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1.魂の在り方
ペンネーム:おままごん葬式から1年過ぎたので、思い出として書き残しておこうと思い、筆?を取りました。
親戚にミキ子さん(仮名)という方がいます。いえ、いました。
ミキ子さんは重度のアルコール依存症でした。
私自身も過去にアルコール依存症だった頃がありまして、その辛さは重々理解しております。
禁断症状から逃れる為に飲む。そのうち禁断症状はスピードを上げて追いかけてくるので、飲むペースも雪崩式に増えていく。そんな精神疾患です。
本来であれば、精神病院の閉鎖病棟に入院させて数ヶ月かけて治療するべきですが、残念ながらミキ子さんの家族はアルコール依存症の危険性を知らず、ただお酒が好きなんだろうと、深く考える事はありませんでした。
ミキ子さんは日がな一日中、毎日毎晩お酒を浴び続けていました。
1年前の朝の事です。
旦那さんはいつも通り目を覚まし、二人分の朝食を用意しました。
子供達は大きくなってそれぞれ家庭を持ち、家は親としての務めを果たした旦那さんとミキ子さんの二人暮らしでした。
空き部屋が出来た為、二人はそれぞれ別の部屋で過ごす事にしましたが、夫婦仲はとても良いものでした。
朝食は、自分の為。もう1人分は、ミキ子さんの為。
旦那さんはミキ子さんの寝室に向かって「ミキ子、朝ご飯出来たよ」と声をかけました。
けれどもミキ子さんからの返事はありません。
また夜遅くまで飲んでいて起きられないのだろう。
旦那さんにとってはいつもの事でした。
特に気にする事もなく一人、朝食を摂りました。
朝食が終わり、仕事着に着替え、家を出る時間になりました。
家を出る前に、ミキ子さんの寝室のドアの前で「大丈夫か?仕事行ってくるけどあまり飲みすぎるなよ」と声をかけましたが、やはり返事はありません。
これは相当夜更かしして飲んだんだろうと思い、そっとしておけば酔いも覚めるだろうと考え、そのまま仕事へ出掛けました。
夜、仕事を終えた旦那さんが家に帰ってきました。が、何やら様子がおかしい。
いつもは明るく照らされた玄関が迎えてくれるのに、今日に限って電灯が点いていない。
他にもおかしなところがある。雨戸は開けっ放しで、部屋のどこにも灯りがない。
幾ら酒が好きとはいえ、家の事を何もせずに飲み歩くのは流石にどうか。
そろそろガツンと言わなければなぁ、と思いながら玄関の扉を開け、廊下を抜けてキッチンの電気を点けました。
ミキ子さんの為の朝食が、手付かずのままテーブルに残っていました。
まさかまだ寝てるのか?いやいや流石にそれはないだろう。家を出てから何時間経ってると思ってるんだ。
旦那さんはミキ子さんの部屋のドアを開け、部屋の灯りをつけました。そして目に飛び込んできました。
ミキ子さんは、首から延びたロープにぶら下がっていました。
それから程なくして、警察、救急がやってきました。いつの間にか自分で電話していたようですが記憶にありません。
旦那さんは警察から事情聴取を受けますが、放心した状態で、まともに受け答えが出来ません。
ただ、ミキ子さんの側にいた救急隊員の一言を拾い聞きした時、一気に思考が回り始めました。
救急隊員はこう言っていました。
「だいたい死後10時間ってとこやろね」
10時間前。
それは仕事に向かう前。
ミキ子さんの寝室のドアの前で「仕事行ってくるね」と声をかけた時刻。
その時、ドアの向こう、ミキ子さんは首を吊って緩やかに死に向かっていた。
いってらっしゃい、の声が無かったのは当然だ。首を吊っていたのだから。
それと同時に、旦那さんは気付いてしまいました。
もしあの時、ドアを開けていれば、ミキ子を救えたんじゃないのか。
旦那さんはショックのあまり倒れてしまいました。
とは言え人が死んでしまった以上、やる事は山積みです。
倒れてしまったので旦那さんは動けません。長男が代行する事になりました。
滞りなく手続きは進み、ここまでは順調に事が運びました。
が、一番大切な事が残っていました。
お葬式です。
長男は宗教に疎く、そもそも親の宗派なんて知りません。倒れてしまった父に聞くことも出来ません。
困り果てた長男は、葬儀業者に相談しました。葬儀業者は答えました。
「でしたら浄土真宗で上げましょう。浄土真宗なら宗派が多少違っても問題ありません」
こうして、ミキ子さんは、浄土真宗での葬儀となりました。
もし、息子さんが親の信仰を知っていればこんな事にはならなかったのに。
もし、うちの祖母が体調を崩さずにお葬式に参列出来ていれば止められたのに。
ミキ子さんは神道信徒でした。
ある日曜日、仏式の、浄土真宗でのお葬式が無事執り行われました。
長男は、やっと一段落つけると胸をなで下ろしました。
その夜からです。
祖母の枕元にミキ子さんが立ち始めたのは。
祖母の枕元に立ったミキ子さんは、苦悶の表情を浮かべながら何かを訴えかけています。
風邪を引いていた祖母は、熱が見せる幻覚だろうと思って特に気にせずそのまま眠ってしまいました。
次の日の夜もミキ子さんは現れました。
熱も幾分か引いており、意識もはっきりしていたので、これは間違い無くミキ子の霊や、と気付きました。
表情は前夜より苦しそうに見え、相変わらず何かを訴えていますが、何を言ってるか祖母にはわかりません。
私は耳が悪いからお前が何言うとるか聞こえん。そもそも勝手に死んだ奴の事なんぞ知らん。と言ってさっさと寝ました。
うちの祖母、豪胆。
また次の夜もミキ子さんは現れました。
先日か、またはそれ以上に苦悶の表情で、やはり何かを訴えかけてきます。
この時少し熱を感じました。風邪がぶり返したか?安眠を妨げるミキ子のせいとちゃうんか?
