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    『霊が出てこない怖い話部門 第二部』真冬の怖い話グランプリ


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    グランプリの詳細はこちらのページをご確認ください。
    真冬の怖い話グランプリTOP

    この記事では「霊が出てこない怖い話部門」から16話をご紹介いたします。
    怖かった話、面白いと思った話の番号とタイトルを投票ページから投票してくださいね!

    目次


    21.ドアの向こう側 石井 遊様
    22.川沿いのホテル こもも様
    23.職場のエレベーター 名無し様
    24.アラスカオーロラ紀行 たくみん様
    25.顎なし男 とまと3世様
    26.天井を這うもの 真冬のそうめん様
    27.付いてくる 縁汁様
    28.既読 井上ハイム様
    29.Wi-Fi うーちょこ様
    30.白いサンタクロース タカモンテック様
    31.キシィ! あおい様
    32.中国人 はやぶさ様
    33.ミシミシ Yakumo様
    34.深夜の子供 cherry様
    35.タクシーに乗ってきた女 さいとうまめし様
    36.5つの箱 とりとろ様

    投票ページはこちら
    霊が出てこない怖い話部門 第二部投票ページ






    21.ドアの向こう側

    ペンネーム:石井 遊

    これは私と、同級生 R が体験した実話です。
    中学三年生の冬休み、私は初めて同級生で友人の R の家に泊まりに行きました。
    泊まりに行った理由は二人で楽しく盛り上がりたいからとか、そういうのではなく、R がどうしても私に見てもらいたいものがあるというからです。

    見てもらいたいものの詳細は「夜中に見れる」と言うこと以外何も教えてもらえなかったのですが、R が切羽詰まった表情で言うので私も気になり、興味本位で泊まることにしました。
    R の家族と R、プラス私で夕食を食べ、テレビを見たりゲームをし、寝る時間になりました。家族は寝ていたと思いますが、私と R は深夜になってもクラスのウワサ話(私たちは同じクラスだったので)で盛り上がっていました。
    深夜三時をすぎ、そろそろ眠くなってきた頃、R が私の手を握ってきました。「どうしたの?」と私が聞くと、「見せたいものがあるって話したでしょ?ついてきて、今から見れるから」と普段とは様子が違い落ち着いた声で言って、私の手を引いてどこかへ向かいました。

    階段を降り、玄関の前で R は立ち止まり、ドアに向け指をさしました。家中真っ暗でよく見えないなか、目を凝らしてドアを見て、すぐに異変に気付きました。
    ドアノブが動いていたのです。それだけでも十分おかしいのですが、奇妙なのはその動きです。引くわけでも押すわけでもなく、規則的に上下に動いていました。誰かがドアの向こうにいて、意図的に動かしているとわかりました。だから R は電気をつけなかったのか、と、まだ落ち着いていた私はのんきにそんなことを考えてました。

    その不審な行動を二人でしばらく(十分くらい)見ていましたが、いつまでたっても動きは止まりません。機械的で意味がわからない行動がとても不気味に思えてきて、私はだんだん恐怖を感じて来ました。
    私はドアの向こうに聞こえないよう、小声で R に囁きました。

    「何これ、どうなってるの?」R も小声で応えました。「私にもわからない。気づいたのは二ヶ月くらい前なんだけど、毎日この時間にこうしてるの。気味悪いし怖いでしょ?」と首をすくめて言いました。
    R は過去に両親にもこのことを相談したそうですが、家族を連れてドアの前に戻ると必ず動きはやんでいるそうです。外を確認しても、誰もいないと。R が一人でいるときにしか起こらない現象と言うことを初めてそこで知りました。

    「だから友達を連れて来たらどうなるかと思って泊まってもらったの。今日は S(私)がいるのに、まだ続いてるんだね」
    まるで、向こうからこちらが見えてるようだと、R は私に言いました。その一言で私も鳥肌が立ち、ようやくやばいことに巻き込まれたことに気付きました。

    それからまた数分経ったのに、まだドアノブは動いています。毎日ここに現れ奇行をするということは、R か R 家族に恨みでもあるんじゃないか?と思いましたが、失礼な質問だと思い R には言いませんでした。
    それと、十数分前にここに来た時は感じませんでしたが、私と R の周りだけ明らかに空気感が変わったことに私は気付いてました。冬なのに空気が少し暖かく、どこからか鉄のような変な臭いもしてきます。ドアの向こうにも、異様な存在感を感じていました。

    時間がたつほど存在感は強くなっていて、「確実に悪いものがいる」と、鈍い私が直感で感じられるほどの禍々しさがありました。
    R がこの異変に気づいてるのかわからず、口に出して聞いてみようとした時、R は私の手を強く握りしめこんなことを提案しました。
    「S(私)、私あの覗き穴から外の様子を見て見るよ。でも一人だと怖いから、私が見てる間だけ手をつないでもらってもいい?繋ぐだけでいいから」

    「えっ」正直私は嫌でした。早くこの場から離れたかったのですが、友人 R の頼みを断れなかった私は、「うん…わかった」と渋々言って、二人手を繋いだままさらにドアに近づきました。
    深呼吸してから、R が音を立てないよう慎重に靴を履き、のぞき穴をそっと覗きました。私は息を飲んでその様子を見ていました。R は少しの沈黙後、ひっ!と言うような、声にならない悲鳴をあげ、力が抜けたように玄関に座り込みました。

    「なに!?何が見えたの!?」臆病でビビりな私は、R の側に座って心配するより先にすぐ外の様子を聞きました。繋いでいた R の手はじんわり汗ばんでました。
    外のことを思い出し私が顔を上げドアノブを見ると、いつのまにか動きが止まっていました。ドアの向こうに感じた変な気配も、鉄の臭いも気づいたら無くなっていました。
    「……C さんだ」R が地べたに座ったまま言いました。顔色は悪く声も沈み、私が掴んだ腕は人と思えないほどとても冷たかったのを覚えています。
    「だれ? C って?」

    「……ねえ、S(私)、部屋に戻ろ?今見たものについてとか、ちゃんと話、するから」
    私が何か言う前に S は立ち上がり、づかづかと私の手を引っ張り部屋に戻りました。R の急変した態度に少し違和感を感じましたが、R が何度も玄関を振り返るので私ももっと怖くなり、大人しく部屋に戻りました。

    部屋の電気をつけドアの鍵をかけ、わたしと R は並んでベッドの上に座りました。「どうしたの」と私が聞くと、R は、私が絶対に友達をやめると言わないことと、この話を誰にも言わないことを約束させてから、さっき見たものと、私が知らなかった R の過去の話を静かに話し始めました。過去の話はあまりにもひどすぎたので、色々省いて書いていきます。

    かなり長い話を無理やりまとめると、R は小学生の頃、いじめっ子のリーダーで、級友の女の子にひどいいじめや嫌がらせをしたそうです。自分(R)を中心に男子も巻き込んで、級友に性的ないじめ(教室で下着姿にさせたり他にも色々)もしたと言います。
    優しく明るい子で、性格面でいじめる理由はなかったのですが、シングルマザーで悩みがあっても誰にも相談できない +R が好きな男子がその級友を好きだと言っていたことが気に入らなくて、小三から小六まで級友いじめを続けたと言ってました。

    いじめは学年が上がることに陰湿に派手になり、担任が見てないとこでクラスメートほぼ全員によるその子への暴力や罵声もあったと言ってました。R は途中でやりすぎてると感じましたが、もう後にも引けなくなりその様子を黙って見ていたそうです。
    級友は転校もせず学校に通い続け、R や私と同じ中学に入ったそうですが、名簿に名前だけあってその子が一度も学校に来ることはないまま中三の秋を迎えました。
    一度、その級友をからかいに家に行った元同級生たちは、その子の家が遠目でもわかるくらいボロく暗い雰囲気だったので気味悪く思い、級友の姿を見る前に全員帰ってしまいました。それからは誰も、級友の名を口にしませんでした。

    噂では不登校で、ずっと家にこもってることになってたそうです。
    そして、その後すぐ、その級友の母が亡くなったと言う噂が元同級生とその保護者の間で流れました。噂の元は知りませんが、どうやら本当のことのようでした。その人の死因は、これも噂にすぎないようですが、不登校の娘の世話と仕事に疲れ、手首を切った自殺と言うことになってたそうです。

    噂で初めて知ったその級友の母の名こそ、C さんだと R は言いました。(私は小学校が違うので知らなかったのですが、R は C の顔を授業参観でなんども見たことあるようでした)
    「小学生の頃の私は、本当に最低最悪だったと思ってる。あんなの普通に犯罪だし、もちろん私も反省してる。でも聞いて S、 ◯◯(級友)も悪いの!私の好きな人取ろうとしてたし!

