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    『霊が出てこない怖い話部門 第一部』真冬の怖い話グランプリ



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    グランプリの詳細はこちらのページをご確認ください。
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    この記事では「霊が出てこない怖い話部門」から20話をご紹介いたします。
    怖かった話、面白いと思った話の番号とタイトルを投票ページから投票してくださいね!

    目次

    1.小学生の時に経験した怖い話 トウカイテイオー様
    2.同級生のお父さん、お母さんの話 奥歯様
    3.奇妙な留守電 不思議ネット大好き様
    4.コケシ マッチョドラゴン様
    5.常識外れの不法侵入 あめだまおとこ様
    6.ある親子の事 guro様
    7.変わったお兄さん またの様
    8.案山子 キリ様
    9.馬頭さまの日 不思議ネット好きのハムスター様
    10.お隣さん モモ
    11.冬のラジオ体操 桜木(仮名)様
    12.思った通りの女 たばしる様
    13.愛してるの ウワノソラ様
    14.メル○リ 姫ちゃん様
    15.身近な恐怖 唐揚げ屋さん様
    16.家にきた「何か」 らりごりら様
    17.祖母 ペレペレ様
    18.ILU 澪様
    19.すいか割り むぞくせい様
    20.ネコに追われる夢の話 赤い鯉様

    投票ページはこちら
    霊が出てこない怖い話部門 第一部投票ページ





    1.小学生の時に経験した怖い話

    ペンネーム:トウカイテイオー

    これは、私が小学生の頃に経験した話なんですが、その当時友人のA君とよく小学校の近くにある山の頂上で色々遊んだりするのがブームでした。

    とある日、いつものようにA君を誘って保温の水筒に熱々のお湯を入れて頂上でカップヌードルとおしるこを食べようと誘い、自転車で頂上まで登りました。

    頂上までは30分くらいで着いてその後カップヌードルを作り、おしるこを作ろうとしたところお湯が足りずあえなくカップヌードルのスープで作ったりしながなら10分くらいそこで過ごした後、夕方になってきたので帰路につきました。

    帰りも同じ道なので雑談しながら帰っていると道の脇に行きには無かった車が止まっていました。
    その車からは明らかに変な感じが漂っていてガムテープで目張り(?)のようなものがされており、その当時好奇心が凄かった私はついつい中をのぞいてしまいました。

    すると、中には20代ほどの男女が口から泡を吹いてとてつもない表情で目をものすごく開けたまま動いていない状況でした。

    それに恐怖を覚えた私とAが走った自転車に乗って小学校まで逃げました。
    その後校長先生から警察に通報してもらい、練炭自殺とわかったのですが、この話で一番怖かったのは目張りが車の外からされており、自殺に見せかけた他殺でなおかつその後山から犯人が捕まったことです。

    後一歩早かったら僕たち二人がどうなってたかと思うと恐怖で体が震えました。

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    2.同級生のお父さん、お母さんの話

    ペンネーム:奥歯

    小学生の頃の話。
    家の近所に同級生の男の子が住んでた。その子は自分で歩いたり話したり出来ないくらい生まれつき脳や心臓に重度の病気を持っていた。
    でもその子のお母さんは底抜けに明るくて、登校する時に会ったりすると「おはよー!気をつけてねー!!」と、いつも元気に送り出してくれるような人で、お父さんもいつもニコニコして挨拶してくれるとても優しいお父さんだった。

    小学校3年生になってしばらくして、その同級生の男の子が亡くなった。詳しい病名は覚えてないけど、3年生の歳になるまで生きられたのも凄いくらいの病気だったらしい。
    お葬式が終わった次の日くらいから、その子のお母さんの様子がガラリと変わった。軒先に力無く座り込んで朝から晩まで虚ろな顔で一点を見つめてタバコを吸っていた。お父さんは男の子が亡くなってからは姿さえ見なくなった。朝登校する時にも、帰ってくる時にもお母さんはずっと同じ場所で、同じ表情でタバコを吸っていて、足元には吸い殻が散らばっていて。今までの明るいお母さんからは想像も出来ない変わりようで、少し怖かったのを覚えている。

    1週間くらいそんな日が続いたある日、下校中にその子の家の近くに差し掛かった。
    ふと2階を見ると、暗い部屋の窓からお父さんがこっちをじっと見ていた。会釈をしたけど、お父さんは無反応でこっちを見続けていた。軒先では相変わらずお母さんが座り込んでタバコを吸っていた。何となく怖くなったけど、一応お母さんにも会釈をして、走って家に帰った。

    その次の日の帰り道。その日も2階からお父さんがこっちを見ていた。会釈をしたが、無反応でじっと見てくる。軒先にはお母さん。さすがにもの凄く気味が悪くて、その日はお母さんには会釈もせずに走って帰った。

    帰宅してからから数時間後、家の電話が鳴った。俺が電話に出ると、すぐ近くに住んでいる、弟の同級生のお母さんだった。何やら緊迫した声で「〇〇くん?お母さんいる?」と言われ、母に受話器を渡すと、母がすぐに「えっ!?」と大きな声で言った。子どもながらにただ事じゃない雰囲気を察して、電話を切った母親にどうしたん?と聞くと、

    「△△(亡くなった同級生)君のお父さんが亡くなった。首吊り自殺。もう何日か前から亡くなってたみたい」と言われた。

    俺はそんな訳ないじゃん、といった感じで「いやいや、ありえんって!だって俺昨日も今日もおじちゃん見たよ?2階に…」くらいまで言いかけて、全てを察して全身に鳥肌が立った。

    俺が会釈していたのは2階で首を吊っていたお父さんだった。
    こっちを見ていたのはお父さんの死体だったんだ。

    よくわからないけど、その事実を察してから恐怖で体がガタガタ震えた。母親はそんな俺を見て何も言わずに手を握ってくれた。

    それからすぐ、同級生のお母さんはどこかに引っ越した。買い手が付かなかったのか、しばらくして家は取り壊されて、空き地に新しい家が経った。あれから20年近く経ったが、今でも2階からこっちを見ていたお父さんの姿が目に焼きついている。

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    3.奇妙な留守電

    ペンネーム:不思議ネット大好き

    それはまだ僕が若かった頃の話です。
    ある日、いつものようにいつもの悪ガキ仲間と遊んでいました。

    遊んでいたとは書いているものの、当時の僕らは暇をもて甘し誰からともなく集まり始め、気付いたら7.8人の仲間と地元を自転車や原チャリで徘徊をする、よくいる悪ガキ仲間達でした。

    あの頃の僕らは埼玉県のとある町にすんでおり、行動範囲内の心霊スポットにはあらかた周っており、怪現象や心霊体験もしておりましたが懲りることはなく、噂話を聞き付けては新たなスポット巡りを楽しんでおりました。

    その日もいつものように誰からともなく仲間が集まり、当時流行っていた怪談話や心霊スポット話をしていました。
    その日は普段集まる地元の隣町にある、とある巨大な電波棟の下に集まっていました。その電波棟は、とある噂話では電波棟を登ろうとした子供が途中で落下して亡くなった話や、電波棟のパイプにロープをくくり自殺した人がいる等の噂話がある場所でした。

    実際のところ、本当にそんな事件があったのかは誰も知らず、あくまで僕らは噂話としてその場の雰囲気を楽しんでおりました。
    回りは小さなグラウンドになっていてそのグラウンドの回りを木々が囲っているようなそんなさみしい場所でしたので、怪談話をするにはもってこいのロケーションだったのです。

    僕らはいつものように心霊スポットがもつ独特の雰囲気を楽しみ、はしゃぎながら次の目標の心霊スポットや新たなに仕入れた怪談話や噂話で盛り上がり、怪談話が尽きると恋話や猥談に花を咲かせ大いに盛り上がっておりました。

    そんな矢先、僕のPHSに留守電が入っていることに気付きました。
    当時の僕が使っていたPHSは電波状況がよろしくなく、ましてや巨大な電波棟の下にいてはまともに電波が入ることがありませんでした。

    僕が使っていたPHSに限ったことではなく、当時のPHSは大体、電波状況がいいとは言えない時代でした。
    そんな時代のPHSは圏外だと留守番メッセージをセンターで預かるというサービスがあり(今でもあるのかな?)、途切れ途切れに入る電波の時に通知が来るというものでした。
    その時も圏外と少しの電波を受信する状態を繰り返しており、少しの電波が入ったときに留守番メッセージ通知が来たのです。

    当時の僕には恋人は無く、親位しか留守番メッセージをいれる人はいなかったので、軽い気持ちで留守番メッセージを再生したのです。そのメッセージ内容はあれから15年近くたった今でも忘れられません。内容は書いてしまえばたいして怖いものではありませんが、真夜中の心霊スポットで聞く当時の僕らの気持ちになって読んで頂ければと思います。内容は、

    「どうして来てくれないの?ずっと〇〇駅で待ってるんだよ?ばか」

    と、女性の声で入っていました。番号は非通知でした。
    ここでのメッセージの〇〇駅とは僕の地元の駅です。

    真夜中と書きましたが時間にして大体22時前後だったと思います。僕の地元の駅の終電は24時30分頃ですので22時前後と言えばそこそこ人がいる時間帯なのに、駅で待っていると言うわりには全く声以外の音が聞こえないのです。

    当時のPHSは今の携帯電話のようにノイズカットなどの機能は充実していなく、電車の音等の周りの喧騒を拾いノイズだらけの通話は当たり前の時代でしたので、全くノイズが無く、鮮明に聞こえる淡々と喋る女性の声が恐怖以外の何者でもありませんでした。

    周りの仲間にも聞いてもらいましたが、最初は誰を待たせんてるんだとか、本当は彼女がいるんだろうとか、からかわれるだけでしたが、だんだんと僕の真剣さが伝わり、やはりノイズの無い声の異常に気付いた仲間達は留守番メッセージの女性が言う〇〇駅に向かおうと言い出し、全員でその駅に向かったのです。

    しかし、駅に着いても留守番メッセージは非通知からのものだし、相手の顔はもちろん分かりません。駅に異様な雰囲気があるわけでもなく、そこにはいつもの駅がありいつもの通勤帰りの人やいつもの酔っぱらい等がいるだけでした。