いい加減腹が立ってきた祖母は、ミキ子さんと向き合う事にしました。
相変わらず何を言っているのか聞こえませんが、口元の動きを見て、やっと何を伝えているのわかりました。
ミキ子さんはこう言ってました。
「たすけて」
夜が明け、祖母は懇意にしている占い師さんに電話して聞いてみました。
占い師さんは「魂が在るべき場所に行けずに彷徨ってる」と告げました。
これは葬式に何か問題があったんじゃないかと勘付いた祖母は、息子さんに電話をし、ここでやっと仏式で葬儀を上げた事を知りました。
この時のうちの祖母の激怒っぷりは、電話口でも泣きそうなほど怖かったと、後日息子さんに伺いました。
ここで本題である「魂の在り方」について大雑把ですが触れておきます。
神道では、魂は祖霊となって永く家を護る、とされています。
仏教では、魂は極楽浄土へ送られ仏となる、とされています。
ただ仏教には一つ、大きな落とし穴があるのです。誰しも一度は耳にした事があるでしょう。
命を粗末にした者は地獄へ落ちる
ミキ子さんは神道信徒でした。
本来なら祖霊となって魂は家に帰るはずでした。
しかし間違った葬儀を上げられた為、家に帰ろうにも帰る場所がない。
更に自分で命を絶った、つまり自分の命を粗末に扱った為に地獄へ落ちようとしている。
家に帰れるはずが何故か地獄に落とされかけてる!助けて!
霊感の強い祖母の元に現れたのは、そんなミキ子さんからのSOSでした。
祖母は次の日曜日、先日のお葬式から一週間後に、神式での葬儀を取り付けました。
やはりその夜もミキ子さんは枕元に立ちます。
風邪はすっかり良くなっていましたが、やはり熱を感じます。
表情は更に険しくなり、たすけてたすけてと、声にならない救いを求めてきます。
次の日曜に葬式やり直すから少し待っとけ、と伝えて祖母は眠りにつきました。
次の日も、また次の日も、ミキ子さんは枕元に立ちます。
日を重ねるにつれミキ子さんの表情は苦悶の色が濃くなり、助けを求める声は叫び声へと変わっていきました。
そして、祖母が感じる熱も日増しに大きくなっていきました。
祖母は気付きました。
ああ、ミキ子が落ちようとしてるのは灼熱地獄か。
葬式を翌日に控えた夜もやはり、ミキ子さんは枕元に立ちます。
ですが今までとは少し違いました。
これまでとは比べ物にならない、鬼のような形相で苦しみ、口の動きを見ても何を言っているのか分からない程の絶叫です。
祖母の感じる熱も尋常ではありませんでした。
12月の夜の悴むような寒さの中、窓を全開にして素っ裸になっても、あまりの熱さに一睡も出来ませんでした。
明日、明日になったらちゃんとしたるからもうちょっと我慢しとき。祖母はミキ子さんへ語り続けました。
日曜日。お葬式の日がやってきました。
神式で宮司さんがかしこみかしこみ申して、祖霊は奉られ、式は無事終了となりました。
ああようやった。これでミキ子も救われるし私もゆっくり寝れる。
祖母が一息ついていた処、そそくさと宮司さんがやってきて、祖母にこう告げました。
「申し訳ない。ミキ子さんの魂は完全に地獄に落ちきって救えなかった。せめてあと1日でも早ければ」
ミキ子さんはそれから現れていません。
が、親戚とはいえ同じ人物の葬式に何故か2度も出て、何故か2度も香典包まされた私が納得出来る訳が無く。
上記の話は事実ですが、誰かに話した時に笑って貰えるように面白可笑しく改変してやりました。
私、御朱印収集が趣味なんですが、行った先々の神社やお寺で、宮司さんや住職さんにこの話をしています。
宮司住職にかなりウケる鉄板ネタとして有り難く使わせて貰っています。香典代5000円分の価値は十二分にありました。
ただ、隣の県の初めて行ったお寺で、住職さんが「面白い話があるんだけど」と、私のネタを話してきた時はちょっとしたホラーでした。
どれだけこのネタ広まってるのか、これ罰当たりじゃないのかとちょっとビビっています。
兵庫県近隣の神社仏閣なら、ひょっとしたら改変後の話が聞けるかもしれません。あるいは既に聞かれた方がいるかもしれません。
ミキ子さん(仮名)じゃなく、本名のほうで。
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2.姉さん
ペンネーム:百鬼太郎僕には5つ年上の兄がいました。
先日、上京した兄が8年ぶりに帰ってきました。
姉になっていました。
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3.金縛り
ペンネーム:モモ小さいころ、金縛りに頻繁にあっていた。
一週間に2回はあっていたと思う。それが原因で、寝るのが怖かった。
夜は割とすぐに眠れるのだが、いつも同じ時間に目が覚めた。2時頃だと思う。その時間に目覚めてから、また寝るまでの時間によく金縛りにあった。
時々、お隣さんの電気がついて若干明るくなる。お隣さんの電気がついている間に何とか寝てしまおうと、目を固くつぶるのだが、全く寝られず、電気も消えてまた真っ暗に戻ってしまう。そして、運が悪いと金縛りにあってしまうのだ。
途中で目が覚めるのは、きっと疲れていないせいだろうと、バスケに打ち込んだりした。スポーツに打ち込み、今日はかなり疲れたと思った時も、やっぱり同じ時間に目が覚めてしまう。そして金縛りにあうのだ。
金縛りの予兆は、体がギュッと締め付けられた感じがし、実際には聞こえないのだが、ガタガタガタという音が聞こえてきて、耳がキーンとなる。そして天井が低く近づいてくるような気がしてくる。くるぞくるぞと思っていると、やっぱり来る。その瞬間がすごく嫌だった。
おまじないにも頼ってみた。進研ゼミだったかの付録に、ハサミを開いて机に置いておくと金縛りにあわないだったか?のやり方が書いてあったので、その通りにしてみた。が、やっぱり来た。金縛りが。おまじないの意味がないではないか。
金縛りにあった時、自力で解こうと思えば解けるのだ。動けなくなっても、お腹の底から気合を入れて、
「コノヤロー!」
てな感じで力を入れ続けていれば、解けるのだ。体力も精神力もいる気がするが、ずっと金縛られているのが我慢ならず、中学に上がるまではそうしていた。