    ねえ S(私)、C さんは、◯◯のことで私のこと恨んで、死んでから私を襲ってるとかないよね?そんなのありえないよね?◯◯はママに心配かけたくないって言ってたから、多分、いじめのこととか何も話してないはずだし…」
    今にも泣き出しそうな顔で「私だけが悪いんじゃない」と話し続ける R を、私は幽霊より怖いと思いました。
    この子は自分の身の安全しか考えてない、自分が悪い言っておきながら、微塵にも思ってないことが、少しの会話でもわかってしまいました。

    R には友達でいてと約束されましたが、いきなりこんなひどい告白を聞かされて、しかも陰湿ないじめの主犯だった R を私は受け入れることは出来ませんでした。
    私は R の人間性もいじめ事件も知らず、中学から人気者の R をずっと良い人だと思い仲良くしていたことを後悔しました。自分を偽り続けてきた R に対し同情はなく、もう不信感しかありませんでした。
    (後から R の小学校時代の知人に聞いた話では、級友いじめはクラスメートの中だけの秘密になっていたので、R も含め誰の悪い噂も中学では流れなかったそうです)

    今回の出来事と C さんは、R が自分で引き寄せてしまったものだと思いました。ここにはこれ以上書きませんが、因果応報、自業自得と言う言葉がぴったりなほど、R のしたことは本当に残酷でした。
    R の言い訳と謝罪を一通り聞き終わる頃には朝になってました。R の家族が起きてきた頃に二人で恐る恐る玄関を見に行きましたが、特に何もない、普通の状態でした。

    本当は私は二日間泊まる予定でしたが、こんな経験はもうこりごりなので、二日目の朝に帰ることにしました。
    「…じゃあ、そろそろ帰るね」
    私はさらっとお礼を言って、R をあまり見ないようにしてドアを開けました。クラスでぼっちになってもいいから、R と縁をきる気でいました。

    「バイバイ」と不安そうな R の声が背中で聞こえ、そのままドアを閉じようとした時、私とドアの間を鉄の臭いが通って家に入って行きました。一瞬のことでした。
    考えてもないのに、狭い部屋で手首を切って自殺した女性の姿がすっと頭をよぎり、私は急いでドアを閉めました。閉める直前 R の「待って!」と言う叫び声が聞こえましたが、それも無視して、私は走って自分の家に帰り部屋に閉じこもりました。今考えると、友として、人として私も最低な行為をしたと思います。

    その日の夜からかなり長い間、R から「あの日はありがとう。これからも仲良くしてね」「またうちにおいでよ」「友達だからねずっと」「会いたい会いたいなー」と言ったメールが異常なくらい何回も来ましたが、R 本人が学校に来ることはなく、私は中学を卒業しました。

    今、私は大学生です。高校を卒業したあたりから R のメールはもう来なくなりました。
    行こうと思えば行ける距離に R の家はありますが、私は R にも、R の家族にも、ドアの中に入っただろう C さんにももう関わりたくありません。

    C さんの娘は私が高校三年生の頃に自殺したと、中学の同級生から噂を聞きました。R のメールが止んだのとほぼ同じ時期でした。何か関係があるのかと考えましたが、いくら考えてもわからないので、もうこのことについて考えるのはやめにします。
    話が長くなったし、大したオチもなくてすみません。私と R が経験した奇妙な話は、これで終わります。

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    22.川沿いのホテル

    ペンネーム:こもも

    K県のとあるホテルで体験した話。

    私の家族と彼氏とで、今年の夏にK県に旅行に行った。

    私の家族は親戚の家に泊まるので、私と彼は母が手配してくれたホテルに泊まる事になった。

    そこは古びた川沿いのホテルだった。

    私は少し霊感があるので、外観を見た時、嫌な感じがした。

    何も起きなければ良いけど、と心の中で願った。

    観光したり、親戚に会ったり、と楽しい旅行だった。
    夕食と風呂を済ませ、疲れていたので布団に入りすぐに眠りについた。

    その夜、変な夢をみた。

    今泊ってるホテルのロビーだ。
    私はそこで女性と話してる。
    外見は黒い靄、でも女性と認識する。

    何を話しているかはわからない、でも会話をしている。

    会話中に何故か、私は嫌な感じがして自分の部屋に向かって逃げるように走った。

    女は追いかけてくる。

    追いつかれたり、捕まったら駄目だ、と直感した。

    廊下を走るが一向に部屋に着かない。
    気が付いた、実際の廊下より長い。

    追いかけてくる女から、必死に逃げつつも自分の部屋を探す。

    あった、と思いドアノブに手をかけた瞬間、女の手が肩に置かれ、耳元で何か言われそうな瞬間に目が覚めた。

    冷汗と口の中が乾燥してカラカラだった。

    横に寝ていた彼が起きていて、照明とテレビをつけていた。

    私はすごく魘されていて、その声で起きたそうだ。
    起そうと思ったけど、丁度私が目を覚ましたらしい。

    大丈夫?と気にかけてくれたが、雰囲気を壊したくなかったのでこの事は言わなかった。

    家に帰ってこの事を母に話した。

    母は霊感がかなり強いからか、真っ先に

    川に沿って布団を敷いたか?

    と言われた。
    思い返してみると川に沿って布団が敷かれていた。

    ああ、それが原因だね。

    と一言で終わってしまった。

    手配したのだから、その事を教えてくれても良いのに…と思ってしまった。

    結局、あの女の正体も、何を言おうとしてたのかも分からない。

    無事に旅行から帰ってこれたのと、現在も特に何もないので気にしないことにした。

    心霊体験は初めてではないが、この件は今までで一番怖い体験だった。

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    23.職場のエレベーター

    ペンネーム:名無し

    4,5年前、神奈川のとある駅前のスーパーで働いていました。古い建物で昔から「○階のトイレは出る」とか「○階の倉庫で変なことがあった」とかいう話はよく聞きました。

    この店の従業員用エレベーターは地下から屋上まで合計8階まであります。
    B1のボタンが左下、右に1、B1の上に2、1の上に3という感じで左が偶数列とB1、右が奇数列とRといった感じです。

    地下は使われておらずB1を押すと「その階へは止まりません」という声が流れて行くことはできません。

    この職場は長いので乗ったと同時に左手で2を押し、乗り込みながら「閉じるボタン」を押すのが一連の流れになっていました。

    その日も一階で商品を取りエレベーターに乗ったときです。いつも通り「2」と「閉じる」を押して乗りました。するとエレベーターから「その階へは止まりません」という案内が流れます。「間違ってB1押したかな?」と思い再度「2」を押します。このタイミングで扉は閉まりきります。すると止まらない案内が流れます。

    「これはヤバイな」と思いながらももう一度「2」を押しましたが依然止まらない案内が流れます。「開く」を押しても開かず、閉じるを押しても変わらず「1」を押しても「2」を押しても止まらない案内…。
    大昔ですが屋上から飛び降り自殺をした人がいるという話を思い出し「屋上には行きたくないな…」とか考えながらも「これはきっとヤバいやつだろうな…」と思い上の階のボタンを押して開くところで降りようと考えました。

    「1」と「2」はダメだったので「3」から上を試します。

    「3」…「その階へは止まりません」
    「4」…「その階へは止まりません」
    「5」…「その階へは止まりません」
    「6」…「その階へは止まりません」

    もう屋上以外のボタンはダメです。
    大きくため息をして、覚悟を決め「R」を押しました。
    するとエレベーターは動きだし自分を屋上へと届けようとします。

    だんだんと階が2,3,4,5,6と上がっていき屋上へと近づいていきます。
    私は稲川淳二ではありませんが「いやだなぁ…怖いなぁ…」とか「開いたら何がいるのかなぁ…これは絶対なんかいるよなぁ」なんて思いながら到着を待ちました。

    そして屋上へ到着し扉が開きます。私はすぐ閉められるよう「閉じる」ボタンに指をかけて身構えました。
    そしてついに扉が開き屋上の屋外へ続く扉のある空間が開きました。扉の前には何もいません。少し降りて辺りを確認して見ましたが何もいません。私はバイキング小峠よろしく「なんだよ!!」と叫んで「閉じる」を押し「2」を押しました。そのまま下がっていきエレベーターは通常運転になりました。
    今ではこの話は心霊が苦手な従業員に向けて積極的に話すことにしています。

    これといったオチもなく申し訳ありません。

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    24.アラスカオーロラ紀行

    ペンネーム:たくみん

     アンカレッジは雪化粧を纏った山々に囲まれた自然の街だ。
     アラスカ州の表玄関というべきその港湾都市はクック湾に面していて港には多くのボートが停留している。
     シアトルを経由してアンカレッジ国際空港に降り立った僕は刺すような寒さに身を震わせた。
     僕は白くなる吐息を余所に足早に駆け出し、スーツケースと車いすを受け取った。スーツケースはへこんでいたが、僕は構わずに車いすに伴侶である女性を座らせる。
     名前を妙子という。どこか影のある表情であるがキュッと結んだ口元は微笑みを崩さない。
    「お前さん。長旅で疲れただろう」
     しわがれた声で僕は言った。
     普段とは違った言語で織りなされる喧噪が空港内を跋扈するが、僕は妙子の世話を焼くことで手一杯で全く気にする様子はなかった。
     その様子まるで二人だけの静謐な世界に浸っているようだった。