    何も起こらず、何も発見できずシラケてしまった僕らは留守番メッセージの事は何でもなかったことにしてその日は帰宅することにしたのです。帰り間際、僕は気になってPHSの留守番メッセージを再度確認しました。

    すると不思議なことに留守番メッセージが消えていたのです。留守番メッセージを消去するにはセンターに電話をし、消去の手順を踏むか一定の期間が経たない限り消えるものではありません。

    その事に戦慄を覚えながらも何事もなく自宅に帰りつき、何事もなく眠りに就きました。
    ちなみにこの話に後日談は無く、特にこれといったおちもありません。
    20年以上経ってしまった今でも忘れなれない出来事でした。

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    4.コケシ

    ペンネーム:マッチョドラゴン

    俺の母方の祖母がコケシが好きで、気にいったコケシをよく買っていた。
    祖母は買ったコケシをお土産として母親にあげたりしていた。

    話は変わって、俺が小学4年生の時にマンションから一軒家に引っ越したんだ。
    一軒家に引っ越しすると、マンション住みの時にはなかった自分の部屋が貰えたんだ。

    ある日自分の部屋に戻ると、タンスの上にコケシが2体置かれていた。
    母親が置いたんだなって思って、そんなに気にしなかった。

    だけど、そのコケシたちが俺のよくいる場所を見るように置かれていた。
    それが、見られてるような気がしてちょっと嫌だった。

    だから、俺はコケシたちを壁を見るように移動したんだ。
    それからは、コケシたちのことを気にせずに毎日を過ごしていた。

    で、ある日ふとコケシたちを見てみると、また俺の方を見るように置かれていたんだ。
    さすがに怖くなって母親に、あのコケシたち持っていって!、ていったんだ。
    そしたら、なんであんたコケシなんて置いてんの?って言われた。

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    5.常識外れの不法侵入

    ペンネーム:あめだまおとこ

    私が中学2年生の頃に体験した話です。
    当時私は父・母・私の3人暮らしで、田舎の一軒家に住んでおりました。

    その日、母が同窓会で地元に帰っておりそのまま実家に泊まってくるとのことで1日不在、父は仕事の関係で帰りが遅く、
    太陽が沈み夜を迎えようとしているその時間帯に私は一人で家に居ました。
    正直、夜に家に一人だけという状況はそう滅多になく、私は少し浮かれていました。
    テレビを観たり、ゲームをしたり・・・夜食は私がある程度料理は出来たので自分で作って食べました。

    夜の10時を回ったころだったと記憶しています。
    そろそろ風呂に入るかと思い、バスタオルを持ち脱衣所に行きました。

    服を脱ぎ、風呂場へ入り、風呂椅子に腰を下ろしシャワーを浴びていた時です。
    ガタン、と後ろから物音がしました。
    ふと振り返ってみると、風呂場のすりガラス扉を介して、向こうの脱衣所に「髪の長い人の影」が見えました。

    母は1日帰ってこないし、そもそもショートヘアーです。父は言わずもがな。
    その「長い髪の人影」が「この家の者ではない何者か」であることは瞬時に理解しました。
    しかし、逃げようにも脱衣所を通らなければ家から出られません。
    逃げ場のないこの状況をどう切り抜けばいいか。中学生の脳を振り絞りだした結論は「気づいていないふり」でした。

    脱衣所と私がいる風呂場を区切るのは、私の背にあるすりガラスの扉だけ。
    むこうの人影も絶対に私の存在に気付いているはずです。
    それでも、襲ってくるようなことをしないということは、この双方が接触さえしなければ向こうは何も危害を加えるつもりはないのではと考えたのです。

    それから、わざとらしく鼻歌を歌ったりして「気づいてないふり」に徹しました。
    正直、その時の私は恐怖でいっぱいで、何秒、何分そこにいたのか記憶はありません。が、再度振り向いた時、その人影はもう脱衣所にいませんでした。
    脱衣所は人が3人ほど入ればもうスペースがなくなるほどの広さだったので、「人影はもうそこにいない」と判断しました。

    恐る恐る扉を開け、脱衣所に何もいないことを確認してから、さっき脱いだ服を下着だけ来て脱衣所を出ました。
    脱衣所を出て左手には裏玄関があったので全速力でそこに走り、そこから家の外へ逃げ出しました。
    ここも記憶があいまいなのですが、もはや極限状態に陥った私は、「うわああああああ」と叫びながら逃げ出してたと思います。

    裏口から外へ出て、隣民家に逃げ込みました。隣民家には気の優しい老夫婦が住んでおり、何回か話したことがありました。
    老夫婦に助けを求め、その私の血相を変えた表情にただ事ではないと察してくれたのでしょう。すぐに警察を呼んでくれました。
    数分で警察が到着し、老夫婦の家の前で全員が事情聴取を受けました。それからさらに数分後、パトカーがさらに数台到着しました。
    そのタイミングで父も帰ってきて、何も状況を理解できていない父への事情説明等、挙句状況を理解している唯一の人間がパニックになった中学2年生ですからかなり複雑な状況が出来上がっていました。

    しかしながら、私はただ「家の中に泥棒がいる!」との一点張りでした。
    正直、もはや恐怖と逃げ出せた安堵感で、もう思考回路は回っていませんでした。

    警察の応援が続々と駆け付け、
    警察が「今から家の中を確認します。よろしいですね?」と父に確認し、警官数名が私が逃げ出した裏口玄関から家に入っていきました。
    私・父・老夫婦はそれぞれ別の場所で事情聴取を受けました。

    ・・・
    実はそこから、私の認識は止まってしまったんです。
    警察が家に入ってからどうなったかを、私は知らないんです。
    翌朝、父親からは「お前の言った通り、長い髪の女が泥棒で家に忍び込んでたんだよ。でも無事捕まったよ」
    そのことの顛末だけを教えてもらいました。

    その事件当日は、警察署の仮眠室で1泊させてもらったのですが、その日から1週間近く、ホテル暮らしを強いられました。
    父と状況を知った母曰く、「家の中を警察が捜査してるから」とのことでした。
    今思うと、泥棒一人で1週間も警察が立ち入るのかと疑問を呈してしまいますが、当時の私は何も思いませんでした。

    ・・・
    時が過ぎ、高3の終わりくらいです。
    私は都内の大学に進学が決まり、4月から一人暮らしということで、上京の準備をし出したくらいの頃です。

    この家に居るのも残りわずか・・・と家族で食卓を囲み話していました。
    1人暮らしというワードから、あの日の話題を私からこぼしました。
    「そういえば、昔家に泥棒入ったもんね。気をつけなきゃなぁ」というと、
    少しお酒が入った父が「あぁ・・・そういえば」と言ってから

    「そういえば、お前にあの事件の真相を教えてなかったな」と続けました。
    母は、「ちょっと」と父の発言を制止しようとはしましたが、父は構わず続けました。

    「お前の風呂場で見た通り、髪の長い女がな、この家に侵入してたんだよ。だけどな。その女、泥棒じゃなかったんだよ」

    「俺も母ちゃんも知らない、身元も分からない女がな、この家に忍びこんでな」

    「そ こ の ド ア ノ ブ に タ オ ル 括 り 付 け て な 、首 吊 っ て 自 殺 し て た ん だ よ 」

    ・・・
    この事件は空き巣とか、強盗とか、あるいは連続殺人犯とか・・そんなものではなかったんです。
    一人の女が自身の死地を求めて彷徨い、全くの赤の他人の家に忍び込んでそこで命を絶ったという事件だったんです。
    ただ、中学生にこの事実はあまりにショッキングすぎると両親は黙ってたそうで・・・
    もっとも、このショッキングな事実があるにもかかわらず、引っ越すという判断をしなかった両親はそれはそれで怖いのですが。

    「なんで一人暮らし前にそんなこと教えるんだよ!」と半泣きで父に怒鳴りつけましたが、父はゲラゲラ笑っていました。
    「嘘だよ嘘!」という言葉は待てどもありませんでした。

    あの人影に遭遇した時とは違う恐怖・・・
    他所の家を自殺場所に選ぶその女の感情。そして、自殺現場となった家に今の今まで過ごしていたこと。
    1粒で何度の恐怖を味わえばいいのだろうと、私はもはや笑えてすらきました。

    毎年年末は実家に帰省していますが、あの家に入る度、背筋に冷たいものを感じます。
    年末が近いですね。今年もあの家に帰る予定です。

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    6.ある親子の事

    ペンネーム:guro

    私が数年前に勤めていたスーパーはコンビニより少し広いくらいで、裏方というか、青果の仕込み場兼事務所も狭く お客や従業員同士の距離感が近くなりがちでした
    そのため世間話や噂話なんかがお客から流れてきたり、逆に従業員側からお客に流れたりと休憩中や更衣室での話題には事欠かない時もしょっちゅうあり、それがトラブルを招いたりもありましたがそこそこ仲良く働けていました

    「また来てる」

    そういう、変わったお客の来店を休憩に入ったバイトの子が事務所でぼやくのも日常でした
    私はあまりそういうネガティブな話題には乗り気がしないし、幸い伝票を整理している店長が相手してくれるので聞き流すようにしていましたが
    その時に限っては内心そのバイトの子と同じ感情を抱いていた

    ある親子の事です

    毎日色々な人間と接するこの仕事では一人一人との接客を大切にしなければならないと言いながらも、全て来客を把握するのは難しい
    それでもその親子はそれなりの特徴がありそれなりの頻度で買い物をしていく常連客だったため、従業員は皆顔だけは知っていました

    それは新聞に広告が入る特売の初日、玉子がお1人様100円以下で買える肌寒い冬の日でした
    車椅子に座って目を瞑り、揺れに合わせて頭を振る病弱そうなお婆さんと
    それを押して店内に進むまだ50代いくばくかの男性が強面ながら、にこやかな表情で来店してきました

    噂好きのお客によれば、川を挟んで隣の町のマンションに二人暮らしで住んでいる親子なのだそう

    彼はいつものように特売の玉子を2つ、母親の薄手の毛布を敷いた膝の上に置いて、そのままレジでお会計を済ませ帰っていった
    週に一度、同じ曜日の同じ時刻に彼は母親を連れていつみも同じレジを通る

    “利用しているみたいでなんか…”