だが、2ちゃんねるのスレットを読んでいて、心霊を退けるためにオナニーをしたり、何故かファブリーズをまくというのに目が留まった。
ファブリーズは意味不明だったのでやらなかったが、オ◯ニーというか、エロは効きそうだと思った。それで、金縛りの際は、頭の中でとにかくエロイことを考えることにした。ノーマルでもBLでも百合でもいい。とにかくエロイことを考えて、それに頭を集中させていると、いつの間にか体が楽になるのだ。気合を入れて、金縛りをはねのける必要もなくなった。そしていつしか、金縛りになるかもしれないという恐怖も薄らいでいった。
金縛りは本によると、体は眠っているのに脳は起きているという状態なので、正確には心霊ではないと思う。
それでもちゃんと効果があったのが嬉しかった。眠るのが怖くなくなったのだから。エロの力はすごいなあ。
高校、大学に進むにつれて、次第に金縛りになる回数は少なくなっていき、大人になった今ではもうほとんどなくなった。だが、また金縛りにあってしまったら、またエロイことを考えてやり過ごそうと考えている。
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4.ヤクザ天使
ペンネーム:鉄板これは我が家の鉄板ネタです。両親は九州出身。二人が若い時の九州はヤクザの全盛期。当たり前の様に、一見してヤクザと分かる集団が大手を振って通りを歩いているような物騒な時代だったそうです。ある時ヤ―さん一家で後継者争いが勃発。黒塗りの車が至る所にいて一般人はビクビクしていたそうです。
父の趣味は車集め。しかも外車。お金はほぼ全部車につぎ込んで母とドライブデートするのが休日の楽しみだったそうです。父はある日、お気に入りの黒のベンツで母とドライブ。けれども九州のド田舎で、今から何十年も前に黒いベンツを乗り回す若者などそうそういません。いつのまにか後ろには黒塗りの車が何台も・・・。母はこの時点で泣きそうだったそうです。父も青ざめていたらしいです。
急いで近くの派出所(当時は交番とは言わなかったそうです)まで行こうとすると、何と目の前からも黒塗りの車が数台きて挟まれてしまったのです。そして車から一人の男が降りてくる。母はその時はっきりと、その男が胸の中に右手を入れていたのを覚えていると言います。「あ、これは死んだ」と母は思い、生きるのを本気で諦めたそうです。すると、何と父は自ら窓を開け大声で「私はこの近くに住んでいる〇〇(偽名)という者です。何か御用でしょうか!!」と叫んだそうです。そしたら前後から数人男たちが走ってきて父の顔を覗き込みます。その男も父を舐めまわすように見た後、助手席の母の顔もじろりと見る。右手は胸の中に入れられたまま。母は生きた心地がしなかったそうです。男は一言「素人さんか・・・」と呟き、すぐに戻り車はあちこちに離散していったといいます。
二人で真っ青になりながら派出所に駆け込む。警官は大笑いして「無事で良かったですな」と言った後「こんないい車に乗ってるからですよ」とだけ。当時の九州はこんなもんだったそうです。
帰り道、父は母にプロポーズ。プロポーズの言葉は「お前とならどんな苦難も乗り越えられる」だったそうです(笑)。母は勢いで承諾。母はいつも「あのヤクザは恋のキューピッドだった」と冗談めかして語ります。まあ、夫婦仲は今でも良いので私としては何よりです。
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5.全裸の逃走劇
ペンネーム:真冬のそうめん登場人物
私 ……投稿者
父 ……投稿者の父
S ……投稿者の父の同僚で友人
これは私の父が昔話してくれた心霊?体験です。
私の父は、私が小さい頃癌で亡くなってしまった祖父と同じく、若い頃は小学校の教員をしていました。
真面目で頑固。おまけに生徒達からは鬼教師の名で呼ばれていたという父唯一の弱点は、お酒好きが過ぎるという事でした。
お酒が入るとまるで人が変わったかのように上機嫌になり、子供のような言動や信じられないような行動を起こしてしまう父。
これはそんな父の、ある意味お酒が引き起こしてしまった失敗談の一つです。
今からもう40年以上昔の話です。小学校の教員だった父は、翌月に催される臨海学校の下見の為、
房総半島の沿岸部にある某旅館に数名の同僚と連れだって宿泊しに行きました。
下見とは言いますが、その実それを利用してお酒を飲んだり美味しい海の幸を楽しんだり
「まぁ、ちょっとした社員旅行みたいなもんだったな」と、父は語っていました。
だいたい午後3時過ぎくらいに旅館に到着した父達は、そのまま付近の道路や海岸の位置関係をチラッと確認して、
その後はすぐ旅館にとって返し、用意された豪華な夕食を食べながら飲めや騒げやの宴会をして大層楽しんだそうです。
父はお酒好きなのもそうでしたが、それに加えてかなりの酒豪で、他の同僚達が酔い潰れて寝てしまい部屋に帰った後でも、
同じく酒豪で同僚かつ友人のSさんと2人して遅くまでお酒を飲み、すっかり出来上がってしまいました。
そうして、気分が良くなった2人は大浴場へ行き、身体が温まって更に酔いが回りのぼせ気味になった父は、Sさんに
「なんだか暑くなって来たから、ちょっと涼むために外に行かないか?」
と提案して、あろう事か2人は全裸のままタオル片手に大浴場の窓から抜け出し、夜の街へ繰り出してしまいました。
(今思うとなんであの時あんなことしたのか分からない、お酒は怖い……と、父はお酒で赤くなった顔でぼやいていました。
私もそれを聞いて、心の底からそう思いました)
旅館の裏手にある柵をよじ登り、小さなタオルで股間を隠してはいたものの、他は一切何もつけないすっぽんぽんのまま
深夜の寂しい漁村を歩く父とSさん。臨海学校を控えていたくらいなので季節は7月の終わりか8月初めの暑い時期。
この日もかなりの熱帯夜で、酒と風呂で温まった身体を冷やすにはちょうどいい気候だったらしいですが、そういう問題では無いと思います。
とにかく、2人はほぼ全裸のまま、暗いのと酔いで前後不覚気味になりながらも、「涼しいなぁ、涼しいなぁ」と口々に言いあい、
