、ずっと一緒に旅を続けてきた二匹に対する謝罪でした。
仲間の死体を食べることは当然として、まだ息のある仲間を出し抜いて、
そうやって一人だけ空腹を満たしているあたしの気持ちが、どんなに辛く、みじめで、
狂いそうなほどに申し訳ないものだったか、それはきっと、誰も理解してはくれないでしょう。
それでもあたしは狡猾に、ブーンの肉を焼く匂いが二匹に届かないよう、穴倉から離れたところで肉を焼き、
その匂いが染みつかないよう、煙は絶対に浴びないようにし、
穴倉に戻るときは、木の樹皮や雪に服をこすりつけてにおいを消し、そうやって冬と飢えをしのいでいたのです。
もちろん、空腹が満たされたあと、二匹の食糧を探すため雪山をさまよったりもしました。
けれど食料はごくわずかしか見つからず、しかしそれさえも、二匹の空腹を満たすにはほとんど意味のないものでした。
285: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:47:39.77 ID:ZC1hkslO0
なぜ、あたしはこうまでして生き延びなければならないのか。どうして、歩き続けなければならないのか。
それはあたしの自由に対する責任だからです。
そんなことはわかっていました。それでも、納得は出来ませんでした。
それなのに、いつしかブーンの体を食すことに、
確実に死へ向かっていく二匹を尻目に腹を満たすことに、あたしは何の疑問も感じなくなっていました。
その時のあたしはきっと、極限まで追い込まれていたのでしょう。
そしてある日、確か最後の吹雪の夜、まんこっこ君が息絶えました。
わっかないですちゃんは生きていました。どんな生き物も、女の方がしぶといということでしょうか。
そんなことをただ思うだけで、息をしなくなったまんこっこ君を見ても、あたしには何の感情も湧いてはきませんでした。
しかし、です。そのあと、よろよろと立ち上がったわっかないですちゃんが、
動かなくなった死体、その腸をむしゃむしゃと食べ出した時、食べながら何度も悲しそうな鳴き声を漏らしたその時、
あたしは彼女の姿に自分自身の行いを重ね、なんてことをしてしまったのだと、溢れる涙を止められませんでした。
そんなことまでして生き延びて何の意味があるのかと、そうまでして見つけた歩く意味があたしの所業に見合うものなのかと、
誰も答えてくれない疑問に、誰も答えることのできない疑問に、あたしはただただ苦しめられました。
286: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:49:21.70 ID:OIiSU5p90
支援
288: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:50:00.05 ID:ZC1hkslO0
そうやって、最悪の冬は過ぎ去りました。
うららかな春の日差しの下、活動を始めた小動物をわっかないですに狩らせ、
その肉を貪るように二人で食しました。
そして、骨と皮だけになっていた一匹と、頭部を残して骨だけになっていた一人の死体を、
雪の下から現れた黄土色の土の中に、あたしは泣きながら埋めました。
それから、ブーンの遺品として彼の足の骨を二つ、
そして彼の身につけていたすべてをそりに積み込み、歩き始めました。
途中、河にたどり着きました。
雪解けの透き通った水で一季ぶりに顔を洗おうと、水面に顔をのぞかせたその時でした。
ξ ゚-゚)ξ「……ひどい顔」
水面に映ったあたしの顔は、かつてものとは程遠い、とても人間とは思えない醜い形相をしていました。
だからあたしは顔を洗ったのち、衣服の裾をジャンビーヤで切り裂いて、
戒律ではなく自らの意思で、自らの顔を覆いました。
290: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:50:28.10 ID:OIiSU5p90
支援
291: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:50:46.85 ID:OlA8BVfx0
支援
293: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:51:48.07 ID:ZC1hkslO0
それからの道のりは、あまり覚えていません。
わっかないですと二人きりで、そりを引きずり、いつかブーンが手渡してくれた地図を頼りに、南へと下ったんだと思います。
そうやって山中を歩き回り、確か夏のことだったと思います、目的地とは異なった別の村へとたどり着きました。
( ゚ ゚)「道を尋ねたい。この近辺に、石で作られた村は有るだろうか?」
そう尋ねると村の門番は、あからさまに警戒のまなざしをたたえながら、
「もう少し南に下った所にあるはずだ」と、ぶっきらぼうな口調で教えてくれました。
それから「案内をしてはくれないか」「よろしければ一泊させてもらえないか」と、つたない英語でそうお願いしてみたものの、
獣を引き連れた顔を布で覆った女など、彼らには脅威の対象以外の何物でもなかったのでしょう、即座に断られてしまいました。
けれど、心優しい彼ら。立ち去ろうとしたあたしに、ひと袋の食料と香辛料の種を分けてくれました。
ありがたく受け取り、丁重に礼をして、身を翻したあたし。去り際、背中に問いを投げかけられました。
「あんた、昔もここに来なかったか?」
あたしは振り返り、もう一度深くお辞儀をすると、傍らの旅の友と一緒に、南へと下りました。
298: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:53:37.94 ID:ZC1hkslO0
そして、秋の初めのころだったと思います。
ブーンが残した地図にあった通り、出来るだけ山の高い部分を進んでいたあたしは、
とある小高い丘へとたどり着き、そこから見下ろした景色の中に、石の村を見つけ出します。
( ゚ ゚)「あれか。ドクオさん、とかいう人の村は」
( *><*)「わっかないです!」
石の村は、まるで森の隙間を縫うようにしてそこにありました。
それがあたしには、ブーンに聞かされていたものより規模の大きなものに思え、
きっと、カミという存在が消えても、村人たちはブーンとドクオさんの望みどおりしっかりと生きてきたのだなぁと、
覆った布の下、辿りつけなかったブーンの代わりに緩んだ頬と、こぼれ落ちた涙を、
あたしは抑えることが出来ませんでした。
302: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:54:34.92 ID:OIiSU5p90
支援
303: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:54:41.95 ID:A97D3/eR0
wktk支援
304: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:55:04.14 ID:ZC1hkslO0
それから、山道を下りしばらくして、あたしとわっかないですは石の村の門をくぐります。
門番がいなかったあたり、初めは相当に平和な村なのだろうと思いましたが、それは違いました。
村に足を一歩踏み入れた瞬間、あたしは石槍を手にした屈強な男衆に囲まれます。
門に見張りがいなかったのは、たまたまだっただけか、もしくは、
村に誰かが侵入してもすぐさま追い返せる自信が彼らにあったからなのでしょう。
突きつけられたたくさんのたくさんの石槍と、男衆の鋭いまなざし。
「なにしに来ただか?」と、彼らは低い声であたしに問います。
しかし、あたしもわっかないですも動じることはありませんでした。
極限の飢えという死線をくぐり、それ以上に辛い体験をしたあたしたちには、
石槍など何の脅威にも感じられないのですから。
( ゚ ゚)「あたしは死んだあなた方のカミ、ブーンよりの使者だ。ギコさんとしぃさんに話がある」
あたしが要件を口にすると同時に、村人たちの様子は一変しました。
308: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:56:20.56 ID:ZC1hkslO0
突如眼を見開き、互いに顔を見合せて口々に驚きの声を上げ出した彼ら。
しかし彼らの言葉はブーンから習っていた英語ではあったものの、微妙な差異も含んでいたため、
騒然とする場にどんな内容の言葉が飛び交ったのか、あたしは完全には理解できませんでした。
やがて、一人の男が村の奥へと駆け出します。
それからもあたしは「動くんじゃねぇべ」と、依然として石槍を突き付け続ける男衆に取り囲まれたまま。
けれども、彼らの眼からは先ほどまでの鋭さが減り、代わりに困惑の色が現れていました。
そんな中、石槍を突き付ける男たちの肩越しに村の奥の方をちらりと眺めれば、