    バイトの子はそうぽつりと言いかけて口をつぐんだが、言いたいことは皆わかっていた
    その後店長が「真面目で几帳面じゃん」と笑ってすぐに話を変えた
    あまり従業員が踏み込んで良い事ではないから、私もそう思って何も言わないでいたけれど
    玉子だけを安く買いに病弱そうな老婆を連れ出し利用する行為、というネガティブな憶測を未熟な私とバイトの子は抱いてしまっていた

    当然、聞き付けたレジチーフはバイトの子を注意し、まだ高校生だった彼女は3日ともたず辞める事態となった
    シフトと休憩を回す関係上、親子はいつもレジチーフが担当するレジを通っている、そのためか叱り方にも熱が入ってしまったようだ

    “他のお客様が近くで聞いているかもわからないのにそんな事”
    “顔はちょっと怖いけどそんな人じゃない”
    “いらっしゃいませと言うとあのお母さんはいつもこっちを見てニコッと笑ってくれる”

    感情的だがそれだけ彼女にとっては距離の近い大事なお客様でした

    バイトの子が辞めてからも例の親子は2週間ほど決まった曜日に来店しましたが次の来店を待たずしたある日の事

    “S町の路上であの強面の息子が事情聴取を受けて逮捕されたんだってね”

    と、知らされたのは噂好きのお客からだった、そして

    「彼の母親は1ヶ月前にはすでに亡くなっていた」

    と知らされたのは警察から聞き取りを受けた店長からでした

    それからしばらく店内も外もその話題で持ちきりになりチーフは気を病んだのか休む事が増え、ほどなくして姿を見せないままついに退職してしまいました

    彼女はおそらく4度、冷たい老婆の死体とそれをにこやかな表情で利用していた男を相手に接客をした事になります

    しかし、私はそんな事よりも

    チーフが更衣室でバイトの子を叱ったあの時の言葉を今も忘れられないでいた



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    7.変わったお兄さん

    ペンネーム:またの

    専門学校時代の同級生のI君の実体験。

    冬。
    その日、当時学生だったI君は
    いつものように夕飯の後で
    居間のこたつに入って、
    お母さんとテレビを観ていたそうだ。

    I君には変わったお兄さんがいる。

    I君いわくアタマがおかしいそうで
    (よくふざけてるって意味で)
    お兄さんは二階で、
    日課のテレビゲームをしていた。
    いつも熱中するあまり、叫んだり、
    大きな声をだすこともあったらしい。

    その日もお母さんとI君が
    のんびりテレビを観ていると、

    うおおおおおおおおおおおおおお

    って、いつにないような
    凄まじい雄叫びが聞こえた。
    思わずお母さんが
    「〇〇(お兄さん)、また叫んでる・・」
    と声に出して呆れたくらいだったそう。
    だからよく覚えていたんだって。

    しばらくすると、
    お兄さんが居間に降りてきた。
    I君が、
    「兄貴うるさいよ」みたいに言うと、
    お兄さんは不思議そうに
    「今日ゲームしてないけど」と答えた。
    嘘つけよと思ったけれど、
    特に突っ込むこともなく話は終わったって。

    次の日。
    お兄さんの友人が亡くなったと
    報せが入った。
    自殺だったみたいで、
    それを知ったお兄さんも
    結構ショックを受けていたみたい。
    お通夜にも行ったそう。

    その話を、
    帰宅したお兄さんから聞いたI君は、
    もしかしたらあの雄叫び・・
    と思わなくもなかったそうだが
    お兄さんの普段の挙動が変わっているのもあったから、必要以上には気にしなかったそう。

    そしてまた後日。
    I君は学校から帰る途中で、
    あとは一本道を真っ直ぐ歩けば
    自宅に着くという路地に差し掛かると、
    お兄さんの友人Sさんが、
    手前にある脇道から
    こそこそとI君の自宅を眺めていた。

    お兄さんぐるみで仲が良く、
    I君ももちろん顔見知りのSさん。
    その人も変わっているらしく、
    仲間内ではガチの霊感もちと
    言われていた人だったそうだ。

    I君は、
    何もない自宅への道で
    離れた場所から隠れながら
    様子を伺うSさんを見て、
    うっすら嫌な予感がしたって。

    「Sさん何やってんすか」
    と声をかけると、
    Sさんは驚きながら、
    「あれ、じゃああいつ誰かなぁ」
    と言ったらしい。
    I君は、あいつと言われている人が
    誰かわからなかった。
    というか自宅に続く誰もいない路地しか
    見えているものはない。

    「え、何ですか?」とさらに尋ねると
    「〇〇(お兄さん)んとこ行こうと思って
    来たら、玄関から何か、お前んちに入ろうとしてる奴がいるんだよ。何か気持ち悪いからここから見てた。え、見えない?」と言われた。

    I君には霊感なんかない。
    Sさんは霊感もち。
    二人してこれはヤバイと総毛立って、
    回り込んで
    裏口から自宅に入ったらしい。

    I君のうちは、東北の方にある、
    蔵もあるような、大きな立派な家だそうだ。
    裏口から入って、玄関に回ったSさんが
    「マジでヤバイかも。玄関の磨りガラスみたいなところからべったり顔を貼り付けて覗いてる。何とかして入ろうとしてる。男だと思う。」と言ったんだって。

    本当にヤバイと思ったそうだ。
    お母さんに相談し、
    お兄さんにも話をして、
    かといってどうしたらいいか
    全くわからなかった。
    半信半疑だったけど、Sさんの霊感は
    みんな信じていたし、何よりお母さんも
    お兄さんのじゃないっていう
    変な雄叫びを聞いちゃってたもんだから、
    これは本物なんじゃないのと
    縮み上がってしまったって。

    Sさんが見つけたそいつは、
    I君の家に
    ずっと入ろうとしているらしい。

    I君含め家族は誰も見えないし、
    ただただ気味が悪いし
    でも、放っといてどうにかなるのも嫌だし、
    不安に思ったお母さんが、
    近所の寺かなんかに相談したかで、
    霊媒師を紹介されたそうだ。

    その間玄関を使ったかどうかとかは
    聞いてないからわからない。

    何日か過ぎて、
    霊媒師にお母さんが会ってみたそうで。

    霊媒師が言うには
    「家に入ろうとしているのは
    あなたのお兄さんの同級生です。
    でも友だちだった人とか
    思ってはいけません。
    もう違うものになっています。
    このままだと確かに良くない。
    でも、霊視してみると、
    あなたの家にはあなたの家を守る
    神さまがいる。
    神さまは守ろうとしている。
    だから友だちだったものは
    家に入れない。
    でも、このままじゃ時間の問題。

    あなたの家に、
    その神さまが宿るものがある。
    でも今は忘れられて打ち捨てられていて、
    その力が出せない。

    必ずそれはあるから、
    何とはわからないけど探して祀って下さい。
    見つけさえすれば、
    必ずそれとわかるから。
    あなたの家をよくよく探して下さい。」

    そんなことを言われて、
    お母さんは焦ったそうだ。
    お母さんは
    普段、家の管理を全面的にしている。
    どんなに家が広くとも、
    家の中でわからない場所も、ものもない。
    神さまが宿るものなんて
    そんなものあったか?
    ものがわからない上に
    霊感なんかないし、探したところで
    果たしてそれと分かるのか??

    しかし、霊媒師の言う事は
    いちいち信憑性があったみたいで、
    混乱しつつも信じたそうだ。

    となると家が大変だと思って、
    すぐ家に帰り
    I君やお兄さんに説明して、
    家中を探したらしい。

    必ずわかるからという
    霊媒師の言葉を信じて、
    必死で家のあちこちを
    隅から隅までくまなく探したんだって。

    でもやっぱり家にはない。
    というか何を見つければ
    いいのかも全くわからなかった。

    家にはなかった(と思うしかなかった)から
    あとは、蔵。
    お母さんは蔵の管理もしている。
    放置していても、分からないものなんか
    あるはずない。
    でももうあとは蔵しかない。

    I君とお母さんで蔵を探した。
    ひっくり返したり何度も置いてあるものを
    確認したが、ない。
    わからない。

    途方に暮れたそうだ。
    やっぱり神さまなんて
    そんなものは無いんじゃないか。
    そしたらどうなってしまうのか。

    縋るように上を見上げたお母さん。

    「戸がある」

    蔵の天井に、
    開けると階段が降りてくるような引き戸があった。

    お母さんも知らなかったらしい。
    嫁いでから何十年も住んでいたのに。

    戸の発見に衝撃を受けたまま、
    お母さんは怖がって登れなくて、
    I君が階段を登った。
    二階部分に顔を出したら、
    二階全部が、
    夥しい数の巻物で埋まってたって。

    めちゃくちゃビビってたけど、
    ここしかないと思って巻物をひとつひとつ
    お母さんに手渡していった。

    でもわからない。
    手当たり次第掴んでは渡して、
    巻物の数も減ってきたころ。

    本当にあと最後のひとつの巻物だけ
    明らかに他のものとは違って
    とにかく古いものに見えたそう。

    あ、これだ。
    と、不思議と何にも疑うことなく
    それが見つけるべきものだと
    理解できたそうだ。
    お母さんに手渡して、
    巻物を広げて見ると、
    物凄く怖い顔立ちをした鬼の姿が、
    いっぱいに描かれていたそうだ。

    そうして巻物を祀って、
    その一件は終わったみたい。

    今もその鬼の守り神さまの巻物が
    家にあるんだって。

    私が聞いた実体験で
    一番怖かった話。

    聞いていて、
    鬼の神さまの巻物が
    本当に蔵にあったことも、
    友だちが悪いものに
    なってしまったのも怖かったけど
    一番怖かったことは
    友だちだったものが、
    お兄さんに取り憑いた理由が特にないってこと。

    運が悪ければ、誰にでも
    悪いものが取り憑いてしまうんだって。

    でも、誰にでも守り神さまはいない。
    それが一番怖かった。

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    8.案山子

    ペンネーム:キリ

    兄は高校時代、所謂ヤンキーというやつでした。髪を金髪に染め、ピアスをし、タバコをふかして、滅多に家に帰ってこない時期もありました。
    ヤンキーですから、もちろん心霊スポット巡りなんかにも頻繁に行っていたようで、やはり心霊スポットと言われるくらいですから、時には普通じゃ信じられないようなことが起こっちゃったりもするわけです。
    今や落ち着いてしまった兄に根掘り葉掘り聞いた怖い話の中で、一番怖かったものを紹介します。