千鳥足のまま辺りを彷徨い歩いた末、いつしか昼間に軽く下見に来た海岸の近くに辿り着いたそうです。
そこで2人は、道路と砂浜とを仕切るように走っている塀の上(防波堤?)に裸のまま腰掛け、お尻が砂で汚れるのも構わず、ボケーっと
夜の海を眺めていたらしいです。海からいい風が吹いてきて、火照った身体や顔を優しく撫でていきます。
それがなんとも心地よく、父はだんだん眠くなってきてしまいました。
が、そうやってしばらく夜風に当たりながら父がウトウトしていると、不意に隣に居たSさんが
「ん、あれ? ……おい、なんか沖に誰か立ってないか?」
と言い出したそうです。
それを聞き、父もSさんが「ほら、あそこあそこ」としきりに指をさしている方を見てみると、なるほど確かに海の沖合いに、
ぼうっと、まるで不知火のような白い影が真っ直ぐ立っていました。
Sさんが「人だ、人が立ってる! ほらあそこ!」と尚も興奮気味に言い続けるので、内心では(こいつ相当酔ってるな……)なんて思いつつも、
父は友達のよしみで「どこ? どこだよ〜?」などと言いつつ塀の上に立ち上がり、眠い頭を軽く振りつつ、よーくその白い影に目を凝らしてみました。
するとどうでしょう。初めは煙か何かにしか見えなかったその影が、見つめるうちにだんだんと
〝蛇の目傘をさして白い着物を着た若い女性の姿〟に見えたのだそうです。
その女性らしき影が立っているのは前述したように沖合いです。堤防のような人が立てる足場があるわけでもなし、
第一こんな夜更けに雨もないのに傘をさした、しかもあんな古風な格好をした女性が海にいるのもおかしな話です。
これには父も驚いてしまい、父は眠いのも忘れて裸のまま塀の上でSさんと2人して「人だ! 人だ!」と騒いだそうです。
と、そうやって騒いでいるうちに、事態は急激に変化しました。
なんと、その女性らしき白い影(傘を両手で持ち、見返り美人図のようなポーズをとっていたらしい)が、
海上を滑るようにしながら、猛スピードで父達の方へ向かって来たのです。
それを見て父とSさんは、本能的にヤバい!と思ったらしく、局部を隠す用のタオルも放り出し、全速力で白い影に背を向けて走り出したそうです。
この時はもう酔いも眠気もかなり覚めていたそうですが、それでもいつもの半分くらいしか力が入らず、思うようにスピードが出せません。
チラと後ろを振り向けば、不動のまま、やはり浮遊するように父達を真っ直ぐに追って来ている白い影が見えます。
このままでは追いつかれてしまう。そう思った父とSさんは「助けてくれぇ! 許してくれぇ!」と叫びながら、無我夢中で逃げました。
(深夜の漁村で、裸の男2人が喚きながら全力疾走です。よく通報されなかったものだと思います……)
そうしてがむしゃらに逃げ回り、心臓も脚ももう限界……というところで、父達の目の前見覚えのある景色と光が現れました。
それは自分達が泊まっている旅館の玄関から溢れる明かりでした。
(良かった、助かった!)
そう思った父達は迷いもせず、入り口の石畳に躓きながらも、もんどりうって玄関の扉を開け放ちます。
すると、どうなったか……旅館の入り口は一瞬の静寂の後、大パニックになりました。
当たり前です。夜遅くに、顔を真っ赤にしながら全裸の男2人が息を切らせて転がり込んできたのですから。
幸い?なことに、深夜ということもあり、旅館の入り口には他の宿泊客や同僚の先生方は居らず、受付にも女将さんでは無く男の方が居たらしいのですが、
父はその時の事を「父さんの大事なところを他のお客さんとか女の先生とかに見られる事は無かったから、それは本当に良かったんじゃないかな」
とか言っていましたが、そういう問題では無いと思います。
その後、父とSさんは酔ったまま全力で走ったせいと、ひとまず人の居る明るい場所に来た安心感で、ガクッと力が抜けてしまい2人してロビーに
へたり込んでしまったそうですが、こちらは本当に幸いな事に、もうあの白い影が後ろから追ってくる事はありませんでした。
また旅館の方も父達がかなりの深酒をしていた事も知っていましたし、学校の先生という事であまり大ごとにはせず、酔ってお風呂場を抜け出した事も含めて不問にして下さったそうです。
ただ、その白い着物の女性に関しては、その旅館の近くで特にそういった目撃談や怪談話があるわけでは無かったらしく、
結局正体は分からず仕舞い……なので、後に父はこう解釈したそうです。
父曰く、「あれはたぶんご先祖様か何かで、俺とSが海岸でフル○ンのまま酔い潰れて寝ちゃうのを防いでくれたんだよ。
だってもしあのままあそこで寝でもして朝になっちゃってたら、2人とも学校クビになってただろうからなぁ、ははははは!」
らしいですが、本当に笑い事では無いと思います……色々と気を回して下さった旅館の方には、本当に感謝してもしきれません。
結局この後、父もSさんも再び同じ白い影を見ることも無く、臨海学校の下見も滞りなく終了し、父は翌日の夕方くらいに何事も無く帰宅したそうです。
(強いていうなら、裸で柵をよじ登った時と軽く転んだ時に膝や脛を擦りむいていたらしいですが、自業自得というか、むしろそれくらいで済んで本当によかったと思います……)
以上が、私が昔父から聞いた心霊体験のあらましです。
確かに、話を聞く限り心霊体験には違いないのでしょうが
『不動のまま猛スピードで向かって来る若い女の白い影と、それに追われる全裸の男2人』
という構図が余りにバカバカしく、怪談を名乗って良いのだろうかと思い、ネタ話枠のつもりで投稿させていただきました。
皆さんもぜひ房総半島の海辺にある旅館にお泊まりの際は、夜の海を眺めてみてください。
もしかしたら、蛇の目傘をさして白い着物を着た女性が、見返り美人図のようなポーズのまま、すごい速さで追いかけてくるかも知れません。
ただ、その際は服はちゃんと着ておきましょう。お酒もほどほどにした方がいいと思います。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