村の男の子が、彼の妹でしょうか、その背に一人の女の子を隠し、あたしをキッと睨みつけていました。
女を守る小さな男のその姿に、知らず昔のジョルジュの面影を重ねてしまったあたし。
やはりここは良い村なのだろうと、顔を覆う布の下、自然と頬が緩みました。
それからしばらくして、彼女は現れます。
トテトテと危なっかしい足取りで細く小さな体を精一杯に動かしながら、可愛らしい声で叫んで。
(;*゚⊿゚)「ブーン兄ちゃ……ブーン兄ちゃはどこだべさ!」
それが誰であるのか、会ったこともないというのに、あたしにはすぐに分かりました。
309: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:56:42.04 ID:ltRvC5jJO
なぜだか、読み進む程 涙が出そうになる
支援
315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:58:11.34 ID:1tup1jzi0
支援
316: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 21:58:34.09 ID:ZC1hkslO0
― 3 ―
(*゚ー゚)「いんやぁ、さっきは取り乱してすまんかったべさぁ」
( ゚ ゚)「いえ」
あれから一つのやり取りを経た後、あたしはしぃさんの家へと案内されました。
村の男たちが「危険だべさ」と口々に言う中、
「こん人は悪い人じゃねぇべさ」と涙を拭きながら言ってくれたしぃさんの言葉が、
あたしにはたまらなくうれしかったです。
(*゚ー゚)「あん人は……ギコは、ちーと狩りに行っとってなぁ。もうすぐけぇってくると思うべさぁ。
だけぇ、詳しい話はギコさけぇって来てからお願いするべ。これさ飲んでぇ、もうちっと待っとってくれな?」
( ゚ ゚)「では、遠慮なく」
石のテーブルを挟んで向かい合い、差し出された石のカップに口をつけます。
その中に満たされていた透きとおった水が、心地よく、あたしののど元を通り過ぎました。
322: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:00:22.29 ID:ZC1hkslO0
(*゚ー゚)「……うまいべか?」
( ゚ ゚)「ええ……美味しい」
その水は、ただの水だというのにも関わらず、なぜだか懐かしい味がしました。
あたしが感じたその懐かしさの正体は、こう言うことでした。
(*゚ー゚)「そりゃそうだべなぁ。だってそれ、ブーン兄ちゃが掘った井戸んだからなぁ」
そう言って、石卓の上で頬杖をつきながらにっこりとほほ笑んだ彼女。
その笑顔が、人の道を外したあたしにはあまりにも眩しすぎて、あたしは知らず目をそらします。
(;*><*)「わっかないですー……わっかないですー……」
そらした視線の先には、先ほど見かけた男の子と女の子。
二人はしぃさんとギコさんの子どもだったのでしょう。
そして、彼らに全身を弄ばれているわっかないですの姿。
しかし、玩具のように激しく弄ばれているというのにも拘らず、
わっかないですの表情は、なぜかちょっぴり嬉しそうに見えました。
330: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:02:11.28 ID:ZC1hkslO0
その後しばらくの時間を置いて、彼は現れました。
慌てふためきながら屋敷の扉を荒々しく開け、
子どもとの遊びに疲れ果てダウンしていたわっかないですの尻尾を踏んで。
(;,,゚Д゚)「ブーンはどこだゴラァ!」
(;*><*)「ひぎぃ! わっがないでず!」
(;,,゚Д゚)「あ、ゴラァすまんだ」
身長がしぃさんの倍ほどもありそうな、筋骨隆々の、鉄のような肉体をした大男。それがギコさんでした。
ちょっと強面の、だけども精悍な顔つきをした彼が、足もとに駆け寄ってきた彼の子どもたちを纏わせながら、
身を縮こまらせてわっかないですに謝る、その姿がとても愛らしいくて、あたしは布の下で思わず微笑みます。
そんなあたしの元へ駆けよると、あたしの肩に大きくて固い両手のひらを置いて、彼は問いました。
(;,,゚Д゚)「ブーンは……あいつはどこにいるんだゴラァ!」
334: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:03:04.56 ID:GB2lMaOh0
もうスクリーンが…見え…ない…
335: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:03:07.50 ID:A97D3/eR0
支援
336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:03:08.53 ID:hc88/QeB0
支援
339: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:04:21.92 ID:ZC1hkslO0
( ゚ ゚)「……」
強い力で肩を揺さぶられる中、あたしは、ギコさんの問いかけに答えられませんでした。
なぜなら、強面の彼の表情はさらに強張っており、
おまけに、もうすでに、彼の眼は涙を流しそうなほどに潤んでいたからです。
そんなあたしの代わりに、いつの間にか彼の側に立っていたしぃさんが、涙を流しながら言ってくれました。
(*;ー;)「ブーン兄ちゃんは……ドクオ兄ちゃんのとこさ行ったんだべさ」
(;,,゚Д゚)「……」
(*;ー;)「ブーン兄ちゃんは……オラたちに会いたがってくれてたそうだべさ」
(,,;Д;)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
( ゚ ゚)「……」
室内に響いた、地鳴りのような、獣の雄叫びのような、ギコさんの泣き声。
立ち尽くし、天を仰ぎ、咆哮をあげ続けるギコさんの傍らで、彼に寄り添うように静かに涙を流していたしぃさん。
二人の涙は、雨期だけに流れるワジの水のように激しく、それからしばらく、流れ落ちるのを止めませんでした。
342: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:05:52.43 ID:ZC1hkslO0
その後、二人の子どもとわっかないですを退出させ――
といっても、わっかないですは子どもたちに無理やり尻尾を引きずられ、連れ去られてしまっただけなんですけど――
あたしはギコとしぃさんに、今となってはもう二十数年前にこの村を発ったブーン、彼のその後について、端的に語りました。
そもそも、あたしの今の英語力では、端的にしかブーンの旅物語を語れなかったんですけどね。
それと、話がややこしくならないよう、彼が千年前の人間だったこと、そしてあたしの成した所業は語りませんでした。
そうやって話をすることで、あたしはとても重大なことに気づくのですが、それはまた別の話。
話の終わり、あたしは積み荷の中からブーンの遺品たちを取り出し、石卓の上に並べ置きます。
その中からギコさんは、ボロボロになり色あせていた原色の羽織を手に取り、握りしめ、再び涙を流します。
(,,;Д;)「あん馬鹿野郎……オラが……オラがおめぇさ殺すはずだったんに……
それまで絶対死ぬんじゃねぇべって……オラァ……最後に言ったじゃないかゴラァ……」
屈強な大男が、原色の羽織に顔をうずめ、身を震わせながら涙を零します。
その背中を、同じく涙を流しながら、しぃさんは優しくさすります。
「ああ、これが夫婦の姿なんだ」と、寄り添う二人のその後ろに、
あたしは、十年近く前に別れたジョルジュとの、あり得たかも知れない未来の夢を描きました。
346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:08:04.48 ID:ZC1hkslO0
それから落ち着きを取り戻した二人に、
あたしはブーンが旅立ったあとの、彼らの村の変遷について教えられました。
なんでも、カミノミ、カミノキというものがなくなってからしばらく、大人たちは半狂乱に陥ったそうです。
その半分が狂って死に、半分は正気を取り戻した。
そして正気を取り戻した半分の大人たちが、子どもらを育て、荒れてた村を整え、
それをギコさんやしぃさんたち、カミノミとカミノキを知らない世代が引き継ぎ、今の状態まで復興させたのだとか。
(*゚ー゚)「だども、オラたちはカミノミとカミノキがあったことを知ってる。
それは知らなければいけねぇ村の最大の汚点だって、生き残った大人に教えられたかんなぁ」
(;,,゚Д゚)「そすて、そん汚点を消し去ってくれたんが、ドクオ兄ちゃんとブーンだったってことも知ってる」
それからギコさんはあたしの眼をまっすぐに見つめると、強面の顔のまま、けれど嬉しい言葉で怒鳴ってくれました。
(,,゚Д゚)「だから、ブーンの使者であるおめをオラたちは歓迎するだゴラァ!