    その日、兄と先輩と同級生の合計3人で心霊スポット巡りをしていました。先輩の運転する車に乗り、3件目の心霊スポットに向かう頃には既に明け方になっていました。3人が向かっていたのはありがちな元・ラブホテルの廃墟で、その前に行った二件が有名な心霊スポットだったこともあり、そこは近いからついでに、といった感じだったそうです。

    廃墟に向かう途中、車の後部座席で兄の隣に座っていた同級生が、窓の外を見ながら突然「あっ!?」と叫びました。
    兄「なんだよ、突然でかい声出して」
    同「先輩!ちょっと止めてください!」
    先輩は2、3言文句を言いましたが、同級生に言われるがまましぶしぶ車を止めました。
    同「見えます?あれ、あそこに立ってるやつ!おい!見えるだろ?」
    同級生は先輩と兄交互にそう言うと、窓の外を指さしました。そこは山に囲まれた田舎道で、たくさんの田んぼが広がっています。

    兄と先輩が友人の指差す先に目を凝らすと、たしかに遠くの方の田んぼの真ん中に、女性らしき人物が背筋を真っ直ぐに伸ばしてこちらを見ながら立っていました。ボロボロの服装で、肌が異常に白く見えたので、マネキンかリアルな案山子のように見えました。
    先「いや、ただのババアだろ」
    同「違うんすよ、あいつ、車から姿が見えた時からずっとあのまま動かないんすよ!」
    兄「案山子じゃねえの?」
    同「いや、俺もそう思ったけど......あいつ、目が変なんですよ」
    兄は再び人影に目を向けました。辛うじて目鼻口がぼんやりと見えるくらいの距離でしたが、たしかに同級生の言った通り、他のパーツに対し目が不自然に大きすぎる気がします。絵に描いたようなまん丸の目に見えました。

    リアルな人間の顔にアニメキャラクターのような丸い目のそれは、たしかに少し気持ち悪く感じました。
    兄「いや、だから案山子だろ?」
    同「でもなんか目がキモくね?」
    先「そういう案山子なんだろ」
    兄と先輩は興味なさげにそう言うと、再び車を発車させました。
    その後心霊スポットにつき、中を簡単に探検しましたが、特に面白いことは起こらず。結局3人は30分ほどで車に戻りました。

    帰り道、再び例の田んぼの前を通ると、同級生が身を乗り出して窓の外をじっと眺めます。
    相変わらず、視線の先には丸い目の案山子が不気味に佇んでいました。
    同「ほら、まだ居る。あの案山子超キモい」
    兄「そんなこと言うと呪われるぞ、お前」
    2人の会話を聞き、先輩が再び車を止めました。
    先「そんなに気になるなら見てみようぜ」
    先輩はグローブボックスを開け、双眼鏡を取り出すと車を降りました。同級生と兄も先輩に続いて車から降ります。

    先輩が双眼鏡を覗き、例の案山子の方を見ました。数秒間探るように双眼鏡を覗いていた先輩ですが、突如一歩後ろに下がったと思うと、青い顔をして双眼鏡を下ろしました。
    兄「どうしたんすか?」
    先輩は何も答えません。それを見た同級生は引っ手繰るように双眼鏡を手に取ると、同じように案山子の方に目を向けました。

    同「うっっわっ!!!!」
    同級生はそう叫ぶと、兄の洋服を乱暴に掴みました。
    同「やばいやばいやばいやばい」
    同級生は兄の服を引っ張りながら乱暴に車に乗り込みます。先輩も同じく、急いで車に乗り込みました。
    兄「は!?いや、なんだよ」
    同「いいから乗れ!!早く!!」
    同級生に引っ張られるまま、兄は車に乗り込みました。先輩が急いで車を出します。
    兄は気になって、後部座席に放り投げられた双眼鏡に手を伸ばしましたが、同級生に止められました。
    同「やめろ見るな!!行くぞ!!」
    兄「なんだよ!?なんだったんだよ!!」
    ふと前を見ると、ミラー越しに見える先輩は必死に案山子を視界から外そうとしていました。
    兄「なんだったんすか?先輩」
    兄が聞くと、先輩は恐る恐る口を開きました。
    先「女」
    兄「え?」
    先「瞼が無い人間の女だ。モロに目が合っちまった」
    兄は急いで振り返りました。そこでは、真っ直ぐ前を見て立っていたはずの案山子が、走り去る車を、その不自然に丸い目でじっと見つめていました。

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    9.馬頭さまの日

    ペンネーム:不思議ネット好きのハムスター

    もう何年か前のことだけど、仕事で競走馬の生産と育成やってたときの話。
    当時の俺は18歳。小学生のときからダビスタやってて競走馬に興味があったから、出身地の一番近くにあった牧場に厩務員として就職した。

    のほほんとオーバーオール着ながら豊かな大地で仕事ができるんだって夢を抱いてたけど、仕事は朝早くて急な残業もあって大分キツかった。

    就職して三ヶ月経った頃にはもうとっくにやさぐれてた。給料が良くないわりには力仕事のせいで腰はやられるし、社員の性格は体育会系で荒い人ばっかりだし、自分の時間は作れないしで、なんでこんなところに入ったんだろうってね。結局仕事は四ヶ月で辞めた。

    これから話すのは厩務員として働いていて一番印象に残っていること。人によっては別に怖い話でもなんでもないかもしれないけど。

    馬頭観音ってわかるかな?
    俺も詳しくは知らないが、世の中には馬の神様を奉っている石碑的なものがある。俺がいた牧場にも馬頭観音があったし、違う牧場にもあったから、多分馬を扱っている職場には必ず馬頭観音があるんじゃないか?

    そして俺がいた牧場には「馬頭さまの日」っていうのがあった。毎月19日は馬頭さまの日で、敷地の事務所の裏にある馬頭観音に手を合わせて、みんなで馬と社員の安全を祈った。

    流石にベテランの先輩はわざわざ手を合わせるなんてしてなかったけど、動物が好きで入社したピュアな新入社員たちはだいたいちゃんとやってた。俺も一人はなんか恥ずかしいから同期と一緒にちゃんとやった。

    でも入社して三ヶ月目。6月19日。三度目の馬頭さまの日を迎えたけれど、事務所に用事もなかったし、早く寮に帰りたかったしで仕事が終わっても馬頭観音のお祈りにはいかなかった。その日の夜9時からは俺が夜の餌代え当番だったから、それもあってとにかくしんどくて、面倒なことはしたくなかった。

    夜9時になって寮出て歩いて厩舎に向かった。場内はだだっ広いのに電灯が少なくて、本当に月が出てない日は足元すら見えない。とにかく次の電灯までは暗くて不気味。

    夜の場内が不気味に感じる理由は暗いからってだけじゃなかった。その牧場では二十年くらい前、まだ俺が生まれていなかった頃に自殺してしまった厩務員がいた。そのことについて先輩たちが話してくれたことは少なかった。

    「1頭8000万円ほどの価値がある牝馬Aをたいそう可愛がっていた厩務員がいた」

    「その厩務員が牝馬Aを間違えて牝馬Bがいる馬房に入れてしまった。手綱を離してしまい、しまった!と思った時にはもう遅くて、狭い馬房で牝馬同士はマウンド取り合って暴れて、もう誰も止めることができなかった。結局牝馬Aは体格の良かった牝馬Bに踏み殺されてしまった」

    「高額な牝馬Aを失った責任の重さに堪えきれなかった厩務員は場内で切腹自殺した」

    切腹自殺。俺はその単語にショックを受けたことを覚えてる。時代劇でもあるまいし切腹なんて、その厩務員はどれほどの責任を感じていたんだろうか。

    厩務員が自殺した場所は誰も教えてくれなかった。寮なのか、野外なのか、三件ある厩舎のうちのどこかなのか。今思えば具体的なことを説明すると新人が怖がって一人で夜仕事ができなくなると思ったのかもしれない。

    その話を夜仕事のときに思い出すと、霊感ゼロの俺でもなんだか背筋がゾワッとした。だからなるべくそのことは考えないように、厩舎で安らぐ子馬と母馬に話しかけながらテキトーに仕事を終わらせようとした。

    異変が起こったのは餌代えと水代えが終わって、よし、もう帰れるぞと思って道具を片付けていたときだった。夜の厩舎には馬が餌を食べる音と水を飲む音だけが聞こえるはずだった。

    でもなんというか変な感じだった。ぴちゃ、ぴちゃ、と音がした。その音はこう、上から雫が垂れてきてるような音だった。静かな夜だから雨も降ってないし、馬が水を飲む音とも違う。でもはっきり耳に入ってきた。

    そして上から視線を感じた。頭の上から。各厩舎には広い屋根裏がある。そこに牧草を大量に収納してて、使うときには屋根裏の床にあるバスタブくらいの穴から下に落として馬に与えていた。その頭上にある穴から、すごく嫌な感じがした。

    上を見ればすぐ穴があるが、絶対に視線を向けちゃいけないと思った。何かいる気がしてしょうがなかった。すぐに切腹した厩務員のことが頭に浮かんだ。恨めしそうに目を見開いて穴からこっちを見ている男の姿が。切腹ってどれくらい痛かったんだろう。男はみんなに批難された後、厩舎の屋根裏で寂しく腹を切って死んだんだろうか。自分の行いを悔いながら痛みに喘いで、床に血を滴らせて絶命するときまで苦しみ続けたんだろうか。想像すればするほど心臓が冷たくなって胸が締め付けられた。

    ぴちょんと冷たいものが頭に落ちてきた。俺は片付けも中途半端のまま猛ダッシュで寮まで逃げた。

    夜餌代えをやった当番はそのまま朝も餌代え当番を任されていた。次の日起きた俺は昨日のことが頭から抜けないまま厩舎に向かった。でも朝日も出ていたおかげで怖さは大分薄れていた。というか、片付けをそのままにしておいて帰ったことが先輩方にバレたら怒られると思って、そっちの方が気が気じゃなかった。