       ☆
    「死ぬまでに一度オーロラが見てみたいわ」
    病状に伏す妙子は言った。
    おそらくもう自分の命も永くないと死期を悟ったのであろう。「病を克服したら、きっと行こう」と励ましたが、その言葉は空虚に病室に響く。
    主治医の先生も覚悟を決めるようにと言う。
    僕はこの世の理不尽さを嘆いた。妙子はまだまだ若い。こんな老いぼれよりも先に逝ってしまってはいけない。それでは神も仏もないではないか。

       ☆
     僕は車いすを押して歩くと、人々は足を止め無遠慮な視線を投げかける。時には携帯電話を取り出し、シャッターを切る輩もいる。
     奇異の視線を浴びせられることには慣れっこだ。人形のように心を閉じて、毅然としていればなんのことはない。
    オーロラを望むためにアラスカ鉄道に乗り込み一路北を目指した。ALASKA RAILROADと記された切符は名前が入った立派なものだった。
     列車内はゆったりとした二人掛けシートで窓からはアラスカの雄大な自然が迫ってくる。
     車いすから妙子を抱えて列車のシートに座らせた。車掌が便宜を図って席を用意してくれたのだ。車掌は僕の切符を確認して横に坐している妙子を一瞥してから「Have a nice trip!」と言ってその場を後にした。
     
       ☆
    「オーロラって太陽からの贈り物なんですって」
     妙子は天体の本を開きながら得意げに言った。オーロラは太陽によって送らてくる風によって発生するんだと続けた。
    数日前に僕は見舞いとしてこの本を差し入れた。今ではあちらこちらに附箋が貼られている。
    「入院生活は退屈かい」
     僕は天体の知識を熱心に披露する妙子に何の気なしに聞いた。
    「いいえ。こうやって、おじいさんが来てくれるからちっとも寂しくなんかないわ」
     妙子は飽くまでも気丈に振る舞う。そんな姿を見て僕は己の無力さを嘆いた。

     突然、妙子は胸のあたりを押さえて、呼吸を乱した。
    「どうした妙子。苦しいのか」
     呼びかけるが、妙子は俯いたまま返答がない。その呼吸は「ヒュー。コヒュー」とまばらだ。
     僕は急いでナースコールを叩くように押した。「早く来てくれ」と叫ぶ僕の姿から察したのか病室はいやに静まり返っている。
    「どうしたんですか」
     看護師がやって来た頃には妙子はうずくまっていた。
    「……妙子が。妙子が」
     すっかり狼狽してしまった僕はしどろもどろに何とか伝えようとする。
     妙子は後から駆け付けた医者と共にストレッチャーで緊急治療室に運び込まれて行った。

       ☆
     僕が眼を覚ますと窓の外は一転して満点の星空が広がっていた。
     終着駅フェアバンクスに到着したのだ。ここ一帯はオーロラベルトの真下に位置しており高い観測率を誇るという。
     北極圏目前ということもあり、流石にこの寒さは応える。ダウンジャケットにフードを被り顔半分をフェイスマスクで覆う。
     鉄道を下りると、すぐさま予約していたロッジに向かった。
     ロッジは木造の趣のある造りで大きな窓からはピンク色の電気が漏れている。
     チェックインの手続きをするために受付に向かうと人でごった返していた。観光シーズンともあって覚悟はしていたが老体にこの行列は堪えた。
     しばらくしてやっと僕の順番が巡って来た。
    前もってツインルームの予約を取っていたがオーナーは込み合っているからと横暴な態度でシングルルームに押しやられた。
    慣れない英語で反論したが虚しく、僕は車いすを押して部屋に入った。

       ☆
     フェアバンクスからバスに乗り込みスキーランドという地に向かった。
     僕は高台にある観測場に腰を下ろして、妙子を膝の上に座らせた。
     空にはうっすらと雲がかかっている。
    「ねぇ、おじいさん。アラスカの雲の上でオーロラ現象はいつだっておきているのよ」
    妙子が病室で言っていた言葉を思い出す。オーロラは地上八十キロより発生し、雲の遥か上に出現するという。
    「オーロラを望むには、雲が行き過ぎるまで粘れるかが勝負なんですって」
     妙子の声が聞こえてくるようだ。
    「オーロラが出る、出ないというよりも、寝るか寝ないかに懸っているのよ」
     病室での妙子は本の受け売りを得意げに語っていた。
     僕は寒さ、眠気と闘う覚悟を決めた。「石に噛り付いてもオーロラを観測する」
     僕は誰彼ともなく呟いた。
    そして、シリコンで出来た妙子の頬をそっとなでた。

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    25.顎なし男

    ペンネーム:とまと3世

    10年くらい前に親父から聞いた昔話

    俺が生まれるずっと前、親父がまだ20代だった頃の話。

    親父はある夜に飲み物が欲しくなり、近くの自販機まで行くことにした。近くと言っても100mくらいの距離があり、しかも街灯が1つしかなくて結構暗かったそうだ。

    家をでて道を曲がり、そのただ一つしかない街灯がある道に差し掛かった時、親父は足を止めた。街灯の下に何かいるのだ。別に夜に人がいるが不気味なのではない。そこに止まっているという状況が不気味なのだ。

    親父が再び歩き始め、その人間に近づくにつれてその様子がだんだん見えてきた。

    その人間は男で、冬なのに薄い長袖1枚とジャージの下しか身につけていない。眼球が今にも飛び出してしまいそうな目で親父を見つめ、異様に大きな口を広げていた。まるで顎が無いかのように。

    親父がその男の横を通るとき、なるべく男の方を見ないようにしたが親父は男からの視線を感じていたらしい。

    少し早歩きで自販機まで行き、飲み物を買ってから同じ道を戻り始めた。

    街灯の前まで来ると男の姿は無いが、何か異様な音がした。

    「ぢゅゅゅゅーーー。ぢゅぢちゅゅぢゅゅゅ」

    何かを吸っているような気持ちの悪い音がして、親父がその音のする場所を見ると、道の壁にあの男が張り付いていた。顔を壁に貼り付けて、その開いた大きな口で壁を吸っていた。

    「ぢゅゅゅーーー。ぢゅぢちゅゅゅゅぢゅゅぢゅゅ」

    男が親父に気がつくと大きな口を広げながら親父に突進してきた。咄嗟に避けた親父の後ろにあった電柱と男はぶつかったが、男はそのままその電柱を吸い始めた。

    「ぢゅゅゅゅゅぢゅゅゅゅちゅゅぢぢぢゅゅゅゅぢゅゅゅゅゅぢゅぢちゅゅぢゅゅゅちちゅゅゅゅゅ」

    親父は走って家に帰ったそうだ。あれから何年も経つがまだ耳に鮮明に残っているらしい。あの不気味な音が。

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    26.天井を這うもの

    ペンネーム:真冬のそうめん

    これは私が中学生の頃体験した〝アシダカグモ〟にまつわる恐怖体験です。オカルトではないかも知れませんが、
    蜘蛛恐怖症(アラクノフォビア)という言葉があるくらいですし、怖い話には違いないかな?と思い投稿させて頂きました。お読み頂けましたら幸いです。

    私は小さい頃虫が大好きで、暇さえあれば家の近くの藪でカマキリやバッタを捕まえたり、石をひっくり返してダンゴムシやオケラを捕まえたり、
    校舎裏に積まれた腐葉土の中からカブトムシの幼虫を掘り返しては持ち帰って飼育したりと、本当に小学生の頃は虫と一緒に育ったと言っても過言ではないくらいに虫が大好きな子供でした。

    でも、そんな虫好きな私でも唯一苦手な虫がいました……それは〝クモ〟です。
    ハエトリグモくらいなら大丈夫なのですが、ジョロウグモやコガネグモくらいのある一定のサイズ以上になると本当にダメで、特にアシダカグモが大の苦手でした。

    きっかけは多分小学校低学年の夏休み……私はあの日、花壇の水やり当番のため当時通っていた小学校へ仮登校していました。

    学校に来ていた体育の先生に挨拶をして、学校嫌いで早く家に帰りたかった私は、早く花壇に水を撒いしまおうと急いでホースを蛇口に繋ぎに行きました。
    そして、私がホース片手に蛇口の前にしゃがんだ際に、いきなり頭の上にポトッと落ちて来たアシダカグモを、反射的に思い切り鷲掴みしてしまった事が、
    私の蜘蛛嫌い発症の最たる原因だと思います。