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6.この場を借りて謝りたい事
ペンネーム:緑汁2010年1月3日の事。
その時自分は熊本県の植木町とその隣町である玉東町の境目辺りに住んでいた。
そこの近くには心霊スポットとして有名な田原坂がある。
自分には夜中にふらりと散歩をする癖が有り、その時もそんな気分だった。
時計を見ると夜中の2時前、1、2時間ほどの散歩でも…と考えた時に引っ越したばかりでまだ田原坂に行っていない事を思い出し、そこに行こうと思い立った。
田原坂付近のコンビニに車を止め、暖かい飲み物を懐炉代わりに田原坂を登り始めた。確かに心霊スポットと言うべきか、なかなかに趣がある。
2の坂位まで来たか、曲りくねったほぼ街灯のない道をゆっくりと上っていくと車のヘッドライトが見えた。
車2台がすれ違える程の幅はあるとはいえ、夜中の曲りくねった道。先に車を通そうと近くにあったカーブミラーの下に立って車を待つ。
すぐに現れた軽自動車は何故か自分の手前10m程の所で止まった。
何かあったのかと思って見ていると、無理やりUターンをして坂を上って行く。余程慌てていたのか車体を擦るのも気にせず。
何だったのか?と首を傾げても分からず。散歩を続ける気も失せたので、今日はここまでと道を引き返す事にした。
ふと何の気はなしにカーブミラーを見上げると、軽自動車の方の行動が分かった。
明かりも持たず黒尽くめの服を着ていたため、首だけがぽつんと浮いている様にも見える自分の姿に。
確かにコレを第三者視点から見れば非常に怖い。
冬の夜中2時過ぎ、心霊スポットで一人佇む黒ずくめ。見方によっては生首が浮いているようにも見えるシチュエーション。
怖い、怖すぎる。自分でも無理やりにUターンすると思い反省した。
2010年1月3日、夜中2時過ぎに田原坂を下っておられました白の軽自動車の方。申し訳ありませんでした。
それから暫くして、車を追いかける生首の噂を聞いた。
追いかけていませんよ。
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7.巣鴨プリズン
ペンネーム:箱ティッシュ何分人の話を文章にするという作業が初めてなもので、所々読みにくい部分があると思いますがお許しください、、。また、怖い話が好きな方にはオススメしない話です。よろしくお願いします。
これは僕の母(幽霊否定派)が結婚する前、まだバリバリ現役で働いていた頃の話です。
母は池袋のサンシャイン60の中にあったオフィスで働いていたのですが、当時はよく巣鴨プリズンに関する噂を耳にしていたそうです。そしてその類の話の中でも最も言われていたのが残業をしていると出るといった話で、それこそ定番のような話ではありますけれども、いざ残業をするとなるとビルの人間はみんなそれなりに覚悟をしていたそうです。上記の通り僕の母も元々幽霊を信じていないタイプの人ではあったのですが、さすがに残業をする日は毎回今日こそはついに出るのかなどと考えながら仕事をしていたそうです。
そしてそのような日々を過ごすこと約数年目のある日、気がつけば母は結局一度も幽霊を見かけることのないまその職場を退職することになりました。思い出してみれば何度夜中に1人でオフィスに残り仕事をしたのだろうか、数えきれないほど夜のサンシャインを経験したはずなのに一度も幽霊は出てこない。あの様々な噂話は一体何だったのだろうか。
そこで幽霊否定派の母は改めて思ったそうです。やはりこの世に幽霊などいない、いくら経験談で溢れていようとそれは人の勘違いなどであって、あくまでもお話なのであると。
以上が母の経験した話であります。僕はこの話を聞いたとき、まさか身近に巣鴨プリズンの怪を否定できるような経験をした人間がいるとはと驚きました。案外こんなことってあるんですね。また、日本でも様々な心霊スポットってのがありますが、その一部はこの話のように色々噂に尾ひれがついて広がっただけの場所って感じなのかなって考えるとちょっと残念な気分にもなりました(笑)。
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8.正月に妖怪と繰り広げた死闘
ペンネーム:タカモンテック僕が都内のアパートで一人暮らしをしていた時に体験した話です。最初に違和感を覚えたのは11月のある日のことでした。その日、久しぶりに連休を取って部屋でのんびりしていた僕は、小腹が減ったので前日に買ったアイスでも食べようと思い冷凍庫を開けました。するとアイスの箱が開いており一本無くなっているではありませんか。変だなと思いましたが、食べたことを忘れてしまっただけだと思い気にしませんでした。
その一週間後、またもや同じようなことが起こりました。冷蔵庫に入れておいたヨーグルトが少なくなっているのです。今回は明らかに、自分が食べたのを忘れただけというレベルを超えていました。ビニールで包まれた6個入りのヨーグルトが、1個だけになっていたのです。これも前日に買ったばかりのものでした。その後も、ハムが無くなったり、食パンが無くなったり、プリンが無くなったりと、冷蔵庫の食べ物が無くなるという現象が何度も続きました。
12月になっても怪現象は止まりません。さすがにやばいと思い僕は原因を考え始めました。最初に犯罪の可能性を思いつきました。僕が留守の時、あるいは寝ている時に誰かが部屋に侵入して食べ物を盗んだのだろうと思ったのです。
とりあえず誰かに相談しようと思い、1人の物知りな友人に相談してみました。しかし、友人の意見は犯罪には思えないというものでした。仮に誰かが侵入したのだとしたら食べ物ではなく財布などを盗むだろうというのです。
確かにその通りだと思いました。危険を冒してまでわざわざ人の家に侵入したのに、冷蔵庫からアイスやヨーグルトだけ盗んで満足する泥棒がこの世にいるとは思えないからです。泥棒ではないという結論にはなりましたが、それではいったいこの現象の原因は何なのか、友人にさらに聞いてみました。