    朝の餌代えを終わらせてしばらく経って先輩たちが出勤してきた。休憩時間になってから俺は片付けを中途半端にして帰ったことをバレないように上手く話ながら昨日の夜の出来事を伝えた。先輩たちは「きっと切腹した厩務員が馬頭さまの日に化けて出てきたんだなぁ。先輩として死んでからもお前がちゃんと仕事やってるか見に来てたんだよ」って笑ってた。

    そして「お前もその死んだ厩務員くらいの責任感を持って仕事をしていけ」って言われた。俺的にはその言葉がけっこうキツかった。俺からしたら言い方は悪いが、いくら価値のあるものだと言っても馬一頭が人の命と同等か、それ以上のものとは思えないし、会社の損失を償うために命をかけるのが当たり前という発想が信じられなかった。そういう会社の雰囲気が苦手だった。だから続かずにすぐ辞めた。

    今となって思うのは、あの穴からの視線はただの気のせいだったのかもしれない。でももしかして仕事に対してやる気のなかった俺に、厩務員の霊と馬の神様が怒ったのかもしれないね。

    あと、一緒に働いてた冗談好きで愉快なベテランおじちゃん厩務員が言ってたことを思い出した。
    「あの切腹した厩務員は、発見された当時はまだ生きていた。でも会社の保険にも入っていたし、死ねば牝馬Aの損失を取り返せるくらいの金が入る。だから会社の利益を考えて、誰も救急隊を呼ばなかった」
    本当のことかどうかはわからないけど、お化けも怖いが会社も怖いなって思う。

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    10.お隣さん

    ペンネーム:モモ

     私が、4歳から20歳まで過ごした一軒家は、坂の上にあった。坂の少し下に私たちの家があり、坂のてっぺんにはボロボロのアパートが建っていた。そのアパートには、生活保護を受けて暮らしている老夫婦が住んでいた。老夫婦と言っても髪はまだ黒かったので、実は若かったのかも知れない。幼い私にとっては、落ちくぼんだ小さい瞳や、しわしわの手や顔が老けて見せていたのだろうか。

     その老夫婦の、おばあさんの方が、事あるごとに窓を開けて私達を見ているのだ。

     私の家とそのアパートは、庭と塀をはさんだすぐで、私達の居間や子供部屋が、丸見えになってしまうのだ。
     それは、おばあさんのお誘いに、母が断り切れずに一緒にアパートの中に入ってしまったときに判明した。

     私が覚えていないだけかもしれないが、その部屋は何にもなかった。テーブルもあったかどうか怪しい。だが、台所の窓をのぞいてみて、あまりにも私たちの家が、中までよく見えるのにぞっとしたことは覚えている。

     おばあさんは、事あるごとに窓を開けてずっとこちらを見ていた。目が合うと、にっこりしていたので、自分たちが気味が悪いという自覚はなかったのだろう。
     だがこちらにとっては、相当に嫌だった。関わりたくなかったので、交流ももちろんなかった。それは家族も同じで、気づかなかったかのように、ひたすら無視していた。

     居間から見える庭は、梅や山茶花や、サンゴ紅葉があり、とても綺麗だったが、いつしかずっと厚いカーテンを閉めたっきりになってしまった。

     おばあさんが時々窓を開けて、こちらを見てくるのを見るのが嫌だったからだ。
     これは私がおままごとを卒業したからかもしれないが、子供部屋で遊ぶのもやめてしまった。そこには絵本がたくさんあったが、その絵本を自分の部屋に持ち込んで読む方が落ち着くのだ。理由は言うまでもない。

     私達の家族は、自分で言うのもなんだが、素敵だったと思う。私と妹の姉妹は、私が日本人形、妹がフランス人形のように可愛いとよく言われていた。母はお洒落で陽気で、暇があればピアノを弾いていた。父はいつもほとんど同じ時間に帰ってきて、家族の団らんを大切にしてくれる。

     私達は、ピアノに合わせて歌を歌ったり、時にはテーブルを端に寄せて、音楽に合わせてダンスをした。
     天気の良い日には庭に出て、熟れたグミや杏子を籠いっぱいに摘んで、妹と一緒に口に頬張ったりした。
     クリスマスにはケーキを囲んで、クラッカーを鳴らしたり、お正月や七五三には、自身も着物姿の母が、私達の着物を着つけて、髪を結ってくれた。

     そんな様子を、お隣にいたおばあさんは、目を細めて見て いたのだろう。
     殺風景で何にもないボロアパートに住んでいる老夫婦にとっては、私たち家族の様子を眺めるのが、唯一の楽しみだったのかも知れない。
     こっちにとってはキモイだけだったが。申し訳ないのだが、おじいさんの方が亡くなって、おばあさんも引っ越してくれた時には心底ホッとした。

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    11.冬のラジオ体操

    ペンネーム:桜木(仮名)

    幽霊など関係なく、今思うとそこまで怖くない
    話かもしれませんが、当時はしばらく一人で寝れないほど怖かった話です。
    小学生の頃、冬休みに入ると祖父母の家に泊まりに一人で行っていました。朝になると近所の公園では冬なのにラジオ体操をやっており、(といっても参加者は数人程度でした)祖父と一緒によく参加していました。いつもラジオ体操の始まる30分前に公園に行き、祖父と暖かいココアを飲みながらお話をするのが日課でした。

    この日もいつものようにまだ日が昇りきらず
    薄暗い空の中、公園のベンチで祖父とお喋りしていました。この日は風が少し強くとても寒い日だったのを覚えています。しばらくするとギィ、ギィという何かが擦れるような音が聞こえてきました。しかし特に気にすることも無く、祖父とのお喋りに夢中になっていました。しばらくすると時間になり、ラジオ体操をして家に帰りました。

    お昼頃のことです。晩御飯の買い物のためにスーパーへ祖父と行く途中、警察官と野次馬の方が公園を取り囲んでいました。一体何があったのかと祖父が聞くと、なんと公園で男性の首吊り自殺があったようでした。このあとで聞いた話ですが、
    私と祖父が朝のラジオ体操前にベンチで喋っている時、既に後ろでは男性が首を吊って死んでいたとのことでした

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    12.思った通りの女

    ペンネーム:たばしる

    これは、私の大学以来の友人から聞いた話です。

    その友人はC子といい、一緒に授業を受けたりする仲の良い友人でした。
    C子は複数のサークルを掛け持ちしていて人付き合いもいいため、私以外の友達も多くいました。

    しかし、彼女はちょくちょく私をご飯に連れ出してくれて、二人で飲んだり、お互いの家に泊まったりして他愛もない話に付き合ってくれました。
    なんというか、それくらいいい子だったのを覚えています。

    その大学も卒業し、それぞれ別の県へ就職しました。
    他県とはいっても隣の県だったということもあり、卒業後も二人でよく食事に行っていました。

    25歳のとき、C子は結婚しました。
    お相手は会社の先輩で、付き合っていた当時は電話やメールで、よくのろけ話を聞かされたものです。

    式は挙げないということで、私は結婚祝いもかねてC子を食事に誘いました。
    お店に入ってきたC子は、浮かない顔をしていました。
    話をしていてもどこか上の空で、私は「これがマリッジブルーなのかもな」などと考えていました。

    運ばれてきた料理を大方食べ終わったころ、心配する私に

    「こんな話聞きたくないかもしれないんだけど」

    と言って、C子はぽつぽつと話しだしました。

    半年くらい前のこと、彼からのプロポーズを二つ返事でOKして、家族へのあいさつや結婚式場などを二人で考えていたそうです。

    そんなある日、C子は夢を見ました。
    子どものころの自分が、女の人に追いかけられる夢。

    C子は小さい頃通っていた小学校の一番長い廊下、そこに1人でポツンと立っていました。
    はるか遠くの突き当たり、非常階段の出入り口のところにその女は立っているのです。
    いや、立っていると思った時には、こちらに向かってスルスルと、すべるように近づき始めていました。
    C子は得体の知れない恐怖に取り憑かれ、無我夢中で逃げました。

    目覚めたとき、C子は汗でぐっしょりとしていたそうです。

    C子の彼はよくモテていたらしく、「前に振った元カノの呪いなんじゃないの?」などとはじめはC子もふざけて彼にそう言っていたらしいのですが
    その夢が2回目、3回目となるごとに、笑えなくなってきていたようです。

    一ヶ月ほど断続的に夢を見ました。
    あるときは誰もいない電車の中、またあるときは夜の公園。
    女は急に夢の中に現れ、幼いC子を追い回しました。

    C子は女の顔を見ました。
    生気の感じられない、ややもすれば穏やかな顔。
    しかしその目は、何かを見据えたような無機質な、無感情な目でした。
    また、女は夢の度にC子により近くまで迫っているようでした。

    C子は悩みました。
    それが呪いかどうかはわかりません。
    しかし、知らない誰かから不意に向けられる悪意、憎悪は、C子の精神をひどく蝕みました。

    C子は寝るのが怖くなり、ついには体調を崩してしまいました。

    C子の家は父方の実家で、おばあちゃんと一緒に暮らしていました。
    C子の両親は共働きで、C子はおばあちゃんと一緒にいることが常でした。
    そういうこともあってC子は大のおばあちゃんっ子。結婚の報告も、いの一番にしたそうです。

    そんなC子がおばあちゃんに悩みを打ち明けたのも、至極当然のことでした。
    おばあちゃんはC子の話をうんうんと聞いて、とても心配してくれました。
    「大丈夫よ、大丈夫」というおばあちゃんの声を聞くと、C子も少し心が軽くなったそうです。

    おばあちゃんが倒れた、という知らせを聞いたのはそれから何日か後、C子が会社に出勤をした直後のことでした。
    C子はとんぼ返りして、病院へ駆けつけました。

    おばあちゃんは眠っていました。
    お父さんがお医者さんから聞いた話によると、疲労で心臓が負担がかかっているようであるとのことでした。
    一時的に発作が出ただけで、しばらく入院すれば大丈夫だろうと。

    しかしそれから、おばあちゃんはどんどん衰弱していきました。
    呼吸器にも病気が見つかったらしく、時折発作が起きるとのことでした。
    発作は夜中、家族がいないところで起きました。
    夜中、それは夢を見る時間でした。