他ん村のやつはオラが殴り飛ばしてでも認めさせる! だから、好きなだけここさいやがれだゴラァ!」
(*゚ー゚)「うふふ。なんなら一生、ここに住んでもいいだべさぁ」
( ゚ ゚)「……感謝する」
こんなあたしにも、こんなに優しい言葉をかけてくれる人たちがいる。
だからあたしは、声が涙で震えているのを悟られぬよう、短い、そっけない言葉を返すしか出来ませんでした。
351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:09:48.53 ID:ZC1hkslO0
その日の深夜、ギコさんとしぃさんの屋敷の一室に寝床を与えられたあたしは、
子どもたちとの遊びに疲れ果てて死んだように眠るわっかないですを残し、外へ出ました。
満月の強い光のおかげで、周囲は良く見えており、その下で井戸は村のあちこちに点在していました。
しかし、万が一に備え、あたしは誰かに顔を見られることがないよう、村の外れにあった古い井戸まで歩きました。
そして、周囲に誰もいないことを確認すると、はらりと顔を覆っていた布を取り、布と顔を洗おうと水をくみます。
井戸の傍に転がっていた二つの桶に水を張ると、一つに布を浸し、もう一つに張った水で顔を洗います。
月光を浴びでゆらめく透明なその水はとても冷たく、その冷たさはまるで、あたしの穢れを洗い落としてくれるかのようでした。
それから布を洗い、絞り、適当な木の枝にかけて干し、ある程度乾くまで井戸の石壁に身を預けていた、そんな時でした。
(*゚ー゚)「それ、ブーン兄ちゃんが掘った井戸なんだべ」
しぃさんの声がしました。反射的に声のする方へと視線を向けてしまったあたし。
そこでは、ゆったりとした原色の羽織を身にまとった彼女が、満月を背に預け、ほほ笑みながら立っていました。
352: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:10:34.56 ID:ZC1hkslO0
あたしは声の彼女の方へ慌てて背を向けると、そっけなく言葉を返します。
ξ ⊿ )ξ「そうなの」
(*゚ー゚)「んだべさ。そんだけじゃない。こっから少し行ったとこさある石橋も、
畑さ囲んどる堀も、ブーン兄ちゃんが作ってくれたんだべ。そんでな、
ツンデレさんに泊まってもらった部屋は、ブーン兄ちゃんが一年間住んどった部屋なんだべ。
こん村は、ブーン兄ちゃんが作ってくれたもんで溢れとるんだべさぁ」
あたしは彼女に背を向けたまま、縮こまることだけしか出来ませんでした。
はやくこの場を立ち去ってほしい、そんなことを願いながら。
けれど、しぃさんの声は続きます。
(*゚ー゚)「ホントは、嫁のオラがギコん家さ住まねばなんねぇんだがな。
ギコん親は狂って家さめちゃめちゃにして、それっきり、山ん中へ消えてけぇってこんかったからさ。
そんあとギコは、オラん家に住むようになっただ。オラの親は狂わんかったからさ。
だから、オラはギコの嫁さなった今でも、子どもん頃の家、ブーン兄ちゃんと過ごした家にギコらと住んどるんだべ」
353: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:11:13.12 ID:ZC1hkslO0
しぃさんの声は、彼女の外見と同じように、可愛らしい、耳にとても優しい響きを持っています。
幼い顔つきだけど、纏った雰囲気は母性そのもの。女性のあたしから見ても、魅力的な人です。
おそらくはあたしとさして歳の離れていないそんな彼女が、この時のあたしには憎らしく思えてなりませんでした。
あたしだって、歩きださなければ、足を失っていれば、もしかしたら彼女のような女性になっていたかもしれないのです。
去年の冬が厳しくなければ、もっと遅くに来ていれば、あたしだってあんなことをしなくて済んだかもしれないのです。
この顔を再び布で覆わなくて済んだかもしれないのです。
わかっています。それはすべて、あたし自身が選び取ったことで、その責任はすべてあたしにあることなんて。
もう、納得しているんです。しぃさんのような女性になることは出来ないことも、はっきりとわかっているんです。
だけど、この時ばかりは、胸の奥底から溢れてくる汚らわしい嫉妬を、あたしはどうしても留めておくことが出来ませんでした。
(*゚ー゚)「ツンデレさん、夜は冷えるべ。だからさ、もうけぇろ?」
ξ ⊿ )ξ「触らないで! 近寄らないで!」
だからあたしは、背後から響いた柔らかい声とともにあたしの肩に置かれたその柔らかい手を、強く、振り払いました。
356: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:12:11.87 ID:5JjWqGCCO
まだまだ支援
357: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:12:12.90 ID:ZC1hkslO0
(;*゚⊿゚)「……ツンデレさん、どうしたんだ……」
ξ ⊿ )ξ「こっちに来ないで! あたしの顔を見ないで!」
あたしは頭を抱え、井戸の傍で縮こまったまま叫びます。
ξ;⊿;)ξ「あたしは、あなたみたいに綺麗な女じゃないの! 違う! もう人間でもないの!
だってあたし……ブーンを食べたんだもん!
飢えに襲われて、それに任せて、あたしはあたしを救ってくれたブーンを食べちゃったのよ!」
一度堰を切った想いは留まることを知らず、
その勢いはあたしを立ちあがらせ、しぃさんへと振り返らせ、それでも言葉として溢れ続けます。
ξ;⊿;)ξ「それだけじゃない! あたしにはわっかないですの他にもう一匹、仲間がいたの!
あたしはその子を見殺しにしたのよ! 自分だけがブーンを食べて、そうやって飢えを満たして!」
361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:13:25.16 ID:ZC1hkslO0
ξ;⊿;)ξ「生き延びたわっかないですも……きっとあたしを恨んでる……
それでもあたしは彼女を引き連れて……彼女に狩りをさせて……彼女にそりを引かせて……
そうやって歩いてきた……そしてこれからも歩き続ける…・・・そんな醜い女なのよ、あたしは!」
あたしはしぃさんの肩をつかみ、自分の顔をしぃさんの目の前へと突き付け、叫びます。
ξ;⊿;)ξ「さあ、笑ってよ! そうやって歩いてきたあたしの顔を!