しかし友人もわからないと言います。そこで友人が提案したのは、部屋に隠しカメラを設置して撮影するというものでした。僕もその案に賛成しました。これなら確実に怪現象の正体を突き止めることができると思ったからです。
早速、家電量販店に行ってけっこうな値段のする小型のビデオカメラを買い、友人にも手伝ってもらって部屋に設置しました。冷蔵庫の向かいにガスコンロがあるのですが、その上の換気扇の脇に設置しました。そして、録画モードのスイッチを押してから、友人と一緒に外出しました。その日は友人の家に泊めてもらいました。
翌日の昼に僕はアパートに帰りました。冷蔵庫を開けて中を確認してみると、早速食材が減っていました。減っていたのは食パンでした。僕はすぐに設置していたカメラを確認しました。録画された映像を早送りで調べます。
すると、夜中の2時頃に変なものが映っていることに気づき、手を止めました。少し巻き戻してから、通常の速さで再生しました。画面の中央には冷蔵庫が映っています。はぁ、はぁ、はぁ、という息を吐くような音が聞こえました。
数秒後、画面の左側から変なものが現れました。変なものの全体像が映ったところでいったん一時停止して、観察しました。人のように顔と胴体と手足があります。身長は冷蔵庫(1メートル60センチ)と同じくらいです。
全体的に痩せていて、布切れのようなみすぼらしい衣服を着ています。靴は履いておらず裸足です。顔は冷蔵庫の方を向いているので後ろ側しか見えませんが、髪の毛はかなり量が多いようです。しかし、フサフサしているという感じではなく、モジャモジャという感じです。
「なんだこいつは?」と思いつつも、僕は再生ボタンを押しました。変なものは冷蔵庫のドアを開けると、中に顔を突っ込んで覗き始めました。息の音が速く大きくなりました。はー、はー、はー、はー、はー。そして、上のほうにある食パンを手に取り、袋から一枚だけ取り出すと食パンの袋を元に戻して扉を静かに閉めました。
食パンを手に抱えたまま、画面の右側を向き、そのまま後ろを振り返りました。ついに変なものの顔が見えました。僕はまた一時停止しました。眼がとても大きく、眉毛はなく、鼻は小さいです。口も小さいのですが、半開きで汚い歯が見えています。
僕は恐怖よりも、不潔なものを見たという嫌悪感を感じました。再生ボタンを押しました。変なものは顔を画面の左側に向けて、食パンを大事そうに抱えながら歩き始め、画面から消えました。また早送りで確認しましたが、変なものはその後にはもう映っていませんでした。
変なものの正体はわかりませんがとにかく映像も撮れたわけなので翌日に友人に見せに行きました。映像を見た友人は、これは妖怪ツマミエモンかもしれないと言いました。
僕は思わず「何だよそれは?」と聞きました。物知りで妖怪にも詳しい友人によると、餓死した人は死ぬ直前にあまりにも食べ物を食べたい気持ちが強すぎるので、成仏できずに悪霊になってしまうことがあるそうです。そのような悪霊達が集まって集合体となり悪さをするようになったのが妖怪ツマミエモンなのだそうです。
「そんな妖怪が本当にいるのか?よくわからないけど、どうすればいいんだよ?除霊でもすれば出てこなくなるのか?」
僕は意味がわからないのでイライラしてきました。友人は少し困ったような顔をしながら言いました。
「簡単には除霊できないんだよ。ツマミエモンはけっこう厄介な妖怪だからね。というか除霊は君がすることになるよ。」僕は驚きました。「俺が除霊するってどういうことなんだよ?」友人は説明しました。
「ツマミエモンを除霊するには他人の食材を勝手に食べたことを反省させなければならないんだ。そして、反省させることができるのはその食材の持ち主だけなんだよ。君の部屋にいるツマミエモンは君の食材を食べた。だから、君が説得して除霊する。」
友人の説明は意味がわかりませんでしたが、妙に説得力もあり、僕は友人に従うことにしました。友人に聞いた除霊の方法は次のようなものでした。まず、正月に冷蔵庫に豪華な食べ物をたくさん入れておきます。おせち料理や赤飯や餅などです。そして、カメラを設置して冷蔵庫を外からモニタリングできるようにしておきます。
部屋の外に出て、冷蔵庫の様子をリアルタイムで確認し続けます。ツマミエモンが現れたらすぐに部屋に入ってツマミエモンを力づくで捕まえます。そして、抵抗できないように手足を縛ったら、食べ物を盗んでいたことを問いただします。そして二度と盗み食いしないように説教します。
最後に、友人に渡された呪文を10回唱えます。これで除霊完了だそうです。ただ、一つ注意点があるということでした。それはツマミエモンは貧弱に見えますが、かなり力が強いので柔道や合気道で鍛えておく必要があるということでした。ツマミエモンを捕まえることができずに逃げられてしまうと、失敗なのだそうです。
というわけで、僕は上司に賄賂まで渡して無理やり会社を休み、正月になるまでの2週間、友人から紹介された格闘技道場で柔道と合気道の猛特訓を受けることになりました。師範の先生はとても厳しくて僕は何度も挫折しそうになりました。
しかし、アパートに帰って荒らされた冷蔵庫を見ると、何としてもツマミエモンを除霊してやるぞという熱い思いに駆られたので特訓を続けることができました。2週間という短い期間だったとはいえ、僕は見違えるようにたくましくなりました。
そして正月になりました。除霊の日にちは1月5日に決めました。まずは、冷蔵庫を空っぽにして、部屋の中から食材を全て無くしました。ツマミエモンを空腹にさせるためです。部屋から食材を無くしてから1月4日までの間、夜中に唸り声のようなものが聞こえた気がしました。ツマミエモンが空腹に苦しんでいたのかもしれません。
そして、ついに運命の1月5日になりました。僕は早朝4時に起きると、気合を入れるために格闘技道場の師範の先生の家に行き、庭で水浴びをしました。桶に入れた真冬の冷たい水を全裸で頭からかぶりました。全身がブルブル震えましたが、気合が入りました。帰り際、友人から事情を聞いている師範の先生から「幸運を祈っておる」と言われました。感動しました。