    C子は後悔しました。
    なぜあんな話をおばあちゃんにしてしまったのか。
    根拠はありませんが、C子には恐ろしい予感がありました。

    あの女はおばあちゃんの夢にも現れているのではないか。
    自分を憎む誰かの呪いは、自分が大切にしている人にも影響を及ぼすのではないか。
    自分のことのように私を心配してくれるあのおばあちゃん。
    そのおばあちゃんに迫るあの無表情の女を想像しただけで、C子は泣きたいほどの絶望に打ちひしがれました。

    C子の夢も続いていました。
    その日は、C子の古い実家でした。
    C子の実家はC子が中学生のときに建て替えをしているのですが、夢の中でC子はその建て替える前の家の廊下にいました。

    人気のない、薄暗い家。
    夕方でしょうか、磨りガラスの窓の向こう側は、重たい灰色が立ち込めていました。

    声が聞こえました。
    廊下の角の向こう、居間の方で、誰かが言い合いをしているようです。
    何を言っているのかまではわかりませんでしたが、そのうちの1人の声の主は、C子の母親のようでした。

    C子は母親を呼ぼうとして、冷たい板張りの廊下を歩こうとしました。
    ふと、傍らの風呂の戸が少し開いているのが目につきました。
    自分でも何故だかわかりませんが、その戸を開けてみたい衝動に駆られました。
    C子がゆっくりとその戸に手をかけようとしたそのとき、その手を内側からぐっと掴まれました。

    あの女です。
    女は戸の隙間から体を出し、C子を押さえつけると、首に手をかけてきました。
    冷たく、細い指がC子の首に食い込むのがわかります。
    C子は女を睨みました。
    女はそんなことなど意にも介さないような無機質な表情でC子を見下ろします。

    (消えろ消えろ消えろ消えろ)

    C子は恐怖心をかき消すように心の中で念じ続けました。
    しかしその抵抗もむなしく、首には無慈悲な力がかかります。
    そのまま意識が遠のきました。

    「C子!」
    目の前にいたのはお父さんでした。

    「病院にいく」

    お父さんは小さくそう言って、C子の手を引きました。

    早朝の病院に着くと、そこは水を打ったように静かでした。
    家族はお医者さんから話を聞きました。
    夜中に大きな発作があったこと、今は薬で落ち着いているが、体は衰弱しきっているということ。
    おそらくは、もう長くないということ。

    病室に入り、家族はめいめいにおばあちゃんのベッドの周りに立ちました。
    おばあちゃんは眠っているのかどうかわからないような顔で、ぼんやりと天井を見上げていました。

    C子は泣いていました。
    自分のせいでおばあちゃんは死ぬんだ。
    心配をかけて、負担をかけたせいでおばあちゃんは死んでしまうんだと。

    しかしC子は同時におばあちゃんの言葉も思い出していました。

    「そんなに悲しい顔したらいけん。大丈夫だから。
    C子ちゃんは笑っとるのが一番ええ」

    自分の話を信じてくれたのか、それとも結婚に対する不安を感じていると取ってくれたのかはわかりませんが、おばあちゃんは優しくそう言ってくれました。

    これでおばあちゃんとのお別れだったとしても、最期に見た孫の顔が悲しそうだったら、おばあちゃんも悲しいだろうな。
    そう思ったC子は辛い気持ちを押し殺して、一生懸命笑顔を作りました。

    その時でした。
    ぼんやりとこちらを見ていたおばあちゃんの口元が、パクパクと動いたのです。
    まるで何かを話そうとしているように。

    「なあに?おばあちゃん」

    C子は駆け寄り、ベッドのそばにしゃがんでおばあちゃんの声を聴こうとしました。

    「~~...~~....」

    かすれた、空気の漏れるような音。
    声が出せないのかもしれないと、C子はおばあちゃんの口元に、耳を近づけました。
    できるだけ笑顔で、できるだけ何事もないかのように。

      しばらくの間がありました。
    とても静かな間でした。

    その長く長く感じられた数瞬の後、耳元で声がしました。

    「思った通りの女になったな」

    それは今まで聞いたことのないような唸るような低い声でした。
    C子ははっとしておばあちゃんの顔を観ました。
    真一文字に結んだ口、土のような顔の色。
    しかし、その無感情で無機質な目は、確かにC子に向けられていました。

    C子はそのときはっきりとわかったそうです。
    どんな理由かはわからないけれど、自分を呪っていたのは、おばあちゃんだったんだと。
    自分を殺したいと思っていたのは、おばあちゃんだったんだと。

    おばあちゃんはそのまま亡くなりました。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーー
    「仲、悪かったんだって。おばあちゃんとお母さん」

    話の最後に、C子はそう呟きました。

    結局私はその日、「なんで結婚式しないの?」という質問を、店を出るまでマフラーを外さなかったC子には、聞くことができませんでした。

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    13.愛してるの

    ペンネーム:ウワノソラ

     リアルじゃ誰にも言えないんで、ここで吐き出す。高校時代の話。うちは俺、母、父、姉の四人家族。思春期になっても家族仲は良かった。父母ともに笑顔を絶やさない人だったからだと思う。

     ある時、親父の出張と姉の部活合宿が重なり母と俺だけが家にいる日があった。夜、ベッドで寝てると首の痒みで目が覚めた。そしたら、母が俺の首を舐めていた。思わず突き飛ばして明かりをつけると、母が下着姿なことが分かった。一気に眠気が覚めた。心臓がギュッて掴まれるような感覚になって、横になってるのに脚がブルブルと震えた。

     「なに?」か細い声でなんとか絞り出すと、母は俺のことが好きなんだと言った。その時の母の目が本当に気持ち悪かった。怖くて泣きそうだった。いつもの母と全然違う。「ごめん」としか言えなかった。母は何も言わず下を向いて部屋から出ていった。

     その夜は一睡も出来なかった。緊張でトイレに行きたくなっても、部屋の外に母がいると思うと出られなかった。気持ち悪くて部屋のごみ箱に吐いた。声を押し殺して泣いた。
     次の日、何度も悩んだが部屋から出ると、母はいつも通りご飯を作っていた。普通に「おはよう」と言ってきた。それ以外は何も言わなかった。飯の時も無言だった。

     父と姉が帰ってきてからも、母は何事もなかったかのように振舞ったし、俺は怖くて何も言えなかった。何度もあれは夢なんだと思い込んだが、部屋の吐瀉物を片付けた記憶がずっと残っていた。それからは母と二人になることを避けるようにした。

     俺は地元の大学に進むつもりだったが、ランクを上げて東京の大学に行くことにした。離れた場所で一人暮らしをするために。父と姉は応援してくれた。母も「がんばれ」と言った。

     受験の三か月ほど前、母は父と旅行に行き家を空けていた。俺は大学寮にいる姉から頼まれ、ハンコを探していた。姉は母の部屋にあるはずだと言ったので、母の部屋に入って引き出しをいろいろ開けると、ノートがあった。直感的に、見ない方がいいと思った。けど、見た。ほとんど空白だったが、最後のページに「○○くんが大学落ちますように。お願いします神様、愛してるの」と書かれていた。心底ゾッとした。あの時の記憶が蘇ってきて、トイレに行ってまた吐いた。

     俺は東京の大学に受かった。家族は喜んでくれたが、母の目は笑ってなかった。一人暮らし先に母が来たこともあるが、警察を呼ぶぞと脅したら泣きながら帰っていった。本当は警察どころか誰にも言えないのに。

     俺はあれから女性の「情念」というか「想い」みたいなものが怖くなった。女性と必要以上に仲良くなることを避けるようになってる。遊びに誘われても何かと理由を付けて断る。性欲は自慰で解消している。俺はこれからどうすればいいんだろう。



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    14.メル○リ

    ペンネーム:姫ちゃん

    1年前ほど前から貯金したくて昼の仕事と併用して風俗嬢をしていました。
    私を指名するお客さんは若いイケメン風の方もいれば太ったおじさんまでさまざまなんですけど、中でも強烈だったのが仕事の出張で東北地方から来たAさんでした。そのAさんというのが、かなり特殊な方で、「今回の出張は○○さんと出会うため神様がチャンスをくれた」だの「○○さんは僕の天使です。だから絶対に彼氏を作らないでください」とかちょっとおかしいな、と思うようなことを言う様な方だったんです。

    まぁ、ここまでは、初めての風俗でテンション上がっちゃったのかな?と思っていたのですが別れ際「次もまた必ず会いに来ます」と言うのが何故かやけに引っかかっていました。
    そして案の定、またすぐに来店したのです。大きな手土産付きで。
    中身は高価なプレゼントや、ぬいぐるみに化粧品。そしてAさんの地元の特産品や、特産品をモチーフにしたマスコットキャラクターが載ったグッズ。

    その場ではお礼を言い、貰ったはいいのですが置き場にも困るので何となくCMで耳にしたことのある有名なフリマアプリで売ることにしました。
    そして出品したのはいいのですが、相場が分からず、かなり高額な値段設定にしていたこともあり数日間は何も音沙汰無しでした。ですがある日、Aさんに貰ったプレゼントすべてが誰かに買われていたのです。急いで商品の発送をして、数日間の後、購入者の方に届いたそうです。私も無事換金することができて、Aさんやフリマアプリの事などもうすっかり忘れていました。というのも数カ月からストーカー被害にあっていて、それどころではなかったので。

    家の周りを足音を鳴らすように徘徊されたり、郵便受けのものがすべて開封済みになっていたり、夜が遅い時はスーパーのお惣菜がドアにかかっていたり。まあ、予想はつくと思いますが犯人は、勿論Aさんでした。どうやって私の住所を割り出したかというと、複数のフリマアプリを常に監視して、出品数の少ないマイナーなマスコットキャラクターが出品されると、フリマアプリから通知が来るそうです。その後プロフィール欄から発送される県を確認できるのですが、自分のあげたプレゼント全てが出品されていたこと、発送される県が一致したため、私だと確証したそうです。
    そして、発送する商品には原則として私の住所や名前を宛名する必要があるためそこから私の身元を割り出したそうです。

    あと、ストーカー法って思っていた以上に刑が軽いんですね。
    私は現在引越しをしていてAさんや風俗関係者とは関わることはないのですが、メルカリのCMが流れる度、いつか私より大きな事件が起きそうで怖いなあと思っていしまいます。
    これ実話なのでAさんがもし見ていたら少し怖いです。ありがとうございました。