そして目をそらしてよ! 汚くて醜いこの顔から! さあ!」
いつの間にか、あたしは英語ではなく故郷の言葉で叫んでいました。
それが初めからだったのか、途中からだったのか、それとも終わりのあたりだけだったのか、わかりません。
だから彼女に、どれだけあたしの叫びが伝わったのかはわかりません。結局それは今でも、です。
けれども、あたしはそんなことなどお構いなしに、しぃさんの体を揺さぶり、顔を彼女の前へ晒し続けました。
晒して、故郷の言葉で叫び続けました。
(*゚ー゚)「なしてそんな綺麗な顔さ、布で隠し続けるだかぁ?」
しかし、しぃさんはそう言って首を傾げ、優しく微笑んでくれました。
364: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:14:03.88 ID:A97D3/eR0
支援
365: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:15:10.87 ID:doBgUEpBO
画面が曇ってきたな・・・
366: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:15:11.72 ID:A97D3/eR0
支援しかできない……
368: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:15:37.36 ID:ZC1hkslO0
(*゚ー゚)「綺麗な顔だぁ……ホーント、綺麗な顔だべ」
ξ;⊿;)ξ「……」
しぃさんが両手を伸ばし、あたしの頬に優しく手を触れて、言います。
(*゚ー゚)「楽しいことも、嬉しいことも、辛ぇことも、悲しいことも、ぜーんぶ知っとる顔。
全部知っとって、そんでも挫けることさねぇ、強くて優しい顔だべさ。おら、嫉妬しちまいそうだべ」
秋夜の空気は、故郷の夜と同じくらいに冷えます。
けれど、頬に触れたしぃさんの手はとても温かくて、声はとても柔らかくて、
満月に照らされた彼女の顔は、まったく似ていないというのに、故郷に捨てた母のそれに思えてなりませんでした。
そして彼女は、小さなその体であたしを抱きしめると、背中を優しくさすりながら言ってくれました。
(*゚ー゚)「だからもう、隠さんでいいんだぁ。そん綺麗な顔で、お天道様の光いーっぱい浴びるといいだぁ」
ξ;⊿;)ξ「うあ……うああああああああああああああああああああああああああああん!」
こらえることなど出来ようもないあたしの叫びが、夜に響きました。
それからいつまでも泣き続けるあたしを、しぃさんと満月の光は何も言わず、優しく受け止め続けてくれました。
377: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:18:14.56 ID:ZC1hkslO0
それから半年以上を、石の村で、ギコとしぃさんの家で、かつてブーンが眠った部屋で、過ごしました。
その間、あたしはブーンのように知識を伝えることなんて出来ませんでしたから、
木の実を採る手伝いをしたり、わっかないですとともに、小動物を狩ったりして過ごしました。
(,,゚Д゚)「にすても、おめの狩りの腕はすげーべなぁ。てぇしたもんだべ」
( ゚ ゚)「いや、わっかないですが素晴らしいだけですよ」
(,,゚Д゚)「んなこたねーべ。おめは腕っぷしもめっぽう強ぇしよ……」
( ゚ ゚)「あらやだ。そんなことありませんよ」
( #)Д゚)「なら殴らんでくれだゴラァ。見えんくらいパンチが速ぇだゴラァ」
夕食の際、そんな冗談を放つギコさんにもう一発お見舞いすれば、彼は石卓の上に突っ伏して動かなくなりました。
そんな彼の様子に大笑いしながら、食事のため口元の部分だけ布をずらしていたあたしに向け、しぃさんが言います。
(*゚ー゚)「にすても、食事ん時くれぇ布は取ればいいんにぃ」
( ゚ ゚)「いえ。これは寝るとき以外は取りません。そう決めたんです」
そうです。「これが歩く意味だ」と自信を持って言えるその日まで、
あたしはこの顔を布で覆い続けようと、あの夜、固く決心したのです。
380: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:19:10.65 ID:sukPAijn0
あ・・・やべ本当に泣きそう
381: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:19:27.76 ID:OIiSU5p90
支援
382: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:19:50.38 ID:ZC1hkslO0
そして、春の足音が聞こえ始めました。そんな、うららかな小春日和のある日、
間もなく旅立とうと考えていたあたしは、ギコさんとしぃさんにとある場所へと連れて行かれます。
わっかないですは村の子どもたちの人気者になっていて、その日は連れて行けませんでした。
というより、村の子どもたちも付いてきたがったので、生贄としてわっかないですをあたしは村に残したのです。
(;*><*)「わっかないです! わっかないです!」
わっかないですの苦しそうな声が山彦として響くほど、標高の高いところにあった彼らの石の村。
そこから数時間下った、ほとんど山のふもとと呼んで差し支えのないその場所が、彼らの目的地でした。
383: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:20:26.38 ID:OlA8BVfx0
支援
384: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:21:01.16 ID:ltRvC5jJO
支援
385: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:21:27.00 ID:3uHx5s6E0
支援
386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:21:39.78 ID:ZC1hkslO0
(,,゚Д゚)「ここがカミの祠だったとこだべさ。ここでドクオ兄ちゃんはカミを殺すた。
そんでドクオ兄ちゃんも、ここで死んだんだぁ」
(*゚ー゚)「本当はもっと早くさ連れて来たかったんだども、冬は寂しぃだけの場所だかんなぁ。
そんかわし、春はこげな風にいーっぱいの花に包まれるんだべさ」
( ゚ ゚)「……」
大きくえぐれた、お椀のような地面。
その中にはびっしりと、色取り取りの花が咲き乱れていました。
ここが、ブーンの友が天才の意思を受け取り、散った場所。
目の前に広がる光景の美しさに、あたしは思わず息をのみます。
あたしの隣に立つギコさんも、そのまた隣に立つしぃさんも、
彼らにとっては初めてでないその風景を前に、あたしと同じように息をのんでいました。
そして、あたしが懐に仕舞っておいたあれを取り出そうとしたその時、ギコさんがこう声を漏らします。
390: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:23:20.33 ID:ZC1hkslO0
(,,゚Д゚)「オラは、ドクオ兄ちゃんが大好きだった。
この石槍だって、ドクオ兄ちゃんのを真似て作ったんだぁ」
そう言って、いつも手放すことのない石槍の柄を、ドンと地面に突き立てたギコさん。
依然としてジッと、ドクオさんの死に場所に咲く花たちを眺めながら、彼は続けます。
(,,゚Д゚)「オラはずっとずっと、ドクオ兄ちゃんの後ろ姿さ追っかけて来た。
とーちゃんとかーちゃんが狂って山ん中さ消えても、ドクオ兄ちゃんみたいに強く生きようと覚悟さ決めた。
だども、こうやってドクオ兄ちゃんより歳さとっても、オラは追いつくことだって出来ねぇでいるだ……」
そう言って、見下ろしていた顔を正面に向け、ジッと東を、「死んだ大地」の先を眺めるギコさん。
彼はきっと、その向こう側に、追いつけることのない偉大な男の後ろ姿を見ようとしているのでしょう。
だからあたしは、懐から取り出したブーンの太ももの骨の片方を、
眼下に広がる窪んだ花の大地、彼の親友の墓へと放り投げ、言いました。
( ゚ ゚)「あたしは、ドクオさんという人物をブーンの話の中でしか知りません。
だけど、あたしの想像の中のドクオさんは、ギコさん、あなたにとてもよく似た方なんですよ」
394: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:24:18.16 ID:ZC1hkslO0
(,,゚Д゚)「……」
ギコさんが、眼をまん丸く見開いてあたしの顔を見ました。
そして、こらえるように唇を噛みしめ、顔を天へと向けます。
(,, Д )「……世辞なんて……いらんのだ……ゴルァ……」
それだけを残し、ずっとずっと、空を仰ぎ続けたギコさん。
その傍らに寄り添いながら、柔らかい笑みで彼を見つめ続けたしぃさん。
見下ろした大地のくぼみでは、花たちが春の風に吹かれ、楽しそうにゆらゆらと踊っていました。
400: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:25:51.91 ID:ZC1hkslO0
そして、春が訪れます。とても温かい春でした。
旅の支度を整えたあたしとわっかないですは、旅の目的地、東の大地の先へと歩き始めます。
(,,゚Д゚)「どうしても行くのか?」
(*゚ー゚)「こんな村で良けりゃ、ずっと住んでくれて構わんだべよ?」
石の村を出る際、村人総出の見送りの中、ギコさんとしぃさんが言ってくれました。
正直言うと、とても名残惜しかったです。村人たち、村の子どもたち、そしてギコさんとしぃさん、
彼らが住むこの村で余生を過ごしたいと、かつてのブーンがそう思っていたように、あたしも思っていたのですから。
( ゚ ゚)「申し訳ないですが、あたしには行かなければならないところがあるんです。
本当にすみません。このたくさんの食料と、あなた方の言葉、あたしにはそれで十分過ぎるほどです」
けれど、あたしは歩かねばなりません。
歩いて歩いて歩き続けて、そこ意味を見出さなければなりません。
いや、実を言うと、もうこの時点で、あたしは自分の歩く意味に薄々検討が付いていました。
しかし、どうしてもあたしは、あの場所へ行かなければなりませんでした。
