まき なんですかこれ?どう見ても人物相関図ではないですよね?
半田 エヴァのオープニングにも出てくるけど、まきしむは「生命の樹」って知ってる?
(Credit: ©カラー, Projecty eve)まき あ、上の人物相関図みたいなのは生命の樹か! 旧約聖書かなんかで、生命の樹の実を食べると、永遠の命を手に入れられるってヤツですよね?
半田 そうそう。で、
この生命の樹に描いてあるいくつかの円の意味が、実はエヴァの登場人物の役割とピッタリ当てはまってるんだよ。
まき マジですか! 確かに作中にはリリスとかアダムとかそれっぽいワードがあったし、当時の考察班でも生命の樹との関係は指摘されてましたよね。でも各キャラと当てはめているのは見たことがない気がします。半田氏はこれがどう繋がっていると考えているんでしょうか?
半田 エヴァと生命の樹のつながりを話すには、実はある隠された「秘教」の話をしなきゃいけない。知ってる人も多いと思うけど、この「生命の樹」というのは、
カバラと深く結びついているんだ。
まき カバラっていうと、「カバラ数秘術」とかは聞いたことありますけど、そのカバラのことですかね?
半田 関係はしているけど、厳密に言うと違う。カバラっていうのはユダヤ教の神秘主義思想のこと。おおよその体系が整ったのは『ゾハール』っていう書物が書かれた13世紀くらいって言われてる。
この『ゾハール』ってのは、ユダヤ教でも旧約聖書やタルムードに次ぐ第3の重要な書物として扱われていて、カバラにとっては聖典とも言っていいような書物なの。
まき ゾハールって、ネーミングからして何か見ちゃいけない感が漂ってていいですね…(ゴクリ)。
半田 だろ?(笑) でね、このカバラには大きく分けると、
ヘブライカバラと
クリスチャンカバラっていう二つの種類があるんだ。
まき あら、カバラって一つじゃないんですね。
半田 うん、ヘブライカバラはユダヤ教徒が旧約聖書の解釈に使用するものなんだけど、クリスチャンカバラの方はキリスト教神秘主義としてのカバラ。まきしむが知ってるカバラ数秘術とか、ネットに載ってるようなカバラの情報は、たぶんこのクリスチャンカバラから派生してきたものだと思うよ。
でも今回、僕がエヴァを読み解くのに重要だと思っているカバラは、この2つともまた違ってて、あまり世間では知られていないカバラなんだ。
まき Ω ΩΩ < ナ ナンダッテー!!
クリスチャンでもヘブライでもなく、さらに隠された思想があったんですか! かなりワクワクしてきましたよ!
半田 うん。
ルーリアカバラっていうんだけどね。 近代のヘブライカバラと言ってもいいかな。
まき ルーリアカバラ……初めて聞きました。
半田 そうだよね。
この「ルーリアカバラ」の世界観こそ、『エヴァ』の世界観にものすごく影響を与えているんじゃないかと勘ぐってるんだ。
知られざる秘教「ルーリアカバラ」とエヴァの物語
(Credit:Veronika By / shutterstock) 半田 ルーリアカバラは、16世紀にイサク・ルーリアというラビが、それまでの『ゾハール』を基にしたヘブライカバラの教理に大胆に修正を加えて作ったものでね。
まき ふむふむ。で、そのルーリアカバラっていうのは、他の2つのカバラとどう違うんですか?
半田 そうだね、それを説明するために、さっそく『エヴァ』のストーリーの解釈をやってみようか。
まき おお、ここでやっとストーリーに食い込んでくるわけですね。
半田 『エヴァ』とルーリアカバラの共通点を考える上で、
一番面白いところは、なんと言っても、『エヴァ』でのリリスの描写なのね。どんな姿だったか覚えてる?