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    15.身近な恐怖

    ペンネーム:唐揚げ屋さん

    僕は生まれてこのかた一度も恐怖体験をしたことがありません。いまだにおばけは信じてもいません。ただ、この一件があってから人を見る目は少し変わったかなと思います。

    僕には4つ離れた妹が1人います。僕が大学2年の時妹は高校2年生。また僕が家族と住んでいたマンションは少し特殊で、101号室~401号室までは行き来可能なのですが102~402や103~403は明確にエントランスごと分けられており、部外者は入ることは出来ません。全てを一括した管理人
    さんや、業者らしき清掃の方、植え込みを手入れする方など関わる種類は多いのですが
    どんな人が近くに住んでいるかはよくわからない状況でした。

    毎朝の通学は妹と同じ時間です。2人で同時に家を出て、温和そうな掃除のおじさんに挨拶、最寄駅で別れ各自ごと。いつものルーティーン。

    夏休みに入る前くらいでした。私が大学生活を変に謳歌しだして家に帰るのも2、3日に1回になっていた頃。宛先が妹で変な手紙が届きだしました。
    告白なのか妄想なのかなんなのか。意味のわからない手紙。送り主もわからず週にI回ほど。僕はわりと面白がっていましたが当の本人には相当なストレスらしく、即捨てていました。
    秋頃になると雰囲気が変わります。文面に服装や行動の注意や指示が追加され始め段々と告白と言うよりは脅迫ともとれる内容になっていきました。家族も妹本人もヤバいやつに絡まれていると感じ始めていました。
    なんの毛なのかわからないものや爪らしきもの、気味の悪い写真もこの頃送られてきました。特に妹本人はストーカー絡み、変質者に殺されるといったニュースに異常に怯えたり、常に帰宅は家族に電話しながらとなりました。
    決定打は掃除のおじさんが妹宛の小包がエントランスにあったよと渡してきたとき。ものすごい数の盗撮写真、大量の毛と排泄物らしき物体。
    即警察に通報しました。親が通報するために残しだしていた手紙の数や送られてきた異物を警察も重く見てくれました。エントランスの防犯カメラも警察であればすぐに確認可能でした。ストーカーという奴はどういつやつなのか。どの顔でこんなもん置いていってんだと僕は心配というよりかは興味の方が強かったです。


    手紙を書いていたのは掃除のおじさんでした。
    盗撮していたのも掃除のおじさんでした。
    小包を置いたのも掃除のおじさんでした。


    温和で優しそうな掃除のおじさんはとんでもない変質者でした。むしろ守っているんだという常軌を逸した発想。即逮捕でした。特に妹が命の危険にさらされたり、危機一髪誰かが助けたりといった小説みたいな展開はありません。一件落着です。

    ただ

    そのおじさんはマンションとなんの関係もない人だと判明しました。
    近くに住んでいた普通のおじさん。
    誰かに雇われたわけでも頼まれたわけでもない。勝手に掃除していた。半年以上前から。

    この事件はもう何年も前です。このおじさんも重い罪にはならなかったと思います。普段関わる業者や何気なく、よく顔を合わせる人。
    周りにいませんか?その人間、本物の業者ですか?
    通り過ぎた後、試しに振り返ってみてください。悪意の目でじっと見つめているかもしれません。

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    16.家にきた「何か」

    ペンネーム:らりごりら

    あまり幽霊とかは信じてないけど、昔遭遇した唯一の怖い体験を思い出したので語っていきます。

    忘れもしない小学5年生のころ、両親が共働きなので2歳下の弟と2人で留守番をしていた時の出来事。
    土曜日の夕方と夜の間くらいの薄暗い時間。弟と1階のリビングで銀○のアニメを見てたら、「ピンポーン」と家のチャイムが鳴った。
    子供だけでのお留守番。もちろん親には誰が来ても出ないように言われてたのでいつもの様に居留守を決め込んでた。
    けれどその日はいつもと違ってチャイムが3回、4回と鳴り続けて止まらない。
    何かがおかしいとは感じつつも、家から出なきゃ大丈夫だろうと構わず○玉を見続けてた。
    次の瞬間、玄関のトビラを「ガチャガチャ!」と開けようとする音が聞こえ、これは頭のおかしい人が家に侵入しようとしてるんじゃ...?と初めて臨場感をおぼえた。
    なぜなら仲の良い友達には電話番号を教えてて用がある時は事前に必ずかけてくるから。

    震えてる間にも扉を開けようとする音は止まらず、無理やりドアノブを引っ張って何度も、何度も開けようとしてきた。そのたびにかけていたカギが壊れそうなほどの強い衝撃が家に響いたのを覚えてる。
    5分くらい?(ずいぶん長いように感じた)でその音もやんでやっと帰ったかと思った瞬間、今度はリビングの大きな窓をものすごい力で割らんとばかりに叩きはじめた。
    雪国なので二重窓に分厚いカーテンをしていたが、今にも割れそうな勢いでガンガン叩いてくる。外の「何か」に自分らの存在を気づかれたらヤバい!と思い即座にテレビを消し窓から離れ、万が一「何か」に入られた時に弟を守るために家にあった木刀をかまえて震えていた。
    何分かしてその音は止んだが、それが止んだと思ったらチャイム連打&ドアガチャの無限ループ。
    僕の家は玄関のドアからちょっと離れたところにチャイムと門がある構造をしてる。だからこの速さは明らかにおかしいと外にいる「何か」が異質だと感じ始めた。
    そこで2階の自分の部屋に上がって、窓からこっそり外の様子を見てみようとしたがどれだけ見る角度を変え、高さを変えても何も映らない。
    気づけば侵入者の音は止んでいる。
    リビングに戻り弟の無事を確認し、恐怖を紛らわすためにまたテレビをつけて何故か立ったまま見てた(笑)

    次の瞬間、ドン!!と玄関のドアがものすごい力で引っ張られる。
    完全に安心しきっていたからかもう頭がおかしくなって、弟に台所にあった包丁を装備させて2階の窓から外を監視させることにした。僕は玄関に行き、外の「何か」に「誰ですかァァ!?」と精一杯の勇気を振り絞って怒鳴った。
    涙は止まんないし今まで出たことも無い声が出るし、とにかく人生であんなに自分の無力さを感じたことはなかった。
    しばらくして扉の外が無言になったから、恐る恐るドアスコープを覗いてみたけど庭しか映っていなかった。
    すると今度はリビングの窓を叩く音が。
    カーテンを開けて正体を見ようと思ったけど、そんな勇気はなかった。
    だって狂ったように叩き続けてるんだぜ?
    ほぼ錯乱状態のなか、なんとか電話の存在に気づいた僕は外部に助けを求めることにした。
    が、なぜか警察ではなく同級生の家に助けを求める痛恨のミス。
    何件かかけたけどその日は土曜日。みんな外食やらクラブ活動やらで助けは誰ひとり...来ませんでした。
    その間も四方八方から侵入しようとする音は止まらずパニック状態で木刀をかまえながらリビングと玄関をウロウロする僕。
    最初のチャイムから30分ぐらい経っただろうか、降りてきた弟が「お兄ちゃん、警察呼ぼう」と提案してきた。昔からできる奴だったよお前は。
    その手があったか、完全にメダパニ状態で気づかなかったがとにかく電話をしてやっと助けを求めることが出来た。
    2階に上がって外の状況を確認しながら待っていると5分くらいして警察が到着。
    パトカーが家につく1分前くらいから音は止んでしまい、警察には近所に不審者情報はないし誰かのイタズラだろうと言われ「何か」の正体はわからずじまいだった。
    その夜は家中の電気を付けて親と一緒に寝た。
    僕も弟も友達は普通にいて、恨まれるような覚えも全くなかったから友達のイタズラなんかじゃないと思ってる。何よりあの力
    は完全に大人のものだった。

    何より1番の謎は、うちの親父は防犯意識が異常に高くて庭中に音の鳴る石(名前わからん)が大量にまかれてて、玄関からリビングの外に歩く度にジャリジャリと音がなるのだが、あの日は全く足音はしなか
    ったし、チャイムのある場所から玄関や庭に入るための門を開ける音もしなかったし2階で見張らせていた弟も外に人はいなかったと言っていた...

    後日、親友にこの話をしたらババサレっていう妖怪の仕業じゃないかと言われたのが妙に説得力あったなあ。
    某有名会談動画にもこの体験そっくりのエピソードが載っていたし未だに謎の多い体験だった。
    それでは駄文失礼しますたm(_ _)m

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    17.祖母

    ペンネーム:ペレペレ

    私が幼稚園の年少時に両親が離婚し、私は母親に引き取られました。
    それと同時に、母方の祖母が一人で住む、母親の実家で新しい生活が始まりました。

    母親が仕事に出ていた為、幼い私の面倒を見てくれていたのは祖母でした。

    そんな生活にも慣れたある日、祖母と二人で散歩をしていた時の事です。
    家の近くの海沿いの道を、祖母と手を繋いでゆっくりゆっくり歩いていました
    。 その時、ふと祖母が歩くのを止めたので、私は祖母の顔を見ました。
    祖母は海の方を見つめています、無表情だった事をはっきりと覚えています。

    子供心に祖母が心配になりましたが、私はうまく言葉に出来ず、ただただ祖母の顔を見ていました。
    数分が経った頃、じゃあ行こうかと私に声をかけ歩き始めたのですが、私は怖くて怖くてたまりませんでした。
    何故なら、祖母の声が今までとは全くの別人だったからです。

    それ以来、どことなく性格も変わってしまった祖母ですが、何故かたまに出る寝言だけは昔の声に戻ります。

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    18.ILU

    ペンネーム:澪
    塾から帰ろうとすると自転車が盗まれていた
    家に連絡を入れると
    「お父さんがまだ帰っていないからコンビニで時間つぶしてて」
    って言われた
    それはそれで面倒だし、その日は見たい番組もあったので近道を通って帰ることにした
    そこは長くて細い急勾配の登り坂で、自転車だと通らないけど歩きだとけっこうな時間の短縮になる