行って、今胸の内にあるあたしの歩く意味が本物なのかどうかを、確認しなければなりませんでした。
406: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:27:15.65 ID:ZC1hkslO0
(,,゚Д゚) 「……そうか。わかった。おめの旅の成功を願ってるだゴラァ!」
(*゚ー゚)「そんでそん旅さ終わったら、
ぜってぇここさ帰ってくるだ! あん部屋はずっと開けとくから!」
あたしの身勝手な言葉に、ギコさんとしぃさんは笑ってそう返してくれました。
( ゚ ゚)「……また、会いましょう」
( *><*)「わっかないです!」
本当はもっと言葉を交わしたかった。
けれど、これ以上留まれば泣いてしまいそうで、
あたしは一言だけを残し、彼らに背を向け、歩きだしました。
傍らにわっかないですを引き連れ。
この背にたくさんの人の想いを繋げて。
遥か東、死んだ大地の向こう側に、ブーンの生まれた場所。
あと千年眠り続ける、天才たちの寝床を探しに。
409: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:28:46.48 ID:ZC1hkslO0
― 4 ―
赤い河へと続く水の流れに沿って、
昇っては落ちるいくつもの月と太陽、そしていくつかの季節の中を歩きました。
深い緑の草原を抜け、十年振りの赤い土の上に立ったあたしとわっかないですは、
かつてブーンがそう呼んだ、名前に反して透明な水の流れる、レッドリバーであろう河へとたどり着きます。
あたりはどこまでも続く赤い大地。点在する丈の低い樹木以外、そこには何もありません。
こんな場所から、この土の下にあると言う「チカシセツ」、その一点を探し出すのは不可能だろうなと思いました。
415: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:30:57.77 ID:ZC1hkslO0
やがて、真っ赤でまん丸い小さな実をつけた植物、そして、まっすぐな葉の下にたくさんの黄色い粒をつけた植物、
赤い大地から不自然に浮いたそれらの生える広い草原が、河の流れを下るあたしたちの目の前に姿を現します。
あたしは草原の入り口にそりや旅の荷物を置き、わっかないですとともにその中へと分け入り、生っていた実をもぎました。
( ゚ ゚)「これが……クーさんと内藤ホライゾンが育てた実……」
赤い実は、噛めば弾けて独特の汁を口に広げました。
黄色い粒は、その欠片が歯と歯の間に入り込むのだけれど、噛めば噛むほど甘味の出る非常に美味なものでした。
それらを口にしながら、肩び辺りまで伸びる草たちの間を、あたしは地下に続くという入口を求めかき分け歩きます。
しかし、あたしの予想に反して、それは早々に見つかりました。
足もと、地面の一角に、植物の生えていない本当に小さな四角いむき出しの地面があったのです。
421: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:32:55.67 ID:ZC1hkslO0
そこには小さな取っ手のようなものがあって。
それは握り締めて持ち上げればパカリと開いて。
そしてその下に、階段が現れたのです。
(; ゚ ゚)「間違いない……ここだ!」
(;*><*)「わっかないです!」
どこまでも深く黒の中へと続いていく階段、
その奥へ、あたしとわっかないですの声が響いていきました。
あたしは片手にジャンビーヤ、片手に松明を握りしめ、嫌な汗が背中を流れ落ちていくのを感じつつ、
最大限の警戒状態に入ったわっかないですとともに、深い階段の底へと足を踏み入れました。
429: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:34:57.52 ID:ZC1hkslO0
階段はどこまでも深く、それは闇の中へ永遠に続いているかのようでした。
すぐに日の光は届かなくなり、掲げた松明の赤い光だけでは頼りなく、
流れる空気はしんと冷え切っていて、あたしの背中の汗はすぐに引いていきました。
あたしとわっかないですの息遣いと足音だけが、闇の中には響きます。
奥へ進めば進むほど静けさはどんどんと増し、それは自分の心拍さえも聞こえてしまうほど。
破裂してしまうのではないかと疑わせるほどに響き続ける胸の鼓動は、
主であるあたしよりも一足早く、階段の先にある光景を予見していたのかも知れません。
やがて、永遠に続くように思われた階段は終わりを告げます。
その先に現れたのは、とても巨大な洞窟。
見上げた天井は空のように高く、道は松明では照らせないほどに、どこまでも続いていました。
(; ゚ ゚)「い、行くわよ!」
(;*><*)「わっかないです!」
自らを鼓舞するために出した声は穴倉の中で強く反響し、あたしたちを驚かせました。
436: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:36:43.13 ID:ZC1hkslO0
恐る恐る、洞窟内を進みました。
手にしたジャンビーヤの先端は、あたし自身がそうであるせいか、小刻みに震えていました。
そうやって進むうちに洞窟の終わりへとたどり着き、
その終着点にとあるものを、松明の火が映し出します。
(; ゚ ゚)「何なのよ……このでっかい壁は……」
(;*><*)「わっかないです……」
それはジャンビーヤと同じ色をした、固さをした、冷たさをした、見たことがないほどに巨大な壁。
恐る恐る近づいて見れば、その壁の一部が突然、パカリと左右に開きました。
(; ゚ ゚)「おわ! ホントになんなのよ……」
(;*><*)「わっかないです……」
びくりと身を震わせたあたしとわっかないですは、
壁に悪態をつきながら、開いた部分から壁を潜りました。
そしてその先に広がっていた光景を前に、あたしはただ呆然と、立ち尽くすだけでした。
444: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:38:51.35 ID:ZC1hkslO0
(; ゚ ゚)「なによ……ここは一体なんなのよ!」
天井から射す真っ白な冷たい光に照らされた、だだっ広い部屋のような場所。
石でもなければ木でもない、おそらくはジャンビーヤと同じ金属か、
もしくはそれ以外の、あたしの知らない何かで出来た、どちらにしろひんやりと冷たく固い無機的な壁面。
壁の一部分には、わけのわからない文字か数字らしき何かの羅列が、光を放ちながら連なっていました。
そして部屋の床には、たくさんの細い、人が身長くらいの長さの楕円形の物体が無数に横たわっていました。
それを眺めた瞬間、全身を悪寒が駆け抜けました。
心臓の鼓動が張り裂けそうなほどに早くなり、手のひらから汗が滲みます。
「ここは生き物が来るべきところではない」
あたしの本能が警告を鳴らしているかのようでした。
(;*><*)「……」
本能からの警告を裏付けるかのように、
わっかないですも耳を、尻尾を、体毛を逆立たせ、全身を小刻みに震わせていました。
彼女は部屋の入り口に立ち尽くしたまま、決してその場から動こうとはしませんでした。
447: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:39:26.30 ID:3uHx5s6E0
支援
448: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:39:28.51 ID:OIiSU5p90
さすが…
支援
449: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:40:05.32 ID:1tup1jzi0
支援
453: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:40:45.89 ID:ZC1hkslO0
しかし、あたしはその中へと進みました。
なぜなら、きっとここが「レイトウスイミンソウチ」とかいう場所で、
きっとここがブーンの生まれた場所であると、そう確信していたからです。
そしてあたしは、視線の先に、パカリと開いた楕円形の物体を見つけます。
ブーンの話によれば、そこで内藤ホライゾンが死に、ブーンが生まれたはずです。
楕円の中を覗こうと、あたしは駆けよりました。
駆けより、思わず悲鳴を上げます。
(; ゚ ゚)「ひっ!」
パカリと開いた楕円の下の床には、白骨化した死体が横たわっていました。
転がっていた頭の骨。その窪んだ眼骨が、あたしの方をじっと見上げていました。
それを前にした瞬間、全力で足を動かしながら、あたしはもと来た道を引き返していました。
459: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:42:17.21 ID:A97D3/eR0
クーが死んだ後開けられた人か
460: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:42:42.58 ID:ZC1hkslO0
入口へ向かい、わっかないですを引き連れ、
部屋を出て、再びの洞窟の中を、外へ続く階段を目指しました。
まるで誰かに追われているかのごとく一心不乱に、です。
なぜならあたしは、転がっていた頭蓋骨、空いていた二つの黒い空洞のその奥に、
有るはずのない両眼がギョロリとこちらを見据えるのを、見てしまった気がしたからです。
そしてその両眼が、こう言ったように思えたからです。
「ここは寝床なんかじゃない。ここは千年前から千年後へと続く墓場なのだ」と。
「君もここで、僕と同じように眠ってみるかい?」と。
だからあたしは、その両眼から逃れようと、ひたすらに地上を目指しました。
旅に慣れた体が悲鳴を上げるほどに、速く、長く、暗闇の中を走り続けました。
その先にあるはずの太陽を目指して、限界を超えた体で階段を駆け上りました。
そして気がつけば、あたしは地面の上に仰向けに横たわり、茜色染まった空を、わっかないですとともに見上げていました。
467: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:45:04.51 ID:pKP7mrhn0
内藤が起こしちゃった奴か
殺しちゃった、が正しいのか?