まき 上半身だけ裸で、禿げてて、下が黒いタイツの……。
半田 それエガちゃん (笑)。 じゃなく、上半身しかなくて、十字架に掛けられて、うなだれている感じだっただろ。リリスのあの描写は、たぶん、ルーリアカバラからインスピレーションを得たものじゃないかと思うよ。
(Credit: ©カラー, Projecty eve)
まき ふむふむ。で、どこらへんがそうなんでしょう?
半田 まず、『エヴァ』のオープニングで「生命の樹」が出てくるでしょ。あの「生命の樹」のモデルができたのが『ゾハール』の時代の少し前ぐらいとされていて、あれは神的人間でもあるアダムカドモンの身体を表しているのね。
で、
ルーリアカバラの教義では、今はその下半身が吹き飛んでなくなっているって言うんだ。「容器の破壊(シェビラート・ハ・ケリーム)」って呼ばれているんだけど。
リリスの体にも下半身がないでしょ。
まき うわ、確かに無い! そうか、それが「容器の破壊」を表しているってこと?
半田 そう。この「容器の破壊」という概念はルーリアカバラ独自の概念なんだよね。
まき なるほど……理にかなってますね。で、そもそも「容器の破壊」ってのは何なんでしょうか?
半田 それを説明するには、まず「生命の樹」について話をしないといけないね。

「生命の樹」とは、さっきも言ったように、アダムカドモンと呼ばれる「神的人間」の身体を表したもので、
一番下の「マルクト」から、一番上の「ケテル」まで、セフィラーと呼ばれる合計10個の霊的な容器で成り立っている(※「ダート」はセフィラーと見なされない)。
で、この10個のセフィラーをまとめて呼ぶときは「セフィロト(セフィラーの複数形)」って言うんだ。だから、「生命の樹」は別名「セフィロトの樹」って呼ばれることもある。これらは宇宙を創造していった世界霊の全体構造のようなものだと思うといいよ。
まき この図に描かれてある一つ一つの球体のようなものが霊的容器なんですね。ってサラッといったけど、そもそも霊的容器って何なんでしょ?
半田 存在を存在たらしめるために働く様々な次元領域のようなものだと思えばいいよ。
たとえば、一番下の「マルクト」は、人間が認識している物質世界のすべての領域を表していて、物質世界の活動を司っている霊的容器とされている。一方、一番上の「ケテル」の方は創造のすべてのプロセスを終えた神の玉座があるところとされている。
マルクトとケテルのあいだにある中間領域(アッシャー界、イェッツェラー界、ベリアー界)の各セフィラーは「プレーローマ」と呼ばれているところで、言ってみれば、物質宇宙を作り出していくプロセスにある様々な聖霊たちの活動領域のようなものだね。カバラでは神の様々な属性が働いているところと言われてる。
まき へ〜、神様にも「妹属性」とか「眼鏡属性」とか色々あるんですね……。
半田 それは違う属性の話だろ(笑)。で、まきしむは、リリスの顔に張りついていたお面が取れたときの顔って覚えてる?
まき はい、七つの目がついた、あの気持ち悪いやつですよね。
(Credit: ©カラー, Projecty eve)
半田 そう、イボイボつきのやつ。
七つの目の顔に逆三角形が、あたかも処刑後の「傷」のようにして刻み込まれていたよね。
あの七つ目と逆三角形はゼーレのシンボルにもなっていて、設定オタの間では「ヨハネの黙示録」に出てくる「黙示録の子羊」から取ったものだと言われているんだけど、
カバラ的には、あの逆三角形には「霊的転落」の意味があるのね。
まき 霊的転落?
半田 だいたい紀元2〜3世紀頃なんだけど、カバラの起源に当たるメルカバー神学というのがあったのね。その中では、アダムと呼ばれる人間の霊性が天上界にある7つの霊的階層を上昇していくことによって、神ヤハウエとの神秘的合一を果たすっていうストーリーになっているんだけど、そのとき、逆方向に7つの階層を下降してくる存在もいてね。
実は、それが物質世界に出現してきた人間のことだと言われているんだ。
まき なるほど。
半田 つまり、
リリスのこの顔につけられた逆三角形の「傷」には、人間という存在が神の創造行為の反対物として生まれてきたことがシンボライズされているわけ。
(Credit:Svet_Lana/shutterstock)
まき じゃあ、その下がってきた存在がリリスであり、そのリリスによって生み出されたのが人間ってことになります?