    でも夜通るのは初めてだった
    廃工場やボロボロの物置小屋に挟まれた坂道
    街灯もまばらで、思っていたよりずっと暗かった
    電柱や割れたガラス窓の向こう側に、何かが潜んでいそうな気配を感じる
    自然と早足になって息が荒くなる

    ふと顔を上げて坂の上に目をやると、誰かが一人降りてくる
    バタバタと足音を立てて大声で何かわめいてるようにみえる
    遠目からみても明らかに様子がおかしい

    一瞬引き返そうかとも思ったが、とっさに携帯を出して話しているフリをしながら様子を見た
    近づくにつれ男の声が大きくなり
    それがただ鼻歌交じりにヘタな歌をうたってるだけだってことが分かった

    えらくコブシのきいた歌いまわしをしていたが知っている
    尾崎豊の I Love You って曲だ
    ただの酔っ払いのおじさんか

    ホッと安心して
    (そうだ、このまま家に電話しておこう)
    そう思ってかけようとしたとき、おじさんに声をかけられた
    「この辺は変なのがいるからな、子どもは夜に一人で通らないほうがいいよ」

    変なのはアンタだろう
    そう思ったがもちろん口には出さなかった
    何より、その時点ではもう酔っ払いには見えなかったから
    口調は確かで足取りもしっかりしている
    さっきの振る舞いは何だったんだろう

    数日後、盗まれていた自転車が見つかった
    サドルがとがった何かで傷つけられていて
    I L U
    と書いてあるように見えた

    そこで合点がいった
    あの時、私の後ろを自転車を隠した「変なの」がつけてきていたのだ
    おじさんの振る舞いはそいつに自分の存在を知らしめるためだったんだろう
    あの時ちゃんとお礼を言っておくべきだったと思ったが
    日中であれ、あの坂道を通ることは二度と無かった



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    19.すいか割り

    ペンネーム:むぞくせい

    あんまり怖くないかも知れません。
    俺も当時は何とも思わなかったけど、
    今になってみると、ちょっと怖いです。

    「すいか割り」

    保育園に通っていたころ、夏のキャンプで
    すいか割りをしていた時の話です。

    交代で目隠しをして、ひとりずつ順番に
    すいか割りをするのですが、保育園児には難しく
    誰もスイカに当てることができずに
    俺の番が回ってきました。


    俺は保育士の先生に目隠しをされました。
    そのとき、タオルの結び方が甘くて
    目の下にわずかな空間ができ、そこから
    足元が見えるようになっていたのですが、俺は
    それを申告せずにすいか割りに挑みました。ズルです。


    周りの園児たちの指示も聞かずに、俺は
    足元の視界をたよりにスイカまでたどり着きました。

    周りはみんな「もっと右!」とか
    「右にあと10歩!」とか大騒ぎしていましたが
    構わず足元のスイカにバットを振り下ろしました。

    保育園児とはいえ、力いっぱい叩いたので
    目隠しを外すとスイカはばっくり割れていました。
    ふと、指示された10歩右の方を見てみると、
    次の順番の、いじめられっこの女子が
    目隠しをされている所でした。



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    20.ネコに追われる夢の話

    ペンネーム:赤い鯉

    気がついたら一人、学校のトイレの個室に隠れていた。
    何から隠れているのかは分からなかったが、なんとなく何かから隠れている気がした。
    部屋の中は薄暗く、扉の向こうからは何の音も聞こえない。
    すぐに夢だと分かった。
    夢を見ている時に、理由も根拠も無いのになんとなく『これは夢だ』と察するあの現象だ。
    夢だと分かって安心したのか、今度はこの夢の世界に興味が湧いてきた私は、この後も暫くこの個室に隠れておくことにした。
    だが、私から動かなければ夢の方が先に動くのかもしれない、という期待も時が経つにつれて段々と萎んでいき、代わりにこの世界への不安と恐怖が湧き上がり始めた。
    というのも、夢の中であっても外の見えぬ狭い個室で、音のしない時間を過ごすのは流石に、純粋に怖かったのだ。
    恐怖は心象世界にも伝染したのか、だんだんと何の色も示さなかったトイレの個室の雰囲気が変わり始めた。
    薄暗かった部屋は更に暗さを増し、異様なほどの静けさが気になってくるようになった。
    便器も壁もいつも通りの色なのに何故か夕焼けのように赤く感じられてきて、それが不気味で耐えられずに個室の扉を開けた。

    扉の先は、記憶の中の学校のトイレと何一つ変わらなかった。
    洗面台の全てに取り付けられた鏡を見るのが怖くて、そちらを見ないようにしながら急いでトイレの外に出た。

    ここでも記憶通りに学校の廊下に出たが、予想していた青空とは違って、驚くほどに空は青かった。
    文字通りに雲一つない空が怖くて、何を思ったのか私は学校を出る事をせずに階段を上がり始めた。
    半分くらい階段を登り終えた時、後ろから突然チェーンソーを持った二足歩行のネコが追いかけてきた。
    着ぐるみを平たくした感じのネコで、アニメに出てくる人の姿をしたネコみたいな奴だった。
    恐怖と訳の分からなさで思わず絶叫した。
    声を出して叫んだと自分は思ったが、恐怖に打ち消されて声は出ていなかったらしい。耳に自分の声は届かなかった。
    びっくりして階段を駆け上がり、三階に辿り着いた際にチラッと後ろを振り向くと、ネコはニタニタ笑いながら嫌味なほどにゆっくりと階段を登っている最中だった。
    まるで獲物を追い詰め狩りを楽しむ猟師のようだ、と思った。捕まったら何をされるかは考えたくもない。
    ネコの顔は覚えていないが成人男性くらいの身長だったことと、何故かたこ焼きのお店の制服を身に纏っていたことは覚えている。
    前を向いたのと同時に、背後から低くねっとりとした声が聞こえてきた。

    「お客さァ〜〜ン、たこ焼きとお釣りを忘れていますよォ〜〜」

    文字では表しにくいけれど、こんな喋り方だったと思う。なんというか、山芋のような声だった。
    チェーンソーの音が迫ってくる恐怖に押され廊下を走りながら上を見上げると、いつのまにか教室の表示が『ひ』とか『そ』とかの文字に変わっていた。
    全てがひらがな一文字だった。いくつかの部屋の扉は開いていたが、その中にあるのは昼間に似合わぬ暗闇だった。意味がわからなかった。
    この時点でもう既に夢である事を忘れてしまうほどに怖かったが、立ち止まる訳にもいかないので泣きながら廊下を走り抜けた。
    窓から見えた校庭は、青空の下だというのに薄暗かった。人は居ない。
    人の代わりに校庭の隅にはトラックが止まっていて、今私を追いかけて来ている奴と同じような姿のネコがトラックの隣に立ってこちらを見上げていた。そのネコがあいつと同じニヤニヤ笑いを浮かべているように思え、更に校庭から私の存在を捉えている気がして、それが恐ろしくてまた大声で泣いた。

    私の通っていた学校は三階までの筈なのに、その時の私は何故か四階があると確信していて、廊下を走り終えると四階へ続く階段へと迷わず足をかけた。
    近くにも遠くにもならない肉を断つ為の騒音を背に受けながら階段を登り切ると、四階の『へ』という教室から見知った先生が出てきた。
    先生!縋るような気持ちで叫んだ。
    今度はちゃんと声が出た。

    先生は私を見るなり突然頭を振り回しながら、こちらに猛スピードで突進してきた。
    口から何か言葉を零していたが、恐怖のあまりか紡がれる言語はぐちゃぐちゃに絡まって、全く言葉になっていなかった。
    手をバタバタさせて、上半身を左右にふらふらさせながらも足だけはしっかりと動かして前進してくる。
    先生は非常に錯乱した様子で

    「アァ〜〜〜!!」

    といったようなことを叫びながら、怯えた私のすぐ隣を通り抜けて階段の方へ走って行った。
    それから耳を塞ぐ間もなくすぐに

    「おまちどォ〜〜」

    という声と共に絶叫と肉を切るような嫌な音が静かな廊下に響き渡り、次いで無臭だった学校に吐き気を催しそうになる嫌なにおいが漂い始めた。
    泣いても泣いても泣き足りず、絶叫しながら『へ』の教室に入って、その教室の窓から飛び降りた。
    教室の中は外から見た暗闇が嘘のように明るくて、まるで放課後の教室のように赤みがかかっていた。
    机の上には鯉が悠々と泳いでいた。まるでスクリーンに映し出された、水槽の魚の様子を撮影した映像のようだった。
    空はいつの間にか夕焼けに染まっていた。


    そして、ストンと落ちる感覚で目が覚めた。
    安心感と共に、全身にかいた汗の感触が不快だったのを記憶している。
    あくまで夢でしかないから、そのあと現実で何かが起こる訳でもなくそれで終わり。

    ただ、よっぽど印象深かったのか、後日再びこのネコが出てくる夢を見た。
    公園のような場所にたこ焼きの屋台を出しているネコがいて、母からもらったお金を握りしめて妹と一緒にたこ焼きを買いに行ったら、「おまちどォ〜〜」という返事とともにチェーンソーを持ち出されて、キャーキャー叫んで泣き笑いながら妹と共に一目散に逃げた。
    そんな怖いのか面白いのか分からない、謎過ぎる夢だった。

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    コメント一覧

    1  不思議な名無しさん :2019年01月08日 11:36 ID:3Jfbr.8q0*
    「I L U」って題のお話ですが、私には書いた方とは違う風に感じました。おじさんが「I love you 」を唄ってたんですよね?自転車の椅子にILUって書いてるのを自転車が見つかる前になぜ?おじさんが知っててあなたの前でIlove you を唄うんですか?犯人は後ろでは無くて目の前のその人じゃ無かったんですか?そしてIlove you って事はあなたに告白してますよね?遠回しに?
    2  不思議な名無しさん :2019年01月21日 07:22 ID:lfrpbBHq0*
    >>1が怖い
    3  不思議な名無しさん :2019年02月18日 00:51 ID:kWLiBxIg0*
    コンビニに来る親子2人の話よかった
    ぞわっときた
    4  不思議な名無しさん :2019年02月22日 16:34 ID:33wHMLmx0*
    コンビニは書き方が上手で最高や
    ホラーのショートショートとしてもレベル高いし,実話としても怖い

     
     
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