468: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:45:29.23 ID:ZC1hkslO0
― 5 ―
地上に舞い戻ったあたしとわっかないですは、赤く染まる世界の上に、朽ち果てた小屋を見つけます。
小屋は風雨にさらされ、植物に侵食されてボロボロになっていましたが、
疲れ果てた今のあたしには、テントを広げる余裕はありませんでした。
だからあたしは、一目見て小屋が内藤ホライゾンとクーさんが作った家であるとわかるにもかかわらず、
それに気付くことなくふらふらと小屋の中へ侵入し、ガクリと床の上に崩れ落ち、顔の布を取ることも忘れ、眠りにつきました。
( ゚ ゚)「んあ……」
目覚めたのは夜でした。それはその日の夜だったのか、はたまた次の日の夜だったのか、わかりません。
ただ、あたしの両眼は、これ以上眠ってしまえば二度と開かないくらいに、腫れぼったくなっていました。
473: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:46:58.01 ID:OIiSU5p90
支援
474: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:47:02.91 ID:ztGD7ob80
支援
475: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:47:18.30 ID:ZC1hkslO0
( *><*)「わっかないです!」
そして傍らには、わっかないですが座っていました。
彼女は目覚めたあたしの顔をペロペロと舐め、嬉しそうに尻尾を振りしだきます。
( ゚ ゚)「ごめん。心配かけたね。大丈夫。あたしは当分死なないよ」
( *><*)「わっかないです!」
彼女の頭をグリグリと撫で、寝過ぎの顔にむくみを感じつつあたしは笑います。
それからようやく、今いる場所が内藤ホライゾンとクーの作った小屋なのだと気づき、
朽ち果てた壁面や天井、床板を眺めます。
眺めてるうち、夜なのにそれらが見えていることに気づいたあたしは、
「ああ、今夜は満月なのだなぁ」と、外に出ました。
予想通り、東の空には満月が輝いていました。
478: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:49:16.54 ID:ZC1hkslO0
昇り始めの月というのは、ほのかな赤色に染まっているものです。
その理由など馬鹿なあたしにはわかりませんが、あたしは赤い月光が照らす草原に立ち、
生っているいくつかの黄色い実をもぎました。
( ゚ ゚)「たぶん、これがトウモコロシなんだろうな」
口元の布をずらしてその粒を食し、空腹を満たします。
同じようにわっかないですにもその粒を食べさせたあと、草原をかき分けて進み、
小屋の近くにあった一本の木の下へとあたしたちはたどり着きます。
その木の下には、一本の、明らかに人の手が加わった、朽ち果てた木の棒が転がっていました。
483: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:50:22.05 ID:ZC1hkslO0
もしやと思ったあたしは、腰のジャンビーヤを引き抜き、
悪いことだとは理解しつつも、木の周囲の地面を掘り起こします。
わっかないですも手伝ってくれ、
そうやって数時間あたりの土を広く浅く掘り続けて、ついにあたしは見つけ出します。
( ゚ ゚)「この人が……クーさん……」
木から少し離れた土の中から月光の下に姿を現したのは、白骨化した亡骸でした。
頭蓋骨の両こめかみ部分に深い穴が一つずつ空いているのを見て、あたしは亡骸の正体を確信しました。
490: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:52:30.54 ID:ZC1hkslO0
あたしは再び草原の中をかき分け進み、
草原と赤土地帯の境目に置きっぱなしにしていたそりの上から、ブーンの遺品の一部を取り出します。
それらを携え再び木の近くへと戻り、掘り起こした亡骸の傍へ置いていきます。
黒いジュウという武器。ショボンさんの黒いナイフ。
そして、残ったもう片方のブーンの太ももの骨。
( ゚ ゚)「他にもたくさんあるけど、それはまだあたしが使うから、今度来る時まで預かっておくね」
呟いて、堀起こした亡骸と置いた遺品と遺骨の上に、土を戻していきます。
そして最後のひと土を盛るその前に、あたしは顔を覆った布を取り、大地にはらりと落としました。
わっかないですがそれを見て、尋ねるように一つ声を上げました。
( *><*)「わっかないです?」
ξ゚ー゚)ξ「いいの。もう、これはいらないから」
そう残して最後の土を盛り、こうして出来たブーンとクーさんのお墓を前に、深く、礼をしました。
497: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:54:31.32 ID:ZC1hkslO0
ξ゚ー゚)ξ「ブーン、あたし、ようやく着いたよ」
転がっていたあの木の棒を墓標として土の上に深く突き刺しながら、あたしは続けます。
ξ゚⊿゚)ξ「すごい場所だったね、あんたの生まれた所。あたし、怖くて逃げだしてきちゃったよ。
だってあそこ、お墓みたいだったんだもん。それも普通のお墓じゃない。
誰も入ることが許されない、入ったらどこかへ引きずり込まれそうな、そんなお墓だった」
突きさした墓標を前に、あたしは背筋を伸ばして立ち、笑みを作ります。
ξ゚ー゚)ξ「ギコさんとしぃさんに会ったよ。二人とも、あんたのために泣いてたよ?
ギコさんなんか、すごい大声で泣いてたんだよ? ちゃんと聞こえてた?」
( *><*)「わっかないです!」
唐突に響いたわっかないですの鳴き声が「わかんないです」と聞こえて、
ブーンの言いたいことを代弁しているように思えて、あたしは彼女の頭を撫で、言います。
ξ゚ー゚)ξ「そうだよね。わかんないよね。だってあなたはここにはいない。
あなたはもう、この世界のどこにもいない。このままじゃ、あなたは二度と歩けない」
498: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:55:17.14 ID:OIiSU5p90
支援
499: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:55:52.41 ID:T3PyJ35oO
支援
501: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:56:34.43 ID:ZC1hkslO0
ξ゚ー゚)ξ「だからね、あたしはもう一度、あなたを歩かせようと思うんだ」
( *><*)「わっかないです?」
撫でていたわっかないですが首を傾げながら、まるで意味を問いただすかのように鳴きます。
あたしは彼女に笑みを返し、それからまた墓標へと視線を移し、姿勢を正して誓いました。
ξ゚ー゚)ξ「あたしね、ギコさんたちの村に帰って物語を書くよ。
あなたが歩いてきた物語を。あたしが歩いてきた物語を。
それが、あたしが見つけた、あたしだけの歩く意味」
そうやって改まっている自分がちょっと恥ずかしくなり、
あたしは墓標の前に屈みこみ、照れ隠しとしてグリグリとわっかないですの頭を撫でました。
それからまた墓標を向いて、頬をポリポリと掻きながら言いました。
ξ゚ー゚)ξ「ギコさんとしぃさんにブーンの話をした時、あたし、気づいたんだ。
こうやって話を語り伝えていけば、それを聞いた人たちの中であなたは、あたしは、
あなたが出会った人々は、あたしが出会った人々は、ずっとその中で生き続けるんだって。
その人たちからまた別の人に話が伝わって、そうやって未来まで生き続けるんだって」
516: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:59:01.67 ID:ZC1hkslO0
ξ゚⊿゚)ξ「だけど、人から人に伝えられる中で、
あなたが歩いてきた物語は、少しずつ変えられていくかもしれない」
そう言ってから立ち上がり、あたしは手近にあった植物から黄色い実をいくつかもぎ取りました。
そのうちの一つをわっかないですの前に置いて、
むしゃむしゃと食べ始めた彼女を眺めながら、あたしはまた続けます。
ξ゚ー゚)ξ「だから、あなたから直接話を聞いたあたしが、
あなたの歩いた道を正確に、永久に変わることが無いよう、本として残そうと思うんだ。
そしてその本のうちの一冊を、この土の下のお墓に置こうと思うの」
それからあたしは、残りの黄色い実を墓標の前に備えます。
だけど、あたしが本を置きたいのはこのお墓ではありません。
このお墓のさらに下にある、あの場所です。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ブーン。あなた、言ってたよね。『僕は今と千年前を繋いできた。
そこにたくさんの人の想いを結びつけてきた。それが僕の歩いてきた意味だ』って。
でも、あたしは違うと思う。あなたの歩いてきた意味は、それだけじゃないと思う」
屈みこんだ状態で頬杖をつき、そこにいるはずのないブーンに向けて、あたしは自分なりの考えをぶつけました。
518: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:59:23.11 ID:CX3r8VLFO
支援
最終回ガンガレ
519: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:59:49.56 ID:3uHx5s6E0
支援
520: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 22:59:57.29 ID:UiBw23dyO
しえん
525: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:00:58.67 ID:ZC1hkslO0
ξ゚ー゚)ξ「あなたはね、千年前と今だけじゃなく、未来も繋いでいたんだよ。
あなたは、歩いてきた道の上にたくさんの種を植えてきた。それは世界中に散らばっている。
その種っていうのは、内藤ホライゾン、あなたの中にいたその人の知識なんだよ」
そして立ち上がり、振り返ります。その先には、赤土の大地から浮いた広大な草原。
ξ゚ー゚)ξ「それはいつか必ず芽吹いて、幹を伸ばして、世界中に花を咲かせる!