昼になり、僕はスーパーに食材の買い出しに出かけました。正月ということもあり、店内はとても賑わっていました。商品も充実していました。僕は友人に言われていた通りにおせち料理と赤飯と餅を買いました。
そして、夕方になりアパートの部屋に帰りました。応援に駆けつけてくれた友人からも手伝ってもらいながら、買って来た食材を冷蔵庫に綺麗に陳列しました。また、機械にも詳しい友人からモニタリング用のカメラを設置してもらいました。そして、夜中の12時になるまで、部屋で友人と宅配ピザを食べて優雅に過ごしました。
いよいよ、12時になりました。僕と友人は部屋の外に出ました。ツマミエモンが現れたら僕だけが部屋に入って一人で除霊をするようにと言われました。友人はドアの外で待機しているそうです。来てくれないのかよぉー。僕はちょっと寂しくなりました。
「あっ、これ忘れてた。」友人がツマミエモンの手足を拘束するための紐を右のポケットから取り出しました。「待った待った、これも忘れてたよ」友人は左のポケットからお札のようなものを取り出しました。見ると、日本語ですが訳のわからない文が数行書いてあります。除霊の最後に唱える呪文だそうです。そして、僕たちはモニターの画面を注視しました。
それは午前1時40分のことでした。ふー。はーー。ふうー。はぁあーー。ふーー。例の息を吐く音が聞こえました。
そして、画面の左側から奴が現れました。以前よりも痩せているように見えます。足取りも覚束ない感じです。そして、ツマミエモンは冷蔵庫の扉を開けました。息が荒くなります。
はあああーー。ふううーー。はあぁーー。ふーー。冷蔵庫に顔を突っ込んで物色しています。
「今だー!行ってこい!」友人が叫びました。僕はドアを開けて部屋の中に飛び込み、そのままツマミエモンに飛びかかりました。ツマミエモンの体はぶよぶよしていて、しかも手触りはベタベタしていました。僕は気持ち悪いと思いながらも、必死に倒そうとしました。
驚いたツマミエモンは持っていた餅を床に落とし、野獣のような唸り声を上げて抵抗しています。友人はツマミエモンは力が強いと言っていましたが、全然そんなことはありませんでした。まるで小学生を相手にしているような感じです。空腹作戦が功を奏したのでしょう。
僕はツマミエモンが着ている布切れをがっしりつかむと、道場で何度も訓練した背負い投げを繰り出しました。ツマミエモンの体が宙に浮かび、僕の腰の反りの勢いで回転して、床に落ちました。「決まった!見たか友人よ!」僕は一瞬除霊のことを忘れてモニターで見ているであろう友人に自慢するために、カメラのレンズに向かってガッツポーズを決めました。
そしてまた一瞬で我に返り、倒れたツマミエモンにのしかかりました。ツマミエモンはやはり野獣のような唸り声を上げたまま手足をばたつかせています。僕はポケットから紐を取り出し、暴れるツマミエモンを何とか操って手足を縛ることに成功しました。
はー。はー。はー。僕も息切れしてきました。脇には拘束されたツマミエモンが無残に転がってもがいています。僕は近づいて、「君は僕の冷蔵庫から食材を何度も盗んだだろう?わかってるんだぞ!」と問いただしました。
何も答えないので、モジャモジャの髪を鷲掴みにして顔を反らせ、もう一度同じせりふを言いました。すると、観念したのかツマミエモンは頷きました。同意したということでしょう。僕は二度と盗み食いなんてしないようにと説教しました。そして、ポケットからお札を取り出し、呪文を唱えようとしました。
と、その時、「あーーーー!」友人の叫び声でした。僕は驚いてドアのほうに意識を向けると、はー、はー、はー、はー。はー、はー、はー。息の音が聞こえました。
「他のツマミエモンが来たというのか?」何匹もいるような感じです。そして、ドアが勢いよく開けられました。そこには、ツマミエモンが10匹いました。友人が3匹に抱えられています。
「おい、早く呪文を唱えろ!」友人が必死に叫びます。僕はすぐに呪文を唱えようとしましたが、7匹のツマミエモンが一斉に飛びかかってきました。僕は必死に抵抗しましたが、やはり数には勝てず、すぐに抑え込まれてしまいました。そして、転がっていたツマミエモンの紐も外され、手を縛っていた紐で僕の手が縛られ、足を縛っていた紐で友人の手が縛られました。
僕たちは恐怖で震えていました。何をされるかわかりません。しかし、ツマミエモンたちは僕たちを縛り終えると、冷蔵庫を開けました。そして、みんな息が荒くなったかと思うと、冷蔵庫に入っていたおせち料理、赤飯、餅を全部持ち出して、部屋から出て行ってしまいました。
後には、手を縛られて呆然としている僕と友人が転がってもだえているのでした。「まあ、とりあえず、部屋に住み着いていたツマミエモンも一緒に出て行ったようだし、除霊できたことになるんじゃないかw」こんな状況にも関わらず友人が冗談を言いましたが、僕はそれだけでホッとしました。
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9.普通
ペンネーム:葉谷することもなく近くにあった喫茶店に寄ることにした。
コーヒーを頼み少しの間何もせずに過ごしていると、明らかに見て不審者とわかる、ニット帽を被った挙動不審な男が店に入ってきた。私はその男に興味を持った。
普通でない人ならば、普通でない行動を起こし、普通でない事が起こるのではないか、そんな期待があった。
男はよくわからないことをブツブツ言い、店員を怒鳴りつけた後、何も買うことなく店を出た。
その行動はただの精神異常者がするそれと何ら変わりなく、私は少しがっかりした。
私も店を出て男を追いかけることにした。
店を出て道を見渡すと、男はフラフラと道を歩いていた。私は男に見つからぬよう、その後をついて行く。
男は道にあった看板を蹴り、よくわからない言葉になっていない言葉を発する。しかし私の欲求は満たされない。
仕方なく私は声をかけた。
男はこちらを一度見た後またよくわからない言葉を発し、元の道を歩いていく。
意味がわからない
取り敢えず私はポケットに入れてあった果物ナイフを取り出し、後ろからその男の横腹あたりを刺した。