    あの時の、すごく柔らかいグミを掴んだ時のようなグニュンっというなんとも言えない感触と、握られた拳の間から飛び出た無数の脚がジタバタと暴れまわる様子……
    あの光景と感触は20年以上経った今でも昨日の事のように鮮明に思い出せるほどです。小学生だった私は、強烈なトラウマを植え付けられました。

    その後も、ゴミ出しをするべく私がダンボールを持ち上げた瞬間、隙間で昼寝?をしていたらしいアシダカグモが勢い良く飛び出して来たり、
    竹箒の先端についていたアシダカグモが柄をつたって私の腕の方に登って来たりと、小学、中学と何かとアシダカグモと縁があった私でしたが、
    その中で、私のアシダカグモ嫌いを大嫌いに昇華させた〝ある事件〟が起きたのです。

    前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本題です。今回はそのある事件についてお話ししようと思います。

    あれは、確か中学二年生の頃の10月のことでした。
    夏の暑さもだいぶ和らいで、幾分過ごしやすくなって来た時分。私はいつものように入浴を済ませ、ベッドで横になっていました。

    時刻は夜の12時前くらい。明日も学校がありますし、いつもならもうとっくに寝ている時間だったのですが、その日はなんとなく寝付けず、
    仕方なしに私は当時お気に入りだった海外のコメディ映画のビデオを音を小さくしてつけて、それを時たま眺めながら眠くなるのを待っていました。

    しばらくそうしていると、思惑どおりだんだんと瞼が重くなって来て(ああ、この調子ならなんとか眠れそうだな……)
    と思い、私はテレビから視線を外して仰向けになり布団をかけ直しました。

    そして(さぁ、寝るぞ)と意気込んで上を向くと、天井に何やら動くものが見えた気がして、なんとなくそちらをぼんやりと眺めました。

    暗い色をした木製の天井の木目のところをゆっくりと移動する何か……テレビの明かりしか無い部屋ではそれをはっきりと視認することが出来ず、
    またようやく待ちに待った眠気が来たというのもあって、私は(ゴキブリか、もしくは目の錯覚かも知れないし……気にしないで寝ちゃおう)
    なんて事を思いつつ、そのまま瞼を閉じかけた、まさにその時でした。

    映画を映していたテレビ画面が不意にパッと明るくなりました。多分、夜のシーンが終わって朝のシーンに変わったのでしょう。

    その瞬間私の目に飛び込んで来たのは、テレビから発するちょっと眩しいくらいの光に照らされて……
    恐らくお尻から糸を伸ばし、脚を八方にパッと広げ、UFOキャッチャーのクレーンじみた動きで私の顔面にゆっくりと降下して来ているアシダカグモの姿。

    それはさながらスプラッター映画で、登場人物に向かって凶器を振り下ろす殺人鬼の姿が、窓外で断続的に光る雷光に照らされコマ送りのように映るシーンにも似ていて……
    私はそれを目にした瞬間、反射的に首を思い切り横に捻り、その拍子にベッドから転げ落ちてしまいました。

    そして、固い床に脇腹から着地した私は、はっきりと聞いてしまったのです。

    私が床に落ちるのとほぼ同時に、枕の辺りから……つまり私の頭がさっきまであった位置から、ボトッ、という重いものが落ちるような音がして、
    ついでボトボトボトボト! という雨が屋根に当たる時のような重い音が聞こえてくるのを……
    (アシダカグモの大きいやつは壁や床を走る時、本当に雨だれというか、ボトボトボトボトボト! という重い音がします。心底恐ろしいです……)

    私はこの一件以来、アシダカグモが天敵レベルで嫌いになってしまい、部屋を完全に真っ暗にして眠る事も仰向けで眠るという事も出来なくなって
    しまいました……それは大人になった今でも変わらず、やはり幼少期や多感な時期に負ったトラウマというものはなかなか拭えないものなのだな、と改めて痛感しています。

    アシダカグモは最近ではネット上で〝軍曹さん〟などと呼ばれて親しまれ、またゴキブリを食べてくれる益虫だということも知り、
    昔に比べれば恐怖感もいくらかは薄れて来ましたが、それでも怖いものは怖いです(泣)

    でも、アシダカグモがお尻から糸を出して忍者のように天井から吊り下がってくるという光景は、恐らく普段はなかなか目にする事の無い
    ものなのではないか?と思い、オカルトではないので恐縮ですが、今回、私はこの話を投稿するに至りました。

    全国の蜘蛛恐怖症の皆様に、私があの時感じた恐怖を少しでも共有、ご理解して頂けたなら幸いです。

    以上、お目汚し失礼致しました。

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    27.付いてくる

    ペンネーム:縁汁

    仕事柄出張で色々な工場にいく事がある。

    土地取得の難しさからか、結構辺鄙な所に大規模な工場がある事も多い。
    その時の工場も近隣の市街地に出る為には、近道である山道を越えるか、山の麓を遠回りするルートのどちらかでしか出れない。

    そんなところで体験した話。
    11月だったか、クライアントのクレームと、現場のトラブルが重なり残業が続いていた。
    その日も23時過ぎに宿泊先のホテルに向かう為7人で車2台に分乗して移動することになり、自分は前を走る車の後部座席に座っていた。

    この時前の車に4人(含む自分)後ろの車に3人で走り出した。
    いつもなら遅い時間の時は街灯が少なく曲がりくねった山道を避けるはずだが、早く帰りたいのか山道を向かうルートに進路を切った。

    同乗する面子も疲れているし早く帰りたいのは一緒なので何も言わない。運転している二人はメンバー内で運転能力に長けたものなので事故など起こさないだろうと信用もしていた。
    そのまま何事もなく山道を進む。助手席ともう一人の後部座席に座ったメンバーがうとうとと居眠りを始めたので、眠らないように運転手(以下A)と小声で雑談などをしていた。

    暫く進んだころ、Aがミラーを確認しながら後ろの車が付いてきていないと言い出した。
    山道には殆ど信号がなく、同時に出発した際にはすぐ後ろに付いてきていてもおかしくはない。
    忘れ物でもしたんじゃねと軽くこたえた自分の言葉にAもそうかなと返し、とりとめの無い雑談に戻った。

    暫くしたあと後ろからヘッドライトの光が迫ってくるのが見えた。
    後ろの車だと気がついた自分達は、あんまり急ぐと事故するぞ等と軽口を叩きながらスピードを緩めた。

    追いつく為にスピードを出していたと思っていた後ろの車は、速度を緩めることも無く自分たちを追い抜くと無茶苦茶な速度で走っていく。

    法定速度の倍は出ている、こんな時間にこんな山道で出す速度ではない。少ないが他の車もいるのに事故るぞとAは速度を上げ、自分は同乗しているメンバーの携帯に掛けるがコールはしているのに出ない。
    そのままホテルまで追いつけなかった。

    ホテルの駐車場で停車している車を見つけたので、少し説教してやらなければと車を降り近づいた際に異常に気がついた。
    着いているのにかかわらず、エンジンが切られておらず運転手はハンドルを握り前を向いたまま。同乗者も体を縮める様にし目だけがギョロギョロと辺りを伺っている。

    その異様な光景にAと同乗していた2人は声も無い。
    運転席の窓をノックしても反応が無かった為、フロントガラスを平手でドンと叩くとようやく自分に気がついたらしく運転手(以下B)がこちらを見た。

    エンジンを切らせ、車の中からでない3人を引きづりだし事情を聞くことにしたが、車を出た後もしきりに周囲を見渡し落ち着かない様子。
    どうしたと聞いても「あれはどこに居る?」などと訳が分からない。

    落ち着いたら説教だからな、とこの日は事情を聞くことを諦め、ホテルの部屋に放り込んだ。

    翌日改めて事情を聞くことにしたのだが、昨晩より顔色も良いのに要領を得ない説明が続く。纏めると

    白く大きな4本足のモノに追われていた。それが何かは分からないが見た瞬間とんでもない恐怖を感じて車を走らせた。
    追いつかれるとおもっていたらホテルの駐車場に停車していて、フロントガラスを自分が叩いていた。と

    無意識で車を走らせていたのか…と顔を引きつらせる自分達に向かって、あれを見ただろと尋常ではない剣幕で聞いてくるB。
    そんなものは見ていないし、とAを見るも首を振るのみ。見間違いか疲れで幻覚でも見たのかと言ってもいやしっかり見たと聞きはしない。

    仕事の時間が迫ってきたので、とりあえず工場に向かう。昨日の運転を見ていた手前、Bに運転を任せることは出来ない為、自分が運転をすることに。
    いつも朝は山道を通勤するが、B以下3人が山道は嫌だと聞かない為その日は麓のルートを通ることにした。

    その日はトラブルも無く仕事が終わり、21時前には工場を出ることが出来た。
    帰りも自分とAが運転する積もりだったが、Bが鍵を奪い勝手に帰ってしまっていたので同じメンバーでホテルに戻ることに。

    帰り道に山道を選ぶ際に、Bの言っていたことが頭をよぎったが、気のせいだろとあまり気にしていなかった。
    暫く進んだ際に気がついたのは運転していたAだった。

    「なあ、あれなんだ」とバックミラーをしきりに気にする素振りを見せ始めるので、気になった自分達も後ろを振り返ってみた。

    確かに何かいる。白い大きいものが付いて来る。良く見ようと目を凝らした時に急にはっきり見えた。

    犬だ。少なくとも形は。でも何かがおかしい。何が?