そしてたくさんの実をつけるんだよ! 千年前の世界より素晴らしい未来っていう実を!
今ここに葉を広げている、内藤さんとクーさんが植えた植物たちみたいに!」
草原の端から端まで指でなぞり、あたしは夜に叫びます。
あたしの動きに呼応して、遊びと勘違いしているのでしょう、嬉しそうにとび跳ねるわっかないです。
そんな彼女が可愛くもあり、だけどうざくもあったので、蹴りを一発お見舞いしました。
528: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:01:40.22 ID:HZew8cqE0
蹴りww
530: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:02:00.49 ID:ZVQuHwSz0
ひでえwwwwwwww
532: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:02:07.36 ID:OIiSU5p90
支援
533: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:02:08.43 ID:sukPAijn0
いじめんなwww
535: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:02:08.74 ID:gCt5C0WjO
支援
544: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:03:26.70 ID:ZC1hkslO0
ξ゚ー゚)ξ「この土の下に眠ってる天才さんたちは、きっと目覚めて驚くよ?
だって、その人たちが知ってる世界よりはるかに凄い世界が、千年後にはきっと待ってるんだもん!
それはブーン、あなたのおかげ! あなたが出会ってあなたを歩かせてくれた皆のおかげなんだよ!」
歌うように叫ぶあたし。地に伏したわっかないですではなく、
そのさらに下、千年後まで眠り続ける天才たちに向け、あたしは声を落とします。
ξ゚ー゚)ξ「そのことをさ、あたしは彼らに教えてあげるの。あのお墓の中にあたしが書いた本を置くことで」
その言葉を自分に向けられたものと勘違いしたわっかないですが、
起き上がり、あたしの胸に飛びかかってきました。
「ごめんごめん」と笑いかけ、あたしは彼女を抱きあげ、
天頂に達していた銀色に光り輝く満月を一緒に見上げ、呟きました。
ξ゚ー゚)ξ「その本の中で、あなたは永遠に歩き続ける。いや、あなただけじゃない。
あたしも、クーさんも、ドクオさんも、ギコさんも、しぃさんも、ショボンさんも、
ビロード君もちんぽっぽちゃんも、三匹の子犬さんも、ヒッキーさんも、ジョルジュも。
わっかないですも、まんこっこ君も、みんなみんな、本の中で歩き続けるんだよ」
555: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:05:26.08 ID:ZC1hkslO0
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ブーン? あなた、満月が嫌いだって言ってたよね?
満月があなたの前で人を殺すって言ってたよね?
でも違うよ。こんなに綺麗な月が、人を殺すはずがない」
照る月は、いつでも世界を銀色に染め上げます。誰かが流す悲しい涙さえも美しく。
いや、悲しい涙こそ美しく、月は銀色に染め上げようとするのでしょう。
ξ゚ー゚)ξ「きっと、満月はあなたを慰めていたんだよ。
目の前で誰かが死んであなたが悲しんでる時、だから満月はいつも浮かんでたんだよ」
それからあたしは思い出します。
旅のはじめに見た銀色の故郷の町を。
世界で一番美しいと思った、今でもそう思っている、バイカル湖の夜を。
そして、にじんだ視界の先に映ったのは、
それらに負けないくらい美しい、風に揺れる銀色の草原。ブーンのお墓。
ξ;ー;)ξ「だってほら……見てよ……
満月に照らされたあなたのお墓は……草原は……こんなにも綺麗なんだよ?」
576: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:07:44.17 ID:ZC1hkslO0
かつて、歩き続けた男と、それからも歩いた女がいました。
道半ばで倒れた彼。そのあとを女は引き継ぎ、
辿りついた始まりと終わりの場所で、歩く意味を見出しました。
ξうー;)ξ「あはは……ブーンにはまだ……見れないよね……
だってあたし……まだ本……書いてないもんね……」
けれど、彼女の歩みはまだ終わりません。
むしろ今、彼女は本当の意味で歩き始めたばかりなのです。
だから彼女は、これからも歩き続けます。
出会ったたくさんの「もの」たちとともに、ずっとずっと歩き続けるために。
ξうー゚)ξ「だから、しばらくお別れだね。
あたしが本を書き終わるまで。歩く意味を達成するその時まで」
591: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:09:46.60 ID:X8TxPhY8O
支援
592: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:09:47.71 ID:TyCdEIZmO
支援
594: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:09:58.34 ID:A97D3/eR0
支援
596: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:10:00.33 ID:ZC1hkslO0
彼女はジャンビーヤを引き抜き、夜空に向けて掲げました。
月と同じ色に光る刀身の表面に彼女は、笑う自分自身の姿を見ます。
笑う自分、そのさらに後ろに彼女は、
これまで出会ってきたたくさんの人々の顔が見えた気がして、再び微笑み、こう呟きました。
ξ゚ー゚)ξ「その時にまた、この世界の上を、一緒に歩こうね」
連結部 歩き続けた男と、これからも歩く女の話 ― 了 ―
612: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:11:28.44 ID:ZC1hkslO0
緩やかに流れる時 千年後も今も同じ
歩き続ける道の先 君は一体何を見る
( ^ω^)ブーンは歩くようです ― 了 ―
598: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:10:49.07 ID:k8nw/+7F0
乙!!!!!!!!!!!!!!
599: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:10:50.35 ID:ztGD7ob80
乙!!
601: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:11:00.45 ID:cdTcdMmnO
乙すぎる
607: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:11:10.82 ID:4AtMCif8O
乙!
長丁場乙!!
617: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:11:40.55 ID:k8nw/+7F0
もう一回言う!!!乙!!!!!!!!!!!
652: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:14:13.02 ID:WrAEmGDGO
乙!感動をありがとう!!!!
665: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:16:23.35 ID:ZC1hkslO0
今回、切りどころがわからず、結局11万字を一気に投下する形になってしまいました。
本当にすいませんすいませんすいませんすいませんすいますすいませんすいません。
支援をくださった方にはもうなんと感謝すればいいのか分かりません。
そしてこの作品をまとめてくださったまとめサイトの方々、遅ればせながら本当にありがとうございました。
この作品を読んでくださったすべての方々、ザ・モウスト・ありがとうございました。
692: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:19:30.72 ID:ltRvC5jJO
>>665
感謝するのはこっちだぜ!!!!