思ったよりも簡単にナイフは男の身体を通った。男の服に血が滲み出した。私の感情とは裏腹に鮮やかな紅色をしていた。
男は怯えた様子でこちらを見、また意味のわからない言葉を叫び、そのまま逃げようとする。
それはまさしく、人に刺された時に人がするであろう行動だった。
つまらない
男は走り出したが、足がもつれているのか数メートル先で転んだ。
普通の行動しかとらないのは、死への意識や恐怖が足りないからなだけではないのか、という疑問を私は抱き、淡い期待を込めて、次は男の首元にナイフを突き刺した。
男の首から滝のように血が流れ出した。
それでも男はただ普通の反応をするばかりで、首を抑えて泣きながらのたうちまわっているだけであった。
期待外れ
私の中ではもう全てが面倒になってきていた。
そして私は近くに置いてあったコンクリートブロックを持ち、うずくまる男の後頭部に振り落とした。
ただ、コンクリートが頭にぶつかった時に出る音が鳴っただけで、それ以外は特に何も起こらなかった。
そのまま男は動かなくなった。
普通でない人ならば、普通でない行動を起こし、普通でない事が起こるべきではないのか。
私の憤りが収まることはなく、もう一度動かぬ男の身体にコンクリートブロックを叩きつけ、そのままその場を立ち去った。
次の日、昨日とは別の店に行くことにした。
コーヒーを頼み、そのまま少し落ち着いていると、入り口からサングラスをかけた女性が入ってきた。
私は彼女がよくテレビで見る美人女優であることに気が付いた。
普通でない人ならば、、、
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10.繰り返す悪夢
ペンネーム:秋月いろは「怖い話が聞きたい?」
ふとした偶然から仲良くなり、共にバーで飲み始めた身なりの良い紳士は不思議そうに聞き返してきた。
僕は慌てて言い訳じみた言葉で繕う。
自分は物書きを目指しており、そういった題材を集めているのだ、と。
紳士は納得のいった顔をした後、少し思案した。
そして僕をまじまじと見つめると真剣な口調で語りだす。
「ならばとっておきの話を一つ披露しましょう。
もっともこれは、怖い……
というより、少し不思議な話なのですがね」
そう僕に告げた紳士はまるで懺悔をする罪人の様だった。
「あれは数十年前になりますかね。
暑い、とても寝苦しい夜でした。
当時はクーラーなんて気の利いたモノはなくてね。
水風呂に浸かり、オンボロの扇風機を抱え、苦心しながら寝付いたのを覚えてます。
どうにか寝付いた私ですが……
何か悪い夢でも見たのでしょうな。
急に跳ね起きたのです。
全身を覆う冷や汗。
激しく奏でる心臓の鼓動に荒い息。
今でもその時の状況は鮮明に覚えていますよ。
肝心の悪夢の内容は忘れてしまいましたがね。
枕元に置かれた時計を見れば、まだ朝には程遠い時間でした。
子供じゃあるまいし、たかが夢ごときで……
と私は苦笑しました。
さあ、もうひと眠りしよう。
そう思い私は横になりました。
その瞬間、気付いたのです。
これが、夢であることに。
あまりにも現実感のある夢。
しかし自分以外には誰も存在しない偽りの現実。
私は慌てました。
夢の中で見る夢。
目覚める事の出来ない恐怖。
私は必死に起きる努力をしました。
起きろ、起きろ、起きろ。
おきろ、おきろ、おきろ。
オキロ、オキロ、オキロ。
その度に夢の中の私は起床を繰り返します。
しかし……駄目なのです。
何度繰り返してもそこは夢の中。
決して起きれないのです。
そんな事を続けていく内に私は疲弊しました。
余程追い詰められていたのでしょうな。
このまま起きれないくらいなら……
と、当時の私は台所にあった包丁を自分の胸に突き立てたのですよ。
激しい苦痛。
肺に血が溜まっていく息苦しさ。
目の前がどんどん昏くなっていく。
それでも私はこの悪夢から抜け出す解放感に浸っていたのです。
そして……ふと気付けば、私は『起きて』いました。
どこかリアリティのない現実に一抹の不安を覚えながら。
勿論、起きた私の身体には傷一つありません。
ただ包丁を突き立てたあの痛み。
溢れる血潮とむせ返る鉄錆の臭い。
あれだけは忘れられません。
それから私はその事を忘れる様に必死に働きました。
会社を興し、
伴侶に出逢い結婚し、
子宝にも恵まれた。
人生の絶頂期、といってもいいでしょう。
そして日々の激務に疲れ寝ようとした瞬間……
気付いたのです。
これも、この人生すらも夢だという事に。
私は跳ね起きました。
そして愕然としたのです。
私の身体は、あの悪夢を見た時のまま。
若さだけが取り柄で、何もなかったあの当時のままだという事に。
胡蝶の夢。
果たして今までの人生はどこまでが夢でどこまでが本当だったのか?
私には分からなくなってしまいました。
それから私はもう一度働き始めました。
仲間を募り、会社を興したのです。
難しい事はありません。
私は一度夢の中で一通りチュートリアルを受けたのですから。
会社は瞬く間に大きくなり、今ではこうしてそこそこ贅沢な日々を送れるようになりました。
結婚?
いいえ、していませんよ。
多分、生涯結婚する事はないでしょうな。
怖いんですよ、私は。
また家庭を築き上げていった時……
幸せの絶頂期に泡沫の夢の様に全てが消えてしまうのが。
……いや、違うな。
今私がいる、この現実すら『夢の中のお話』だったと知ってしまうのが。
ねえ、君。
ここは本当に現実だと思うかね?
この世界は確固たるものだと言い切れるかね?
私は本当にあの悪夢から目覚めているのだろうか?
ああ、こんな事を真面目に話す私は少しおかしいのだろう。
だがね、こんな偶然があると疑ってしまうのだよ。
だって君は……
どこかお人好しで真面目な君はね、
前の夢の世界で、私の『息子』だったんだよ。
頭のおかしい狂人の戯言かもしれない。
それでも……君は信じれるかい?
私のちょっと不思議で、怖い話を」
そう言って紳士は、
僕と年齢の変わらない彼は……
少し悲しそうに琥珀色の液体が入ったグラスを飲み干すのだった。
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