    自問していると隣に座っていたメンバー(以下C)がポツリと呟いた「なんであんなにはっきり見えるんだよ…」
    そうだ、この辺りには街灯は少ない、いくら白いものでもあんなにはっきりは見えないはず。

    それに気がついたかの様に犬がスピードを上げた。みるみる縮まる距離、それに伴いおかしいと思っていた部分が分かった。分かってしまった

    見なければ良かった。

    形は犬、それは間違いない。しかしそれを構成するパーツが余りにも異様だった。

    人だ。たぶん女性。裸の女性を無理やり犬の形の金型に押し込め成型したらこのようになるのかも知れない。
    その為、犬の頭部には目鼻は無く、犬の首筋と肩の部分に人の目玉が付いており、背中部分に左手だろうか、そこだけ赤く塗られた爪が突き出していた。

    それがバラバラに動く様の異常さ異様さに言葉も無くただそれを見つめるのみの自分達。

    Aが振り切ろうとアクセルを踏み込んだ瞬間それよりも早く車の前に飛び出す犬。
    条件反射でブレーキを踏み停車したフロントに飛び乗る犬。首筋と左肩に付いた目で一人ひとり注視し、全員を見終わると興味を失ったかのようにフッと姿を消した。

    犬が姿を消したから数分は誰も動けなかったが、ようやくCが言葉を発する「違うって言ってた」

    あれが何かは分からない。何が違うのかもどうでもいい。もうあれには合いたくない。
    出張が終わるまで、山道は二度と使うことは無かった。

    出張から2週間ほど後、Bが事故をおこした。見通しの良い直線で車がひっくり返るほどの自損事故。
    命には別状は無かったが、Bは二度と運転できない体になった。また助け出された時、Bはうわ言の様に「犬が…犬が…」と言っていたらしい。

    アレはBに付いて来たのかも知れない。

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    28.既読

    ペンネーム:井上ハイム

    2年ほど前、同じ職場に仲のいい後輩の女の子がいた。
    私の職場は男ばかりで、その後輩が新入社員で入ってきた時は、当時唯一の女性社員だった(社長の奥さんを除けば)私が指導係としてサポートすることになった。

    後輩はとても愛想が良く、それと背が低かったのもあってか、部署の可愛い妹みたいな立ち位置になっていった。
    無愛想なベテラン社員も、その子に質問されたら「しょうがないな」って感じで教えてくれる、みたいな。

    実は私は最初、その男に媚びたような態度の後輩をあんまり良く思ってなかった(笑)
    多分嫉妬もあったんだろうね。

    うちの職場は4月が繁忙期なので5月に歓迎会がある。
    私はあんまりお酒は飲めないんだけど、「まあ後輩の指導係だしな」ということで参加した。
    案の定そんなに楽しくはなかったんで、二次会には参加せずに帰った。

    その帰り道、後輩に後ろから声をかけられた。
    「おつかれさまです!」
    後輩も酒が苦手だったらしく、二次会は行かずに帰るといって来たらしい。

    せっかくだからと言うことでカフェに入って2人でお茶をすることにした。
    そこで2人で職場の愚痴で盛り上がり、すっかり仲良くなった。

    結局その日はカフェの閉店時間までおしゃべりをして、LINEの交換をして帰った。


    それから仕事から帰るとちょくちょくLINEが来る。
    今までいなかった「同僚の女子」がこんなに貴重だとは思わなかった。


    「ポットのお湯なくなったら足してほしいですよね!」
    「わかる。カップラーメンの残り汁をなんで流しに捨てるのかもわかんない」

    とか、新鮮な会話に感動した(笑)


    そしてファッションの話で、同じ系統の服が好きだと言うことがわかって、今度の休みに一緒に買い物に行こうってことになった。

    そして日曜日。
    その地域では大きい駅で待ち合わせて、ランチをしてからショッピングをする予定だった。

    私の乗った電車が少し遅れてるっていうアナウンスがあって、私は電車の中から後輩にLINEを送った。

    「おはよー。ちょっと電車遅れてるみたいで少し遅くなるかも」

    既読がすぐつく。
    でも返事はない。

    その頃には気づいていたんだけど、これはどうやら後輩の癖みたいだった。
    メッセージを送ると、既読はすぐにつくんだけど、返事がなかなか帰ってこない、ということがよくあった。
    別にそういうのが気になる方じゃないんだけど、なんとなく印象に残っていた。

    それから電車を降りるまで返事はなく、こういう待ち合わせの時は少し困るなあ、なんて思いながら、待ち合わせ場所についた。

    待ち合わせ場所は少し混んでたんだけど、後輩はすぐに見つけられた。
    そのときちょっとしたいたずら心が芽生えて、後ろから声をかけようと思って、後輩の背後に回り込んだ。
    スマホを見つめる後輩は、それに全く気付かない。

    そのスマホの画面を何の気なしに覗き込んだのが間違いだった。

    「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

    メッセージ入力欄を埋め尽くす、普段の後輩からは想像もできないような言葉の羅列。

    「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

    親指を左右にスワイプさせて、作業のように淡々と入力していた。
    背後から見る私は、その後輩の表情は見えなかった。
    でも多分ふざけている様子でも、怒っている様子でもない。

    さらに私は背筋が凍りついた。
    画面の上部をみると、私の名前。
    私に対してこれを送信しよういうこと?

    私は頭がフリーズして、動けなかった。
    しばらくすると後輩は、その異様に長い文字列を削除しはじめた。
    その作業はいつまでも終わらない。

    私はその間に後輩から距離を取り、正面から声をかけることにした。

    携帯に通知が入る。

    「了解です~!」


    その後、私はいつも通りの明るい後輩と、普通にランチをして買い物をした。


    だけどその日から、後輩と連絡を取っているときの間が怖い。

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    29.Wi-Fi

    ペンネーム:うーちょこ

    私がWi-Fiを契約するきっかけとなった話です。

    五年前の出来事。
    当時私は一人暮らしを始めたばかり。首都圏の駅コンビニ徒歩20分、木造築45年、共同風呂トイレ、お寺さんの真横の何とも言えないカビの匂いと哀愁漂う四畳半一間のアパート。
    何も計画なんて立てずただ何となくで引越したものだから貯金も何もなく、引越しした時にかかったお金のお陰でほぼ無一文で生活が始まった。バイトはすぐ始めることが出来たが、給料日は来月。
    当然、引越し当月の家賃やら諸々のお金が払えず日雇いでもバイトする事に。
    実家からはちゃぶ台1つと布団一式、最低限の衣類だけ持ってきたのだが、色々と生活をするにはお金がかかると痛感しながら家賃はなんとか払うことが出来た。

    が、しかし1つ忘れていた支払いがあった。
    携帯代だ。気付いた時には時すでに遅く、ネットが通じなくなってしまい、唯一の楽しみである動画も見れない。
    日雇いをしようにも連絡手段がなく、バイトの店長がお金を貸してくれると言ってくれたが変なプライドで断ってしまった。
    当分の辛抱だと自分に言い聞かせ何気なくスマホのロックを解除すると、Wi-Fiの通知が画面に出てきた。
    どうせどのWi-Fiもロックが

    …1つかかってないぞ。

    現在拾えるWi-Fiの複数の中で唯一数字が羅列されているだけの名前のWi-Fi。ダメ元でそのWi-Fiの表示をタップしてみると、

    繋がった。

    この手のWi-Fiは通信速度は遅いがこのWi-Fiは全くもって問題ない。よっしゃと小さくガッツポーズをし、その日は動画鑑賞しながらもやし炒めをあてに第三のビールをあおり眠りについた。
    2ヶ月経ち、携帯も既に復活し生活が安定した頃から私が部屋にいるときに横の部屋から壁をドンドンと叩く音がするようになった。

    決まって私がスマホをいじっている時。

    最初は壁が薄くて動画の音が聞こえちゃうのかなぁ?と思い最小限まで音を小さくしたが、それでも壁は叩かれる。
    隣人トラブルはごめんだと思い、バイトが休みの日少し遠くにある100均でイヤホンを買って動画を楽しもうと思い家路を急いだ。
    家に帰ってきて早速缶ビールを開け、昼から動画鑑賞しながらビールは贅沢だよ?俺?なんてウキウキな独り言を発しつつ買ってきたイヤホンを使って動画鑑賞を始めた。
    鑑賞を始めて30分程経ち、何か床が震えるのを感じた。
    地震かな?と周りを見渡しイヤホンを外すと例の横部屋からものすごい勢いでドンドンと、もはや叩きに加えて蹴りも入ってる勢いで壁だけでなく床まで鳴っている。