この素晴らしい作品の最後のスレに最初から居られたのを光栄に思う!
何回でも言う
作者乙!! そして 多謝!!!
713: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:24:23.18 ID:KUFgzA9UO
>>665
さり気なくすいます混ぜんなww
もっかい乙
666: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:16:29.86 ID:OkBjgrjUO
乙!乙!乙!感動した!
675: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:17:33.43 ID:UiBw23dyO
もっかい乙!!
690: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:19:06.56 ID:TyCdEIZmO
乙
泣いたわ
730: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:33:19.89 ID:oXTaxYiB0
作者の愛を感じた
乙!
尊敬します。
731: 78 ◆pSbwFYBhoY 2008/03/19(水) 23:34:33.35 ID:ZC1hkslO0
あとがき
どうもみなさんおちんぽミルク。あなたの心の尻の穴、どうも僕です、78です。
というわけで、千年後の世界を歩いたブーンのお話はこれでおしまいです。
以下、読んでも得することなんか何もないあとがきが続きますので、暇な方だけお付き合いください。
一.ジャンル等について
さて、本作はSFではなく、私としては単なる冒険物、あるいは旅行記のような感覚で書き進めて参りました。
特に注意したのが、これまで書いてきた冒険物とは別物になるように、という点でございます。
「世界のすべて」が明るい冒険、「空を行く」が明るさと暗さの混じった冒険としますと、「歩く」は暗い冒険ということになります。
具体的に対比させますと、たとえば旅に出る理由。
「世界のすべて」は「古代文明の謎を解きたいから」、「空を行く」は「エデンを見つけたいから」という前向きな理由ですが、
「歩く」では「そうするしかなかったから」という、まったく正反対の理由にしました。
そうやって旅するしかなかった人間が、その先に何を見るのか。
私自身がそれを知りたくて、「ブーンが何を見るのか」という話のオチを考えないまま、
それは書き進める中で彼とともに発見しようと、そうやって書いてきたのが「ブーンが歩くようです」でございます。
739: 78 ◆pSbwFYBhoY 2008/03/19(水) 23:36:49.35 ID:ZC1hkslO0
ニ.文章について
今回、長編に限れば、名義上「ドクオがコンビニ店員になったようです」以来となる一人称で書き進めて参りました。
理由としては、「ブーンがリプレイするようです」において、これは三人称で書き進めていたんですけども、
その際、心情描写が一人称になってしまっているところが多々あったわけでして、その反省を活かした形になります。
と言いつつ、設定上内藤ホライゾンを分割した意識にした手前、心情描写がみそになるというのが一番大きい理由であるのは内緒。
一人称は心情描写に長ける一方で、ともすれば冗長になりすぎるきらいがあること、独りよがりになる危険があること、
主人公が見ていないものは描写不可能であること等の欠点があり、その点をどう補完していくかが一番苦労しました。
まあ実際、エピローグなんかは物凄く心情描写が長く独りよがりになっちゃったので、補完もへったくれもありませんでしたけどね。
今後の課題とすることとします。三人称と一人称、どっちも難しいものです。
748: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:39:06.22 ID:ZC1hkslO0
三.舞台設定について
今回の舞台は千年後。時間軸が異なるだけの同一世界なので、この点でSFと勘違いされた方もいらっしゃるかも知れませんが、
サイエンスフィクションなんて書けるほど私は知識を持っていないので、ファンタジーと取ってもらった方が気も楽であります。
はてさて、そんな千年後の世界の一番の特徴として位置付けたのが、神概念の末期~消滅という過程にあるという点です。
三部でクーがちらっと言っていますが、西欧キリスト教における千年王国論という思想をモチーフにしました。
実際の千年王国論ではその先に神の国が現れることになっているのですが、本作では、神の国は現れなかった。
少なくともブーンにとってはそうで、その象徴が、五部のもすかうであったつもりです。
流れを説明しますと、三部が千年王国論で神を期待した人間の姿、四部が神に依存し続ける人間と神から脱却しようとする人間の姿、
五部が信仰が神話程度の存在になり単なる伝統へと落ちかけ、それを描こうと確かめに行くパイオニアとしてのショボンの姿と結末、
そして最終部が神概念の焼失したその先で人間がどのような生活をしているのか、それぞれ完全に想像ですが描いてみたつもりです。
ちなみに、宗教寄りのことばっかり書いてきましたが、私はここ十年ミサに出ていない駄目カトリック、
ほとんど無神論者に近い奴でありまして、都合のいい時、たとえば留年間際に「単位が取れていますように」と
神に祈る程度の人間ですので、別にカルト宗教とかにはまっているとかそういうわけではございません。
756: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:41:19.74 ID:ZC1hkslO0
四.執筆について
本当に申し訳ありません。予定では一月中に終わらせるつもりでしたが間に合わず、
二月は卒論追い込みと試験、バイト等が重なり、最終話投下が一ヶ月以上先になってしまいました。ごめんなさい。
ちなみに、気分転換で調べてみたところ、本作は32万字以上ありました。
改行を改め、顔文字を取って17行41文字の新潮文庫形式に直すと、600頁を越えていました。バカか俺は。
こんな長ったらしい作品を読んでくれたみなさま、まとめてくださったサイト様方、本当に、本当にありがとうございました。
五.キャラクターについて
作品の主題上、キャラクターを描く中で、人間の美しい部分、醜い部分を均等に書いていくつもりでしたが、
書き終わって振り返ってみると、美しい部分の方が多いような気がします。ていうか、多かったです。
どちらかというと性悪説の観点からキャラクターを描いていきたかったんですが、特に各部の主要キャラクターが
どうにも物分かりの良いやつらばっかりだったかなーと、その点が作者としては一番の不満であり反省点でした。
ちなみに、作者が一番気にいっているキャラクターは、一位がクーで、二位がビロードだったりします。
ショボンさんについては、へんてこりんな部分は一番気にいっているのですが、
どうにも聖人みたいな感じで書き過ぎたのが、私の実力のなさかなぁと痛感しておりますです。
ドクオについては可もなく不可もなく、もう少し彼の内面と過去を描ければよかったなぁと。
しかし一人称で書き進めていた以上、それはちょっと厳しかったです。三人称になればまた違ったのかな。
内藤ホライゾンおよびブーンについては、不可です。留年です。何もかもがダメやなぁと、書きながら思いました。
荒巻、ミルナ、シラネーヨおよびヒッキーについては、可もなく不可もなく。
ジョルジュについてはそれなりといったところで、ツンデレについてはもっともダメだったなぁ、と。
そんな、愚痴じみた「五.キャラクターについて」でした。
760: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:44:56.99 ID:ZC1hkslO0
六.スペシャルサンクス
こんな素人小説を推敲してくださったOさん、Kさん。
ストーリへの助言、綿密な推敲、その他執筆全般を助けてくれたヒツジ。
まとめてくださったサイト様方。感想をブログやスレに書いてくれた方々。
素敵な絵を描いてくださった方々。現行スレにて支援をくださった方々。
そして、こんな作品を読んでくださったすべての方々。
本当にありがとうございました!
以上、これにて失礼します
763: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:46:17.49 ID:OIiSU5p90
>>760
乙でした!
767: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:47:27.60 ID:UiBw23dyO
>>760
乙でした!!
769: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:47:45.62 ID:SAf003dv0
乙
771: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:48:30.94 ID:l/KVIxQ4O
乙
776: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:52:41.64 ID:sukPAijn0
長いはずだ
作者が一緒になって歩いてたのか
そりゃ長くもなるよなぁ
778: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/19(水) 23:55:27.84 ID:Q3wle4lAO
感動した!
乙!