半田 そう。つまり、『エヴァ』のなかで、ターミナルドグマに磔にされていた
リリスの体とは、神的領域から転落してきた人間の霊が象徴化されたものだってこと。そのリリスの世界に神的世界の反射物として物質世界が出現しているわけだから、
リリスという存在は僕ら人間存在の起源だということになる。
まき なるほど、『エヴァ』でも、人間はリリスの子孫と言われていますしね。で、それと「容器の破壊」はどう関係してるんでしょ?
半田 まあまあ、そう急がない(笑)。上の図で、神の玉座であるケテルのところに、イスラエルの国旗のマークにもなってる六芒星の図が描いてあるでしょ?
まき カゴメのマークみたいなやつですね。
半田 そう。これは、カバラの教義にとっては、存在世界の全体が清浄で健全である状態を示してる。つまり、
世界が健全であるためには、下向きの三角と上向きの三角、つまり下降と上昇の両方の流れがバランスを持って働いていることが必要だってこと。
まき ふむふむ。
半田 でも、ルーリアカバラでは、現在の人類はこの生命の樹の下半分が破壊されていて、中間の聖霊的な領域が見えなくなっている状態にあると考えるんだ。何しろ、真ん中部分が全部吹き飛んでいるわけだから。 だから、リリスの顔には下向きの三角形しかないの。
まき なるほどそういうことか!面白いな〜。
人間界はゲンドウがつくった!?
まき じゃあ我らが主人公のシンジくんを、このルーリアカバラのストーリーに当てはめるとどういう役割になるんでしょうか?
(忘れた頃…じゃなくても登場するエヴァと生命の樹の図)半田 そうだね、
シンジくんはさっき話した人間が持った霊性の象徴そのもので、「生命の樹」の中を下降したり上昇したり、行ったり来たりする存在と言えるだろうね。カバラでは「アダム」って呼んでる。
旧約聖書では、アダムの先妻がリリス、正妻がイヴということになっているでしょ。今言ったようにリリスが下降の流れなら、イヴの方は上昇の流れに深く関わっているわけだね。
アダムはこの2人の間に挟まれて、あっちもいい、こっちもいい、でも、両方はゲットできないやって右往左往してるんだ(笑)。この旧約聖書のイヴに当たる存在が『エヴァンゲリオン』の作品中ではアダムや使徒として表現されているんじゃないかな。
まき アダムがシンジくんで、イヴがアダム……ややこしいな(笑)。でも、その霊的上昇の力であるイヴがアダムや使徒と関係してるってどういうことですか?
半田 作品中でのアダムは、第1使徒であり、使徒の生みの親で生命の実を持っている存在なわけだよね。で、その使徒が、人類を襲い、都市を破壊して、知恵の実を奪おうとする。当然、ぱっと見は完全なる悪役に見える。
まき どう見ても好意は抱けないですよねぇ。
半田 でもね、ルーリアカバラ的に見ると、使徒っていうのは実は人類を救う天使的な役割を持った存在とも解釈できるんだ。
まき え、使徒が天使?なんで?
半田 天使というものは本来、残酷なんだよ(笑)。それを説明するには、今度はゲンドウの意味を考えないといけない。
まき 突然のオープニングネタ回収(笑)。ゲンドウって、シンジくんのお父さんですよね?ゲンドウも「生命の樹」で説明できるんですか?
(Credit: ©カラー, Projecty eve) 半田 もちろん。しかもゲンドウはかなり重要な役どころだね。ゼーレが、ネルフのコンピュータシステムのマギにハッキングを仕掛けたときに、ゲンドウはプロテクトの実行を命令したよね。そのプロテクトの名称を覚えてる?
まき 「666プロテクト」でしたっけ?