    内心すこし慌てながらも、俺のせいでは無いだろうとまた横になりイヤホンをつけて動画の続きを始めると、やけにストリーミングが遅い。例のWi-Fiも繋がってるし、どうしたんだろう。と思いながらとりあえず一回Wi-Fiを切ってみる事に。
    ホームに戻って設定を押し、Wi-Fiの欄を見た瞬間心臓がぎゅーっとなり、背筋が凍りついた。

    Wi-Fi の接続名

    殺すぞ

    引越し当初のあの無意味な数字のWi-Fiから名前が変わっていたのだ。
    やばいやばいやばいやばいなんで?!なんで!?やばいやばいなんで?!え?え?っっっっえ!?!?
    と、頭の中でパニクっているのとは裏腹に身体は硬直して動かない。

    視線を玄関に向けると、玄関扉の磨りガラス越しに人影。ガチャガチャと壊す勢いで回されるドアノブ。

    はっ!と思い、携帯の設定を開きWi-Fiを切り布団にくるまりごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!とパニクった裏声で連呼していると
    フッと音が止んだ。
    その日はもう外には出れなかった。次の日夕方前バイトに出かけるのにもかなり怯えながら玄関を出た。
    まだ外は明るく、下校途中の子供達や郵便の配達員や人が行き来していたが、昨日の出来事があり人の視線や挙動に敏感になっている自分に気づいた。

    バイト先に着く前にタバコが切れていたのでコンビニに寄った。
    タバコと追加でエナジードリンクを買おうとレジに向かった。やけに店員の視線が怖い。ロバートの一番キャラ薄い人にやや似てる。髪は寝ぐせ?で軽く乱れ清潔感はあまりなく無精髭が薄っすらと口周りを覆う顔。笑顔で接客されてるのに…なんでだろう。
    疑心暗鬼になっているだけだよなぁと思い、お釣りを受け取った時、店員がボソッと一言私に投げかけた。

    『次、拾ったら殺す』

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    30.白いサンタクロース

    ペンネーム:タカモンテック

    友人のTから聞いた話です。Tとは大学で知り合いました。サークルが同じだったので仲良くなりました。彼と長年付き合っていて一つだけ疑問に思うことがありました。それは彼がクリスマスの時期になるとテンションが下がることです。彼を何度かクリスマスパーティーに誘ったのですが、一度も来たことはありません。どうせ彼女とデートでもしているんだろうと思ったこともあります。しかし最近、彼に事情を聞いたことで彼がクリスマスを嫌う理由を知りました。そして納得してしまいました。どうぞお聞きください。

    Tの家は母子家庭でした。Tの両親は彼がまだ赤ん坊の頃に離婚したのだそうです。お母さんは苦労しながらもTにたくさん愛情を注ぎ育てていきました。そしてTは小学生1年生になりました。クリスマスが近くなると、クラスメイトたちはサンタクロースの話をするようになりました。どんなプレゼントをもらえるかという話で盛り上がっています。

    そしてクリスマスになりました。Tは家に帰りましたが、落ち込んでいました。彼の家にはどうせサンタはやってこないと思ったからです。お母さんは今日も仕事で夜の11時まで帰ってきません。Tは泣きたくなりました。お母さんが用意した夕食を電子レンジで温めて一人で食べようとしたそのとき、チャイムが鳴りました。ピンポーン。

    Tは受話器を取りました。「どちら様ですか?」「メリークリスマス!私はサンタクロースだよ!T君にプレゼントを持ってきたんだ。」「えー!サンタさん!来てくれたの?!わーい!嬉しい!」Tは大喜びです。すぐにドアを開けました。そこには絵本で見たのとは少し違いますが、赤い服と白いひげと帽子を被って、白い袋を抱えた、紛れもないサンタクロースが立っていました。満面の笑みを浮かべています。

    「T君!メリークリスマス!プレゼントだよ!」サンタクロースが持ってきたプレゼントはチキンナゲットでした。「今夜は一緒に夕食を食べようね!」Tはサンタクロースと一緒に夕食を食べました。とても幸せな時間でした。最後にサンタクロースは言います。

    「今日のことは誰にも話しちゃダメだよ。もちろんお母さんにもね。」
    「どうして内緒なの?」
    「サンタクロースは姿を見せちゃいけないことになってるんだよ。でも、T君が寂しそうだから特別に会いに来たのさ。それにずっとT君に会いたかったんだ。内緒にできるね?誰かに話しちゃうともう君に会いに来れなくなっちゃうからね。」
    「わかったよ。誰にも言わないよ。サンタさん、今日は来てくれてありがとう。また来年のクリスマスも会いに来てくれるよね。」
    「きっと来るよ!でも、君がお母さんと一緒にいる時は来れないから我慢してね。サンタは大人とは会えない決まりになっているからね。じゃあ、元気でね!サンタさんはT君をいつも見守っているからね!」

    サンタは帰って行きました。サンタクロースに会えたTは大喜びでした。家に帰ってきたお母さんから「なにニヤニヤしてるの?なんかいいことでもあった?」と聞かれるほどでした。もちろんTはサンタに会ったことは言いませんでした。

    小学2年生の時も、クリスマスにサンタがやってきました。
    小学3年生と小学4年生の時は、サンタはやってきませんでした。お母さんが家にいたからです。

    そして、小学5年生のクリスマスの日になりました。お母さんは仕事なのでTは家に一人でした。
    「今日はサンタさんが来てくれるぞ!」Tはわくわくしていました。
    ピンポン!

    「はーい!」
    「やあ!サンタだよ!メリークリスマス!」

    待ちに待ったサンタクロースがやってきました。Tはすぐに玄関に行ってドアを開けました。驚いたことに、サンタさんはサンタさんなのですが服装はサンタクロースではありませんでした。黒いコートを着ているのです。

    「あれっ?赤い服じゃないの?」

    サンタはこれまでとは違い、どこか寂しげな表情を浮かべています。

    「そうだよ。でも、僕がサンタクロースであることに変わりはないよ。そうでしょ?」
    「うん、わかったよ。」

    Tは不思議に思いながらも、サンタを部屋に入れました。サンタがコートを脱ぎました。真っ白なシャツを着ていました。あまりにも真っ白だったのでTは、白いサンタクロースだ!と思いました。
    サンタが買ってきたチキンナゲットを一緒に食べました。

    最初は雑談をしていたのですが、急にサンタは思いつめたような表情になり

    「T、びっくりするかもしれないけど、私はね、Tのお父さんなんだよ。」

    と、言いだしました。

    「どういうこと?意味がわからないよ。サンタさんが僕のお父さん?」
    「意味がわからないかもしれないけど本当なんだよ。お母さんと離婚してから、何度かTと会おうとしたけどお母さんが意地悪だから全然Tに会うことができなかったんだよ。だからクリスマスにサンタのふりをして、お母さんがいないときを見計らって君に会いに来ていたんだよ。Tのことが好きだからだよ。息子なんだから。でも、いずれにしろもうこの世界ではTと一緒に暮らすことはできないのさ。でも、大丈夫。これからはあの世で一緒に暮らすんだからね。」

    Tはサンタの言っていることが全然理解できませんでしたが、まずい状況であることは感じていました。サンタはカバンから包丁を取り出してTに詰め寄ります。

    「T、すぐ終わるからちょっと我慢してね。お父さんと一緒になれるからね。」
    「何するの?!やめて!!怖いよ!!」

    ガチャガチャ。その時、玄関の鍵を開ける音が聞こえました。お母さんが帰ってきたのです。
    「あれっ!誰かいるの?」
    サンタが慌て始めます。お母さんが部屋に入ってきました。

    「!!あなた!何するつもり?やめなさい!」

    サンタは奇声を上げて部屋の隅に下がりました。

    「来るなー!もう俺が一人で死んでやる!」

    サンタは包丁を首に当てて、思いっきり引きました。

    「うぅわーーーぁーーー」

    サンタの首から血が噴き出ます。お母さんはすぐに警察と救急車に電話しました。警察や救急隊員が家にドカドカ入ってきました。この辺でTはショックで気を失ってしまったそうです。Tがパニック状態になりながらも唯一覚えているのは、サンタの白いシャツが血で真っ赤に染まり、まるでサンタクロースの赤い服のようになっていたことだそうです。

    後からTが母から聞いた話によると、Tの父は酒を飲むと暴力を振るう癖があり、離婚したのもそれが原因だったそうです。その後、復縁を求められて母が断ると、暴力を振られ大怪我をしたそうです。弁護士を交えた話し合いや裁判にまでなり、母ともTとも面会禁止になったそうです。

    Tの父は離婚には納得していたのですが、Tとの縁も切れたことにショックを受けたようです。その後、彼は自暴自棄になり、仕事も辞めて無職になり、荒れた生活を続けていたそうです。そうした中で、どうしてもTに会いたくなった彼の策がクリスマスにサンタクロースとして会いに行くというものでした。そして、Tと短い時間ながらも楽しい時を過ごすうちにますますTを可愛く思い、心中を思い至ったのだろうということでした。

    Tはこのようなショッキングな事件に遭ったことで、サンタクロースの赤い服を見ると、血で真っ赤に染まった父親を思い出すようになってしまったそうです。だから、クリスマスになるとなるべく出歩かず、浮かれた気分には絶対になれないのだそうです。だからクリスマスの時期になるとテンションが低くなっていたということなのでした。

    以上がTの話の全てです。みなさんの知り合いにもクリスマスになると暗くなる人はいないでしょうか?もしかしたら、何らかのトラウマを抱えているのかもしれません。

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    31.キシィ!

