その番組のディレクターから提案された取材先は、アトラスでも紹介した
三重県にあるという「ラビリンス村」であった。この名称は番組スタッフが名付けたもので、初出は釣り雑誌であるという。村内の道が迷路になっており、
一度入り込んだら逃げ出すことが不可能な村と噂されておりいるのだ。
この話はサイト運営もしていた某学術関係者の人物がネットで話題にしたものであり、番組スタッフもこの人物と連絡をとり企画を進めていたのだが、スケジュールの都合が合わず、代役として急遽、筆者が現場に踏み込むことなった。
この取材に行く前にある僧侶と電話で話をしたのだが、その僧侶は筆者に絶対に行くなと警告をした。
「
山口さん、やばい気配が漂っているよ。この村に行ってはいけない。もの凄く嫌な予感がするよ」
「でも、仕事だから行かないと」
「取り合えず、山口さんと同行するテレビスタッフのお祓いだけでもやっておきますね」
こうして、筆者はその言葉を振り切り、スタッフ2名と新幹線で名古屋まで行く、名古屋からロケ車に乗って三重県の某所まで車で向かった。
だが、
この捜索は困難を極めた。情報が少ないうえ、山間部の集落を特定するのは難しかったのだ。情報源のサイトの管理人某さんと筆者も電話で話をして、およその場所を絞り込んだ。
彷徨うこと数時間、三角錐のように尖った山を発見し、
その中腹あたりにある斜面に貼り付くように存在する集落にたどり着いた。牧歌的な風景と、あちこちで農作業をする老人たち。筆者とスタッフは安穏とした気分になった。
だが、五時のサイレンがなりふと周囲を見渡すと誰もいなくなっていたのだ。あたりをいくら探しても、筆者とスタッフしかいない。さっきまで野菜を収穫していた老婆や、耕運機を動かしていた老人が
忽然と消えてしまったのだ。
「おいおい、洒落にならないぞ」
不気味である。まるで「千と千尋の神隠し」のように先程まで人間がいた感覚が残る無人の空間が永延と続いている。詰まれた野菜、道端に止められた自動車、井戸の横でなみなみと水を溜めている木桶。さっきまで居た人々は何処に行ったのか。
焦った筆者とスタッフは、段々と闇が降りてくる村の中を必死に走りまくった。だが、
何度走っても同じ道に出てしまい、村の中からなかなか出られない。どうやら、三角錐のような山の中腹をぐるりと走る村道をくるくる廻っているだけのようだ。何度か迷走した後、ようやく脇にあった下る道を発見、麓の町まで移動することが出来た。
これは筆者の推論であるが、山村で働いていた老人たちはかつて自分たちが住んでいた山村の田畑で農作業をやり、
夕方になると麓の家まで帰宅するのではないだろうか。山村にあった旧宅は農作業中の休憩場所として使用するだけであり、基本的には病院やライフラインが充実している町の住宅で寝ているのだと考えている。
まさに「ラビリンス村」に相応しい場所であると筆者とスタッフは痛感し、その日のロケを終えた。放送も順調に終わり、視聴率はまずまずであったのだが、その番組がレギュラー化されることはなかった。
というのも、なんと担当したスタッフのトップの方が薬物で逮捕されてしまったのだ。
僧侶がいった「ラビリンス村の呪い」は現実だったのかだろうか。やはり、踏み込んではいけない場所はあるのであろうか……。