    ペンネーム:あおい

    うちのインコは変な鳴き方をします。
    小さなくしゃみみたいな、とにかく変な鳴き声です。
    あえて文字に起こすなら「キシィ!」という感じで、初めて聞いたときは「風邪でもひいたのかな?」と心配しました。
    でも鼻水も出てないし、それからもちょくちょく言うので、口癖なんだろうと思っていました。

    YouTubeなんかでインコの動画を見ると、多くの子が飼い主さんの言葉を覚えて喋りますよね?
    うちのインコは、一人暮らしを始めたときに同居人欲しさにヒナの頃から飼い始めて、今まで2年間そういうお喋りが全くありませんでした。
    なので(変な鳴き声ですが)、むしろちょっと嬉しい気持ちになり、「キシィ!」という鳴き声を撮ろうと、何度も動画撮影を試みました。

    ある夏の日、休日出勤をした振替でお休みをもらっていたときのことです。
    家事もやり終えて特にすることもなくゴロゴロしていたとき、「キシィ!」とインコがまた鳴きました。

    私は「そうだ!」と思いつき、スマートフォンの録画をスタートさせた状態で鳥かごの脇に置き、自分は別の部屋で待機することにしました。
    こうしてればいずれ上手く撮影できるはずです。

    10分、20分、なかなか鳴いてくれないインコを待っているうちに、私はいつの間にかウトウトとしてしまいました。

    「キシィ!」

    インコのいる部屋から音がして目が覚めました。
    やっときた!と思って、ドアを開けて部屋に入ると、インコの部屋の窓の網戸の向こうに一瞬、黒い影が見えました。
    インコがいる部屋の窓は外の廊下に面しており、夏場でもあったことから窓を開けて網戸の状態にしていました。

    お隣さんか誰かが通ったのかな?

    と思って、スマートフォンの録画を再生してみると、背筋が凍りました。
    インコを撮っていたスマートフォンは、その奥の窓までファインダーに収めており、録画開始から1時間ほど経ったあたりで、網戸のところに黒い服の男性が立ったのです。
    その男性はキョロキョロと部屋の中を物色していました。そしてしばらく中を覗いたあと、男はスマートフォンを取り出しました。

    「キシィ!」

    私が最後にインコの鳴き声だと思ったのは、スマートフォンで撮影をする音だったのです。

    私はすぐに警察に連絡し、それからは男が現れることはありませんでした。

    それでも、インコが真似をするくらいの回数、自分の部屋が撮影されていたかと思うと、今でもゾッとします。

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    32.中国人

    ペンネーム:はやぶさ

    私が25位の頃の話です。私は東京で大学を出ても就職をせず数年フラフラしている時期がありました。
    元々子供の頃もある程度不良だったこともあり、東京生活でも悪い仲間はそこそこ居て、今でいう半グレ的な事をしてた訳です。

    仕事は闇金で勿論バックに居るのは誰もが知っているようなヤクザ組織でして、そういった所で仕事をしているうちに、主にパチンコ屋でゴト行為をしている中国人達と仲良くなりました。私が結構飲みに行ったりしてたのはその中の4人なんですが、皆勿論皆不良です。
    だけど仲間内でいる時は非常識だなと感じる事もありましたが、悪い奴らじゃ無かった。一緒に居て楽しい時も多かった。

    ある日仕事で町田に住んでるおやじが金を滞納し続けてるから、絶対取ってこいと言われて回収に向かったことがありました。
    債務者のおっさんの家は結構立派な家でこんな良い家住んでるなら、金くれー返せよと思いつつチャイムを鳴らして要件を伝えました。
    『スイマセンね~。すぐ行きますよ』と返事が来て、家の門の前で待っているとおやじが玄関から出て来たんだけど、もう血走った眼付で『おんどりゃ~!!』とか叫びながら日本刀振り上げて走って来るのよ。
    漫画や映画以外でおんどりゃ~使う奴初めて会ったし、模造刀かもしれないけどとにかくビビって二人で走って逃げた。

    帰って当然ぶん殴られて遅くまでいびられた。最悪だった。

    中国人とつるんで飲んでると、あいつらはよく電話が鳴るんですよ。んで仲間だとか言われて酒の席に別の中国人が来ることも多かった。
    そんな中で何度か明らかに電話での態度や、特定の人が来た時にそいらが物凄い緊張して礼儀正しい感じになる時があった。
    中国語だから何を言ってるかは当然わからないんですけどね。
    ある日『あの人って何なの?お前ら何かビビってない?』って聞いてみたんですよ。

    そしたら『あいつと仲間達は人を殺す奴等だから。。』って返ってきたんですよ。
    私は初めて心底ゾッとしました。自分が踏み込んじゃいけない場所の近くにいるのかもしれないと。
    町田でおんどりゃ~を言われた時より怖く感じたかもしれない。

    それからしばらくして債務者のリストから町田のおんどりゃ~の名前がなくなってたのに気づいたんです。
    店長に恐る恐る『町田の〇〇って取れたんすか?名前無くなってますけど。。』的な事を聞いたら
    上の人が中国人を使ってさらったらしいよと言われました。
    夜中窓ガラス破って中に入って連れ去ったらしいです。
    我々では到底できない荒々しいやり方で、その人がどうなったかは聞けなかった。
    300万位だったけど殺したのかどうなのか。。。殺してはいないとは思うんだけど。。

    その話を聞いたときに私が二、三度会ってる『人を殺す奴等』と言われていた奴の顔が思い浮かんだ。

    こういう所に長く居てはいけないと私は退職して、地元に帰り就職した。

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    33.ミシミシ

    ペンネーム:Yakumo

    仕事で帰りが遅くなり、夜中の2時も回り帰宅を急いでいた時の話です。
    少しでも速く自宅に帰りたかった私は、普段は通らない住宅街の路地を車で帰っていました。
    もう少しで自宅に着く所まで来た時、街灯に照らされた道路にしゃがみこんだ2人の姿が映りました。

    1人はセーラー服を着た中学生ぐらいの子と、もう1人はピンク色の上着を着た妹さんぐらいの子で、
    道路の真ん中にしゃがみこみ2人で何かを拾い集めてるような感じでした。

    車を近付けても立ち上がる訳でもなく、しゃがみこんで道に落ちている何かを拾っていました。
    夜中に住宅街で車のクラクションを鳴らすのも迷惑になると、2人に向けパッシングをしました。

    10回ほどパッシングをしてようやく気づいたのか、こちらに顔を向ける訳でもなく、
    2人は俯いたままその場に立ち上がりました。
    もっと道路の端に寄れよと思いながら、立ち上がった2人の脇をゆっくり車で通った時、
    まるで交通事故現場の脇を徐行した時にガラス片やプラスチック片をタイヤで踏んだ時の様なミシミシとした音が聞こえました。

    その時にようやく、なんでこんな時間に子供が居るんだ、道の真ん中で何を拾っていたんだ、
    ミシミシって音は何だと、色々な疑問が頭の中に浮かびました。

    自宅に着いてから、その場所に戻って確認しようか悩みましたが、結局戻ってみる事にしました。
    しかし、その街灯に照らされた道路には誰もおらず、ミシミシとした音も聞こえませんでした。

    次の日から、あまりの不思議な体験でテンションが上がり、色々な人にその夜の出来事を話して回りました。

    その後間もなく、私は交通事故に遭い鎖骨と胸骨の骨折もあり長い入院生活をする事になりました。
    担当医の話で、首に刺さったガラス片があと1、2cmずれていたら、頸動脈が切れて失血死していたところだったと説明を受けました。

    たまたま、気の持ちようと言われてしまえば、それまでですが、この出来ごと以来不思議な体験をしても、誰かに話をする事は無くなりました。

    今回投稿したのは、体験した本人の口からではなく文章での伝達ならどうなるのかを知りたかったからです。

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    34.深夜の子供

    ペンネーム:cherry

    この話は数年前俺が体験した話なんだが聞いてほしい。

    俺の家は結構田舎の方にあって田んぼや畑が一面に広がってる。
    夏の夜だと虫の声や水の流れる音が綺麗でそれが好きでよく深夜に散歩してたんだ。
    深夜1時半くらいだったかな、その日もいつものように散歩にでかけた。
    暫く歩いて三叉路に差し掛かった時左手側から鈴のような音が聞こえたんだ。
    最初虫の声かなにかかと思ったが耳を澄まして聞いてみるとどうやら自転車のベルの音だとわかった。
    深夜1時過ぎに街頭もないこんな場所で自転車?ましてや一番近い近所の家まで数百mもあるのにおかしいな・・・と思いつつ音のする方へ目を凝らしてみたが当然真っ暗で何も見えない。

    数分経った頃ベルの音と共に砂利道を走る音も聞こえてきた。自転車の車輪の音にしては違和感がありスピードも遅い。
    その瞬間暗闇から黄色い三輪車が見えた。乗ってるのは3歳位の男の子なんだが笑顔なんだ。でも笑ってるのは顔だけで声は一切発してない。それが逆に不気味だった。
    こちらには目もくれず目の前をゆっくりと通り過ぎてまた闇の中へと消えていった。
    急に恐怖心に襲われた俺は全力で走って家に帰り親に話したが信じてもらえず、自分の頭がおかしくなったのかと思った。

    後日近所の人にも聞いてみたがそんな子は知らないし見た事もないらしい。
    幽霊なのか現実の人間なのか今も分かってないが誰かに聞いてほしかったんだ。
    オチとかなくてすまん、似たような体験してる人が居たらぜひ教えてほしい。

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    35.タクシーに乗ってきた女

    ペンネーム︰さいとうまめし

    父がタクシー運転手なんですが、その父の体験談です。
    深夜駅のロータリーで客を待っていたらコンコンと助手席の窓をたたく女性の影が。扉を開けると乗り込んできたので、どちらまで?と聞いたそうです。
    「○○町○○番地」
    女の人が答えたんですが、その番地、父の住んでる家の住所なんです。
    ちょっと不審におもったんですけど、ウチはちょっとした自営みたいのやっていて、まぁ目印にされてもギリギリおかしくないかな…って感じではあったのでそのまま乗せていくことにしました。
    バックミラーでちらっと女性を見てみると、20代くらいでセミロング、見ためは普通の女性に見えたらしいです。ロータリーから家まで10分くらいなんですけど、その間一言もお互い発さず到着しました。
    「料金○○円です」
    そう言って後ろを見ると女性は父のほうに身を乗り出してきていて(かなり近かったらしいです)、満面の笑みで

    「ここ、あなたのお家ですよね」
    といってお金を渡してサッサと出ていったそうです。
    父が呆然としてると女性は家の脇の道をまがり坂をのぼっていきました。
    お金は金額ピッタリで、気味が悪いなぁと思いつつ仕事中なのでとりあえず出なくてはと車を発進させました。
    とくに落ち?もないんですがなんか自分にとってはかなり不気味な話でした。

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    36.5つの箱

    ペンネーム:とりとろ

    私は大学生の頃、個人経営のリサイクルショップでアルバイトをしていました。そこで経験した恐ろしい話を投稿させていただきます。

     入学早々に気まぐれに立ち寄ったそのお店でバイト募集の張り紙を見た私はすぐに応募を決め、採用されました。
    そのお店は骨董ばかりを扱うわけでなく、家具や電化製品、古着から何から何まで売れそうなものは何でも店頭に並べるというタイプのお店でした。古物商の寄り合いから仕入れることもあれば、お客さんのご自宅や空き家からの荷物整理なんかも請け負っていました。そんなお店ですから、仕入れる品物はかなり幅があって、たくさんのものがお店に集まってくるのです。

     私は専ら、お客さんから引き取った品物を整理する仕事を任されていました。どう仕様もないゴミは処分し、使えそうなものは取っておいて綺麗にして売る、という仕分け作業ですね。特に、突然空き家になったお家から出たものは玉石混交で、と言っても殆どが石なわけです。その日も大した事の無いワンルームから引き上げてきた荷物を整理していたときのことです。

     現場はその場で細かい仕分けはしません。運びやすいようにダンボールに一気に詰めてまとめて運び出します。タンスなんかの小物が多い家具から出てきたものは中身をあらためず兎に角しまっていきます。店まで運んだものを売れるものとそうでないものに仕分けるのが私の仕事です。

    「店長、こっちの荷物もそうですか?」
    「そうだよ。この前の42さんとこの。今日中にやっておいてね」
     倉庫の奥に積まれた5つのダンボール。何の変哲も無いダンボールですが、私は何だか嫌な気がしました。

     42さんとは、このお店の隠語で「夜逃げ」を意味しています。私達は家主から依頼を受けてただ部屋から荷物を引き払っただけです。その人がどんな人なのかは全く知らされません。ただ、その部屋はワンルームで、その人は一人暮らしだったということだけはわかります。荷物の量や家具で大体の検討はつきます。けれどその42さんの荷物は、少なすぎました。

     家具を差し引いても、ダンボールが5つだけというのは少なすぎます。普通はもっと多いです。人によっては3倍以上の荷物になります。明らかに、少なすぎるのです。そういう理由で、私は不安を覚えたのです。
    「まあ、夜逃げだし、必要なものだけは持っていったんだろうな」
     誰に聞かせるでもなく、私は呟いていました。

     1つ目のダンボールは、食器類でした。使い古して塗装がハゲている皿やコップがいくつか。一人暮らしならそんなものです。けれど私は「おっ」と思いました。ダンボールの底に入っていたのは高そうなティーカップセットです。6人分のセットが綺麗に揃っていました。売れます。

     2つ目のダンボールを開けると、衣類でした。着古したジャンパーとジーンズ。ユニセックスなデザインで、持ち主の性別が見えません。そしてまたしても奥にありました。着物が2着と、シルクのドレスが3着。売れます。
     結構あたりです。こんな金目のものを残していくなんて、不思議でした。けれど高価なものが続けて出てきた事に気を良くした私は勢いづいて残りの箱も開けました。

     3つ目は何種類もの化粧道具。どれも新品で封すら開けていません。いえ、一つだけ使い差しのセットがありました。まあ新品であれば店には並べられます。ラッキーです。

     4つ目は靴でした。履き古したスニーカーが一足、ビニール袋に入れられていましたが他は新品同様です。ヒールや革靴があり、手入れが行き届いています。箱に入っていればもう少し保存状態も良かったろうに、と私は少し悔しい思いをしました。

     さて5つ目です。ガムテープの封を切って開けてみると、中にはアクセサリーや小箱が雑多に押し込められていました。ピアスやイヤリング、シルバーの類まで、幅広い趣味の装身具がありました。この手のものが一番売りやすいのに、適当な仕事をした店長にささやかな怒りを感じながら、私は絡まったネックレスを解いていました。

    「どんな人だろう」
     私は今まで出てきた品物から、人となりを想像してみましたが、うまくいきません。趣味の幅が広すぎて、よくわからないのです。大事にしていたものはどうやら女性のものらしいですが、使い古したものは男性のようにも思えます。

    「水商売の人だったのかな」なんて想像を膨らませます。そういうことなら、この纏まりのないアイテムにも納得です。お客さんから貰ったものなら、本人の趣味は反映されませんから。

     そして私の手は小箱に伸びました。5つあります。それぞれ色違いで、指輪を淹れるようなビロードの表面が美しい小箱です。きっと良いものに違いない。私は一人でワクワクしながら箱を開けました。

     ぽろり、と手の中にひやりとした茶色のものが転がり落ちました。
    「うわっ!」
     情けない声を上げて手を払うと、それは地面に音もなく落ちました。
     しわくちゃで茶色の小さななにか。細長く、所々赤黒い。

     へその緒。

     指輪のケースに入っていたのはへその緒でした。
     全身が粟立ち、一つのビジョンが脳裏に浮かんだ私は悲鳴を上げて倉庫を飛び出し、店長に助けを求めました。

     流石の店長もこれには表情を失していました。結局残りの箱は店長にあけてもらい、その中が全てへその緒だった聞いた私は店のトイレで吐いてその日は早退しました。

     翌日恐々としながら出勤すると、店長は一言「もう捨てたよ」とだけ言って普段どおりに仕事をしていました。

     これが、私が経験した怖い話です。そのへその緒が誰のもので、どんな風に使っていたか、想像もしたくありません。みなさんも、中古物にはお気をつけて。

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    1  不思議な名無しさん :2023年06月29日 18:24 ID:.IxSumPj0*

     
     
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